宇多田ヒカル × 新世紀エヴァンゲリオン – 全シリーズの主題歌徹底解説

宇多田ヒカル × 新世紀エヴァンゲリオン – 全シリーズの主題歌徹底解説

1998年の衝撃的なデビューから20年以上。現在はイギリスを拠点に活動を続ける宇多田ヒカル。数えきれないほどのタイアップソングがありますが、特定のシリーズの主題歌を長年にわたり担当することも多いです。

例えば、キングダムハーツシリーズ。2002年リリースの「光」に始まり、2019年リリースの「Face My Fears」など、15年以上楽曲提供を続けています。

同様に、10年以上の付き合いとなったのがヱヴァンゲリヲン新劇場版4部作の主題歌。3月に最終作「シン:ヱヴァンゲリヲン劇場版」が上映され、歌詞の親和性の高さが話題となりました。

自身もエヴァファンだと公言している彼女。ファンであり、音楽の才能の塊でもある彼女がどんな思いで楽曲を書いたのか?それぞれの主題歌について紹介していきます。

なお、楽曲紹介の中で一部ヱヴァンゲリヲン新劇場版シリーズのネタバレを含みます。未視聴の方、特に最新作をまだ見ていない方はご注意ください。

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宇多田ヒカルがエヴァが好きな理由

宇多田ヒカル本人がオタクであることはファンの間では有名な話。数多くある「推し」作品の一つがエヴァンゲリオンシリーズです。

2006年に発売された週刊プレイボーイVol.23で組まれた特集にて、15歳でデビューした自分と主人公・碇シンジの心境に通づるところがあると話しています。「逃げちゃだめだ」とエヴァに乗り続けるシンジの葛藤があまりにも理解できてしまい、直視できないとも。

シンジはじめ、作中で「チルドレン」と呼ばれるエヴァンゲリオンのパイロットたちはみな思春期の最中。同世代として自分自身の悩みを投影するものとして、この作品を見ていたのでしょう。

このインタビュー記事の内容を見て、熱烈オファーをしたのがエヴァンゲリオンシリーズの監督・庵野秀明。主人公・シンジの気持ちが痛いほど理解しているという点が決め手だったそう。これから挙げる曲は、普段音楽を聞かないと話す庵野監督に大きな衝撃を与えたようです。

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宇多田ヒカルが歌ったヱヴァンゲリヲン新劇場版主題歌

「:序」「:破」のテーマ:Beautiful World

2007年上映の「:序」の主題歌として書き下ろされたこの曲。

2009年上映の「:破」では、「Beautiful World -PLANiTb Acoustica Mix-」としてリミックスバージョンが採用されています。

「:序」「:破」ともに、テレビシリーズに則りストーリーが進んでいきます。絶縁状態の父・碇ゲンドウから急に呼び出され、何の予告も準備もなくエヴァ初号機のパイロットとして敵である使徒と戦うシンジ。父に突き放され、多くの大人の助けに素直に応じることができず、思春期ならではの葛藤を抱える…。

この作品の中のシンジはどうしようもない理不尽にばかりぶつかりながらも、生き続けます。

この生きるということを願いに置き換えて曲を書いたと、リリース時のインタビューで話しています。その中で例示されているのが、作中ですでに亡くなっている(正確には彼が登場するエヴァンゲリオン初号機に融合している)母・碇ユイに会うシーン。

「あ、何だ、ただもう1度会いたかっただけだったんだ」とシンジが発するのですが、この台詞にBeautiful Worldの歌詞の世界観が詰まっていると話します。自分自身では自覚していなくても、何かを願うことが生きることが生き物の本質。自身でもよくテーマにするとインタビューにて答えています。

このテーマ、実際にどんな曲やアルバムに反映されているかというと…

  • 恋人など第三者との距離を少しでも近づきたい、というシンジの心境にも近い願いが込められている「Distance」
  • 当時彼女が怖いと思っていた青い空を征服したいと願い、「青い空」というフレーズを多く用いている曲が多いアルバム「ULTRA BLUE」
  • 「ULTRA BLUE」の収録曲でもあり「願い」というフレーズがストレートに入っている「誰かの願いが叶うころ」

など、2010年の活動休止前の曲やアルバムに多いです。「ULTRA BLUE」のリリースは2006年と、Beautiful Worldリリースのちょうど1年前にあたります。

リリース当時よく歌っていたテーマだからこそ、エヴァの世界観を壊さないように曲作りを行ったと語っています。

MEMO

ちなみに、Beautiful Worldのカップリングに入っている「Fly Me To The Moon (In Other Words) -2007 MIX-」は「Wait&See 〜リスク〜」のカップリング収録をもとにリマスターしたもの。元々はジャズの楽曲であり、テレビ版のエンディングテーマです。「:序」予告編のBGMとして使われています。

「:Q」のテーマ:桜流し

この曲がリリースされたのは2012年。2010年から「『人間活動』に専念する」という名目で音楽活動を休止をしている期間の最中でした。本人が音楽と距離を置くと決めていた時期にもかかわらず、唯一書き下ろしたのがこの曲。「エヴァを知り尽くした彼女に書いてほしい」という制作側の熱意が伝わり、楽曲提供が実現したそうです。

彼女のTwitterにも書かれていますが、庵野監督の要望でストーリーに沿ったものではなく、日々思っていることを書き起こしています。脚本は、もらっていたものの軽く見た程度ともTwitterにて回答しています。

特に大きな影響を及ぼしたのが2011年に起こった東日本大震災だと、活動再開後のインタビューで語っています。

しかし、ストーリーを深読みしていないとはいえ曲が作品の世界観に合っていると感じるファンの声が多く見受けられます。ミサトからシンジ、シンジからカヲル、シンジからアスカなど誰から誰へ向けた曲かは意見が分かれるものの、誰かへの「愛」を綴った歌詞が作品へのつながりを見出せる内容となっています。

ちなみに、「:Q」はテレビアニメ版に沿った展開をしていた前作と異なり、熱心なファンですら置いてけぼりにしてしまう話が立て続けに出てくる作品でした。

何の前触れもなく前作から14年の月日が経ち、その間眠らされていたシンジ、説明もなく眼帯をしているアスカ、綾波レイに関する真実、反ネルフ組織「ヴィレ」に所属しているおなじみのメンバー…。

一ファンでもある彼女が、もしストーリーを読み込んだうえで曲を書いていたら、また別のものが出来上がっていたかもしれません。

「シン」のテーマ:One Last Kiss


そして2021年、4部作最終章となる「シン・ヱヴァンゲリヲン新劇場版」のテーマとなったのがOne Last Kiss。今回は桜流しと異なり、全てのシナリオを読み歌詞を書いたそうです。実際の作品を見たファンからは「世界観そのまま」という声が多数挙がっていますが、制作陣は「作品ベースというより観客目線の歌詞」だとインタビューで話しています。

彼女自身、この曲のテーマは「喪失」だと、活動拠点であるイギリスのカルチャーサイトのインタビューで語っています。桜流しリリース後に経験した母・藤圭子の死を受け入れ、折り合いをつける機会にもなったそうです。同時に「喪失」はエヴァシリーズに共通するテーマだと、2021年6月に庵野監督を招いて行ったインスタライブで話しています。

シンジ自身の葛藤の象徴である一方、関わる人たちから愛情を知るきっかけにもなったエヴァンゲリオンを破壊し、新たな人生を歩むこととなったシン:エヴァ。先述のインスタライブで庵野監督が「(エヴァシリーズは)喪失から逃げずに自分の中に落とし込む物語」だと語ったように、それまでの葛藤や理不尽を受け入れ、成長したシンジを垣間見れる結末を迎えています。

曲の最後のフレーズ「吹いていった風の後を 追いかけた眩しい午後」というのは、母の死というきつい過去を受け入れることができた彼女の気持ちであり、過去の様々な感情を整理できたシンジの心境でもあるのでしょう。

最後に

エヴァンゲリオンシリーズはストーリーの伏線や、あえて真相を語っていない部分が多く、ファンの間で様々な議論がなされる作品でもあります。

作中のシナリオを読み込んだうえで曲を書いている「Beautiful World」「One Last Kiss」は彼女自身が抱えていた思いや問題と作品の展開をうまく絡めて表現しているように感じます。作品の一ファンでもある宇多田ヒカルは、新世紀エヴァンゲリオンという作品をどう解釈しているのか。この2曲を聞けばある程度理解できるかもしれません。

そしてその解釈は、おそらく庵野監督はじめ制作陣が考えている作品感と完全にマッチしているのでしょう。

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