去る2018年8月16日、76歳でこの世を去ったアレサ・フランクリン。
今年2021年5月にはドキュメンタリー映画「アメイジング・グレイス」、11月にはジェニファー・ハドソン主演の伝記映画「リスペクト」が公開され、再び注目を集めました。
本記事ではアレサ・フランクリンの生涯と、名盤4枚、代表曲7曲について解説。
クイーン・オブ・ソウルの称号を欲しいままにしたアレサについて、知りたかった情報だけをまとめました。
目次
「クイーン・オブ・ソウル」アレサ・フランクリンの生涯
アレサ・フランクリンは生前、グラミー賞を18回受賞、1987年には女性アーティストとして初の「ロックの殿堂」入りも果たしました。
さらにはアメリカの音楽誌ローリング・ストーンの歴史上最も偉大なシンガーに選出されるなど、数々の偉業を成し遂げています。
まずはアレサがどんなアーティストだったかを知るために、彼女の生涯について見ていきましょう。
※一部映画のネタバレを含みます!
幼少期〜ゴスペル歌手時代
アレサは1942年3月25日、アメリカテネシー州のメンフィスで生まれました。
牧師のクラレンス・ラヴォーン・フランクリンと、ゴスペル歌手の母親バーバラ・シガーズ・フランクリンのもと、幼い頃からゴスペルを聴いて育ちます。
しかしアレサが6歳の頃、両親は離婚、姉妹とともに父親に育てられることに。
その後12歳で父の教会の聖歌隊に入隊。説教師の父と一緒に各地をめぐりゴスペルを歌っていました。
この頃からすでに4オクターブの声域を持つ天才少女として、有名だったアレサ。
フランクリン家のリビングルームには、彼女が影響を受けたゴスペルシンガーのクララ・ウォードやマヘリア・ジャクソン、その他ソウル・ゴスペルシンガーの大スターサム・クックなどが訪れ、アレサと一緒に歌うこともよくあったといいます。
そんな環境の中でアレサは音楽の才能を育んでいきました。
「アレサは並外れた耳を持っていた」と父・クラレンスが言うように、彼女はピアノも歌い方も全て耳から吸収し、自分のものにしていったのです。
コロムビア・レコード時代
やがて18歳になったアレサは、ゴスペルで培った歌唱力を生かし、R&B歌手としてのキャリアをスタートさせます。
1960年にコロムビア・レコードと契約、「Today I Sing The Blues」でデビュー後5年間在籍するも、大きなヒット曲には恵まれませんでした。
アトランティック・レコード時代
不遇の時代を経て、1966年アトランティック・レコードに移籍。
移籍後第一弾として発表した「I Never Loved a Man (The Way I Love You )(貴方だけを愛して)」がいきなりチャート1位を獲得し大ヒットします。
その後も「Respect(リスペクト)」「Chain Of Fools(チェイン・オブ・フールズ)」「Think(シンク)」「Spanish Harlem(スパニッシュ・ハーレム)」など、R&BチャートのNO.1ヒットを17 曲も記録し、一躍大スターに。
なかでも「Respect」や 「(You Make Me Feel Like)A Natural Woman(ナチュラル・ウーマン)」は女性の共感を呼び、公民権運動や女性解放運動を応援する賛歌として解釈されました。
また、彼女自身も1960年代後半から公民権運動や女性解放運動に携わるようになります。
アリスタ・レコード時代
1970年代後半になると、時代の波にのまれるように徐々に曲がヒットしなくなり低迷期を迎えます。
そして1980年、14年間在籍したアトランティック・レコードを離れ、アリスタ・レコードに移籍。
2年後に発表した「Jump To It 」が再びR&Bチャートで1位を獲得すると、見事トップアーティストの座に返り咲いたのです。
アリスタ・レコードでのアレサは、ダンスミュージックやシンセ・ポップなどさらにジャンルの幅を広げつつ、あらゆるジャンルを歌いこなせる実力を見せつけていきます。
また、ホイットニー・ヒューストンやローリン・ヒルほか、後輩アーティストともコラボレーションするなど、精力的に活動を展開。
なかでも1987年発表のジョージ・マイケルとのデュエット「I Knew You Were Waiting (For Me)(愛のおとずれ)」は、全米チャート1位の大ヒットを記録しました。
闘病生活の2000年代
2000年代後半、アレサは体調を崩しがちになり入退院を繰り返します。
2010年からはガンとの闘病生活を送ることになり、2017年には最新アルバムのレコーディング後、健康上の問題で引退すると表明していました。
そして長い闘病生活の末、2018年8月16日、膵臓ガンにより自宅で逝去。享年76歳でした。
波乱万丈の私生活
音楽の世界では大きな成功を収めたアレサ・フランクリン。
しかし彼女の私生活はトラウマや男性上位社会との戦いの連続でした。
アレサがまだ10歳の時に大好きだった母のバーバラが心臓発作で亡くなり、幼いアレサは心に深い傷を負ってしまいます。
12歳で性的虐待による初出産、14歳で別の男性との間に第二子が生まれシングルマザーにもなりました。
さらには支配的な父親からの束縛、アレサが19歳で結婚した夫でマネージャーのテッド・ホワイトからのDV、自身はアルコール依存症にも悩まされるなど…若いうちにいくつもの壮絶な経験をしています。
アレサの歌には、怒りや悲しみ、希望、繊細さ、力強さなど細やかな感情が混在していて聴く人の心に響きます。
それはまるで、彼女が若くして経験した数々の複雑な感情がそのまま歌に表れているかのようです。
アレサ・フランクリンの名盤4選と代表曲7曲
ここからは、アレサ・フランクリンの60年に渡るキャリアの中で名盤として人気の高いアルバム4枚と、その中から代表曲を計7曲ピックアップしてご紹介します。
I Never Loved a Man the Way I Love You
1967年発表、アトランティック・レコードに移籍後の第一弾として発表されたアルバムです。
代表曲「Respect」やアルバムタイトル曲を収録した本作は、全米アルバムチャート2位を記録。その他、彼女が敬愛するサム・クックの名バラードをカバーした「A Change Is Gonna Come」も収録。
ゴスペルフィーリングを持つソウルシンガー、クイーン・オブ・ソウル、アレサを誕生させた重要な名盤です。
代表曲1:「I Never Loved a Man(The Way I Love You)(貴方だけを愛して)」
全米R&Bチャートで1位を獲得。
アルバム表題曲で、アトランティック・レコード移籍後第1弾として発表されたシングル曲でもあります。
アレサ持ち前のゴスペルフィーリングが生かされたバラード。
情感たっぷりに歌い上げるボーカルに呼応するような骨太いバックの演奏、両者のバランスが素晴らしい楽曲です。
代表曲2:「Respect」
全米R&Bチャートで1位を獲得。グラミー賞2冠を達成したアレサの代表曲。
原曲はオーティス・レディングですが、アレサが歌詞を付け加えるなどしてアレンジ。
女性目線で男女の関係が歌われ、強い女性像をイメージさせます。
ご本家のオーティス・レディングがこの曲を歌う前に、「ある少女が俺から持ち去った(曲)」だと言ったように、アレサの力強く艶のある独特なボーカルにより、カバー曲だというのを忘れてしまうくらい楽曲が新たに生まれ変わりました。
当時RCAレコードに所属していたアレサの妹キャロリン・フランクリンと、姉のアーマフランクリンもコーラスとして参加しています。
「Respect」は、アレサの意図よりも歌詞が拡大解釈され、当時盛んだった公民権運動、女性解放運動の賛歌となったことでも知られています。
Lady Soul
1968年発表、アトランティック移籍後3作目となったアルバムです。
前述の「I Never Loved a Man(The Way I Love You)」よりも洗練された曲が多くバラエティーに富んだ内容で、お気に入りに挙げるファンが多い本作。
ここでご紹介する2曲の他にも、アレサのパンチある歌声が堪能できるジェイムス・ブラウンのカバー「Money Won’t Change You」、大ヒットしたファンキーソウル「Since You’ve Been Gone(Sweet Sweet Baby)(愛するあなたを失くして)」…など、全編にわたり楽曲の内容が充実している名盤です。
代表曲3:「Chain Of Fools」
アルバム1曲目に収録、全米R&Bチャート1位を獲得。
作曲はR&Bシンガーでソングライターのドン・コヴェイです。
イントロからトレモロの効いたギターが印象的で、アレサのボーカルとコーラスの掛け合いもかっこいいリズムナンバー。
代表曲4:「(You Make Me Feel Like)A Natural Woman(ナチュラル・ウーマン)」
全米チャート8位。
ソウルフィーリングの中にも白人よりのセンスが見られる本作は、キング&ゴフィンによるもの。
キング&ゴフィンとは、キャロル・キングと夫のジェリー・ゴフィンのソングライターチーム。
1960年代にThe Chiffons(シフォンズ)やダスティー・スプリングフィールド、ライチャス・ブラザーズなど数多くのアーティストの楽曲を手がけ、チャート入りするヒット曲を次々と生み出しました。
「あなたといるとありのままの自分でいられる」という歌詞が女性の共感を得て、女性解放運動を象徴する応援歌となりました。
アレサのゴスペルを基盤に持つ伸びやかなボーカルが、存分に発揮された代表曲です。
Aretha Now
1968年発表。アレサの絶頂期とされるアトランティック・レコード時代4枚目の本作は、
全米R&Bアルバムチャートで1位を獲得しました。
全体的にアッパーで明るい曲が多く収録されています。
代表曲5:「Think(シンク)」
全米R&Bチャートで3週連続1位を獲得。
アレサの初出演映画「The Blues Brothers(ブルース・ブラザーズ)」(1980年)で世界的に人気が再燃した「Thinks(シンク)」の原曲が収録されています。
ダイナーの女主人に扮するアレサが昔の音楽仲間の頼みでバンドに参加しようとする夫に、「よく考えなさいよ!」と迫力満点に歌うシーンは、圧巻の一言。
本作に収録されたオリジナル・バージョンは、映画よりも落ち着いた速さで録音されているので、「ブルース・ブラザース」のサウンドトラックと聴き比べてみるのもおもしろいです。
代表曲6:「I Say A Little Prayer(小さな願い)」
全米R&Bチャート3位。
Carpenters(カーペンターズ)の「(They Long to Be)Close To You(遥かなる影)」の作者としても知られる、バート・バカラック作曲で、原曲はディオンヌ・ワーウィックが歌っています。
ソウルフルなナンバーから、この曲のようにソフトなポップスまで幅広く歌いこなすアレサの実力がよく分かるカバーです。
▼あわせて読みたい!
Young, Gifted and Black
1972年発表、全米R&Bアルバムチャートで2位を獲得しています。
当時盛り上がりを見せていたニューソウル運動に呼応すべく、60’sソウルとは違う新しいブラックミュージックを取り入れた本作品。
アルバムタイトルの邦題は「黒人讃歌」、ニーナ・シモン作のタイトル曲をアレサが高らかに歌い上げています。
その他にも、フリーソウルのようなバカラック作の「April Fools」や、スウィートなミディアムナンバー「Day Dreaming」や人気曲「Rock Steady」など、どれもこれも洗練された楽曲ばかり。
バックの演奏には、コーネル・デュプリー(ギター)、チャック・レイニー(ベース)、バーナード・パーディ(ドラム)、ダニー・ハサウェイ(オルガン)といった当時の鉄壁と称されるミュージシャンを起用した意欲的な作品です。
ニューソウルとは、ジャズの要素を取り入れた複雑なコード進行や、社会的なメッセージを込めた、当時としては新しいタイプだったソウルミュージックを指す和製英語です。
代表曲7:「Rock Steady(ロック・ステディ)」
全米R&Bチャート2位。作詞・作曲ともにアレサ・フランクリン本人が手がけています。
本作は永遠のR&Bクラシックとして人気の高い曲。
グルーヴィーなベースラインやクールなダニー・ハサウェイのオルガン、ホーンセクションのアンサンブルなど、聴きどころ満載の、ダンサブルなファンキーチューンです。
日本では安室奈美恵が同曲をサンプリングしてカバーしています。
映画「アメイジング・グレイス」
今年5月に日本でも上映が開始した本作は、1972年1月13、14日の2日間にわたり行われたLAニュー・テンプル・ミッショナリー・パプティスト教会でのゴスペルライブ映像です。
アレサが自身の原点に立ち返ってゴスペルライブを開催、その熱狂と歓喜に包まれた礼拝の様子を映像と音に収めようという試みでした。
しかし当時、映像は編集の技術的な問題により未完のままお蔵入りしてしまいます。
監督がカットの始めと終わりにカチンコを使用しなかったため、音と映像にズレが生じたのが原因です。
一方、ライブアルバム「Amazing Grace The Complete Recordings」は当時2枚組で発売され、アレサ初のゴスペルアルバムとして世界で300万枚を売り上げるヒット作となりました。
同アルバムは彼女のキャリアの中で最も売れたアルバムとなっただけではなく、ゴスペルアルバム全体のなかでも、史上最高の売上を記録しています。
礼拝には当時レコーディングでロサンゼルスに滞在していたThe Rolling Stones(ローリング・ストーンズ)のミック・ジャガーの姿もありました。
その貴重な映像が、約50年の時を経て現代の編集技術により映画化されたのです。
本作は、ただいま公開中のアレサの伝記映画「リスペクト」から続くストーリーなので、2作続けて観ることをおすすめします。
さいごに
クイーン・オブ・ソウル、アレサ・フランクリンの生涯、名盤と代表曲についてご紹介しました。
黒人で女性であるという、当時は社会的に弱い立場だったアレサ。
彼女が数々の苦境を乗り越え、神から授かった才能によって道を切り開き、黒人音楽と公民権運動に与えた影響は計りしれません。
アレサの残した功績や歌声は、これからも人種を超えて多くの人々からリスペクトされ続けるでしょう。