ジャンルや方法にとらわれない独自の表現で、多くのファンを魅了するシンガーソングライター・神山羊(かみやまよう)。
ボカロPとして楽曲を投稿したり、80年代風のアレンジと現代的なポップサウンドを組み合わせたりと、音楽の新たな可能性を常に模索し続けているクリエイターです。
この記事では、そんな彼の音楽制作に対するこだわりや「YELLOW」をはじめとする代表曲の魅力に迫ります。
目次
神山羊の経歴
ボカロP・有機酸と神山羊の誕生
神山家のみんなありがとな pic.twitter.com/cPVPhiyYcy
— 神山 羊 (@Yuki_Jouet) April 24, 2022
神山羊は中学生の時に初めてバンドを組み、自ら音楽を奏でる楽しさに目覚めます。高校に進学してからもバンドを続け、真摯に楽器や音楽と向き合う日々を続けていました。
しかし、就職を機に一旦は音楽から離れた生活がスタート。その後退職し上京しましたが、何かアテがあったわけでもないと当時の事をインタビューで語っているように、彼はすぐさま本格的な音楽活動を始めたわけではありませんでした。
音楽とは別の仕事をしながら東京で暮らしていた神山は、Steinberg社のDTMソフト・Cubaseとの出会いをきっかけに初めて作曲に挑戦します。趣味として音楽制作に取り組んでいくなかで生まれたのが、ボーカロイド・初音ミクのための楽曲「退紅トレイン」でした。
2014年、彼が有機酸名義で初めてニコニコ動画に投稿した「退紅トレイン」は、多くの歌い手がカバーしたことで爆発的に人気が広がっていきました。この楽曲はボカロP・有機酸の名が広く認知されるきっかけとなった楽曲でもあり、投稿から8年が経とうとしている現在、動画のコメント欄を覗くと「後の神山羊である」「伝説はここから」などの書き込みを見ることができます。
ボーカロイドを介して表現することに対し可能性を感じた神山は、仕事を続けながら楽曲の制作・投稿を少しずつ行っていきました。暫くは趣味の範囲を出ないまま活動を続けていましたが、とある人物との出会いをきっかけに、神山のボーカロイドに対する向き合い方は大きく変わることになります。
その人物とは「シャルル」が爆発的にヒットした人気ボカロP・バルーン。即売会で初めて知り合い、イベントでの合作や食事を通じて交流していくなかで、神山は本格的にボカロPとして活動しようと考えるようになったのだとか。バルーンは現在シンガーソングライター・須田景凪(すだけいな)として活動しており、独自の世界観とこだわりをもつサウンドが根強い支持を集めています。
有機酸としていくつも楽曲を投稿していくうちに、神山は「ボーカロイドを通してではなく、自分の声で音楽を表現したい」と考えるようになりました。それは、彼がインターネットという枠だけにとらわれず、日本のポップスとして多くの人に聴いてもらえる作品づくりを意識した最初の瞬間だといえるでしょう。その後、ボーカロイドではない楽曲を発表する際の名義として神山羊の名前が使われるようになります。
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大ヒット曲「YELLOW」を含む1stミニアルバムを発売
2018年11月にYouTubeへ投稿された「YELLOW」は、シンガーソングライター・神山羊の代名詞とも言われる名曲です。MVのアニメーションは、神山がボカロP・有機酸時代から共に制作をおこなっているイラストレーター・東洋医学が担当しています。
投稿から3ヶ月で再生回数が1000万回を突破し、2022年6月時点で1億回超えを達成。日本国内はもちろん、海外のリスナーにも根強い人気を誇っています。
楽曲全体に満ちている圧倒的なグルーヴ感は、聴きながら思わず身体を揺らしてしまうこと間違いなし。親の影響で90年代のポップスやR&Bをよく聴いており、自身も「ノリが良く踊れる音楽」を好んで作るという神山らしさに溢れた1曲です。
そして2019年4月、神山は「YELLOW」をはじめとする色彩豊かな8曲を収録した1stミニアルバム「しあわせなおとな」を発表。深海に沈んでいくような寂しさと独特のサウンドが魅力の「青い棘」や、神山が自身のお気に入りである映画「LEON」をテーマに書き上げた「MILK」など、写真集のページを捲っているかのようにさまざまな風景が楽しめるアルバムです。
また、同アルバム収録曲である「青い棘」は、MVに初めて実写が取り入れられたことでも話題を集めました。King GnuやTempalayの作品にも携わっているレーベル・PERIMETRONがアートワークを担当しており、鬱々としながらも美しさに心奪われるような映像は必見です。
神山が自身の人生を振り返りながら、幸せとは何かということを強く意識して制作したというアルバム「しあわせなおとな」。人それぞれ違う幸せの形や、日々の暮らしにそっと寄り添ってくれる音楽をぜひ味わってみてください。
メジャーデビューと苦悩を経て誕生したフルアルバム「CLOSET」
2020年3月、神山は「群青」でメジャーデビューを果たします。TVアニメ「空挺ドラゴンズ」のオープニングテーマとして制作されたこの曲は、踊るようなベースラインや爽やかなギターの音色、神山のまっすぐに突き抜けていくボーカルが魅力です。
シンガーソングライターとして新たな一歩を踏み出した神山ですが、その直後、国内外で新型コロナウイルスが流行し始めます。ライブやコンサートなどの音楽イベントが軒並み中止になるのはもちろん、日常生活においてもマスク着用の義務化や外出制限など、さまざまな忍耐を強いられるようになりました。
誰も想像できなかった「異常」とも呼ぶべき日常が始まったことで、神山は音楽との向き合い方が分からなくなり苦しい時期を過ごします。
一度は「なんで音楽を作らなきゃいけないんだろう?」と考えるほど追いつめられたとインタビューで語っていますが、自分と向き合う時間が増えたのを機に音楽との関わり方が大きく変化。それまで「あまり自分のことを書かない」スタンスだった楽曲制作が、フィクションよりもリアリティのあるものを生み出す行為へと変わっていきました。
そしてメジャーデビューから2年後、2022年4月にリリースされたのが1stフルアルバム「CLOSET」です。
同アルバムは、インディーズ時代の楽曲「YELLOW」と「青い棘」、「CUT」の3曲が、新しいアレンジを加えた「CLOSET ver.」として再録されています。楽曲の発表から数年を経て、表現の幅を格段に広げた神山のボーカルにぜひ注目してみてください。発声や歌詞へのアプローチなど、多くの点で違いを発見することができます。
また、遊び心が存分に散りばめられた新曲も必聴です。楽器のみで演奏されるインスト曲を好む神山は、同アルバムでも楽器の一種として生活音や環境音をひんぱんに使用。ノック音や煙草の燃える音など、身の回りに溢れている音が楽曲に取り入れられているので、聴きながら脳内に映像が浮かんでくるような感覚を味わえます。
R&Bやダンスミュージックなど多様な音楽をルーツとし、それぞれの良さを吸収して自分なりの表現を生み出す神山が、これからどのような音楽を世に放っていくのか期待が高まる名アルバムです。