2020年9月29日、BUMP OF CHICKEN(バンプオブチキン)がポケモン公式YouTubeチャンネルとコラボしたMV(ミュージックビデオ)の「Acacia(アカシア)」が話題となりました。
『【Official】Pokémon Special Music Video 「GOTCHA!」| BUMP OF CHICKEN – Acacia』と題されて投稿されたアニメーションMVは、わずか一週間で1000万回再生を突破する人気となり、Twitterなどの各種SNSでも大きな反響を呼びました。
BUMP OF CHICKENの代表曲でもある「天体観測」のMVは、公開から10年ほどで9000万回再生となっているので、今回のアニメーションMVの勢いには驚かされるでしょう。
上記で紹介した曲もそうですが、ここ最近はアニメーションを用いたMVが目立つようになりました。昔からアニメのOP・ED曲のタイアップとして曲を使用することはありましたが、その曲のためだけにアニメーションを制作するというのは、ここ数年の出来事ではないでしょうか。
しかし、なぜこうもアニメーションMVが人気となったのでしょうか。今回の記事では昨今のアニメーションMVについてヒットの理由を交えながら、人気の曲をピックアップしてみました。まだアニメーションMVに触れたことがない人は、ぜひ参考にご覧ください。
目次
AMV(アニメミュージックビデオ)とは
アニメミュージックビデオ、アニメーションMV、AMVとも呼ばれていますが、名前の通りアニメーションと音楽をかけ合わせた映像作品のことを指しており、これはアニメ作品のOPやEDも該当します。
音楽アーティストによるプロモーションビデオ(PV)とは違い、実写ではできなかった映像を絵で表現することができるので、より表現の幅を広げることができます。ただ、実写だからこそできることもあるので、どちらが良いとは比べることはできません。
AMVが今人気の理由
AMVは、それほど最近のものではありません。多彩なイラストや映像を音楽とかけ合わせることは、昔からある技法の一つです。その分野の専門的な技術がなくても、完成度さえ求めなければ、今では素人でもある程度の知識があれば作れてしまいます。
そんなAMVが今、話題を呼ぶようになりました。若者を中心に人気を集め、AMVを中心とした映像作品を制作するアーティストも増えつつあります。先程も言いましたが、AMVそのものはそれほど目新しいものではありません。これにはどうやら理由があるようです。
AMVコミュニティにYouTubeが参入
では、なぜこうも人気を集めるようになったのか。その理由は、YouTubeの登場が要因の一つとして挙げられるのではないでしょうか。YouTubeに限らず、AMVを扱うことができるコミュニティというのは多数存在します。知名度で言えば『ニコニコ動画』『AMV JAPAN』『ANIMEMUSICVIDEOS.ORG』といった場所が該当するでしょう。
しかし、これらコミュニティは、それほど一般層に浸透しているわけではありません。よっぽどでない限り、このコミュニティを利用してお気に入りのAMVを探そうとする人はいないでしょう。
そこで登場したのがYouTubeです。様々なジャンルを取り扱うことができるYouTubeは、アニメコンテンツに興味がない人でも多くの人が利用しています。おおよその数になりますが、YouTubeの全世界の月間利用者数は20億人にもなるそうです。
本来、コミュニティに参加してようやく触れられるAMVが、今ではその壁が取り払われ、誰でも視聴することができるようになりました。自分のお気に入りからの関連動画として、別のAMVを観ることができるようになり、YouTubeという場所はAMVを世に知らしめる存在であることは間違いないでしょう。
AMVならではの表現力
アニメや漫画作品は実写には向かないと考える人は少なくありません。原作キャラクターの印象や世界観が壊れてしまうという意見ももっともですが、何よりも表現力が狭まってしまうことにあるのではないでしょうか。
もちろん今ではCG技術なども発達しており、それなりの演出をすることが可能となっています。しかし、そこに実写を組み合わせると、違和感を覚えてしまいます。全ての実写化作品がそうではありませんが、演技をする俳優と演出に「あれ?」と疑問符を浮かべる人もいるでしょう。
アーティストによっても違いますが、曲の中にはやや幻想さを感じさせるものが増えてきた印象です。それらをMVで表現しようとすると、やはり限界があります。しかし、AMVであればその限界を飛び越えることができるでしょう。
アニメーションならではの独特な表現で、海の底に潜っていることも、空を自由自在に飛び回ることも可能です。その表現に限界はなく、アーティストが思い浮かべる表現をそのまま形にすることができる。実写が劣っているわけではありませんが、AMVならではの表現力が、より音楽を昇華させる新しいコンテンツに繋がっているのではないかと思います。
アーティストのデビューも要因
YouTubeの登場によって、多くのアーティストが参入するようになりました。そこにはメジャーとインディーズの壁は無く、音楽に限らず、様々な分野で新しいエンターテイメントとして確立されています。
AMVもその内の一つです。YouTubeが新たなコミュニティの場として誕生し、それによって多くの人がAMVを観る機会が増えてきました。その知名度や人気度によってアーティストとしてデビューをする人も少なくありません。
そうするとメディアもそのアーティストに注目します。各種音楽番組やインタビューなどを通し、より一般層に馴染み深いメディア媒体からアーティストを知るきっかけとなります。
最近では女装タレントとしても有名なマツコ・デラックスさんが司会を務める『マツコ会議』において、AMVの人気を追求するテーマで特集が組まれました。
その時に紹介されたアーティストは、「ずっと真夜中でいいのに。」の「秒針を噛む」のMVを手掛けたWabokuさん。「ヨルシカ」の「だから僕は音楽を辞めた」のMVを手掛けているぽぷりかさん。「YOASOBI」のMVを手掛ける南條沙歩さん。
名前を挙げたアーティストは、どれもAMVの最先端を走る話題性を持った人たちばかりです。また、番組の司会を務めるマツコさんの知名度は言わずもがな。
YouTubeといったコミュニティの増加だけでなく、アニメーションをメディアに取り上げられるようになったのも、人気の理由として挙げられるでしょう。
AMVで人気・話題の曲を紹介
現在の音楽シーンにとって、AMVは無くてはならないコンテンツの一つとなりました。プロやアマチュア問わず、様々なAMVが世に発信されています。
今回は数多くあるAMVの中から、人気や話題を集めている曲を紹介します。アニメーションによって無限大にも広がる映像の数々をぜひご覧ください。
秒針を噛む/ずっと真夜中でいいのに。
「ずっと真夜中でいいのに。(ずとまよ)」が、自身のYouTubeチャンネルで初めて投稿した作品「秒針を噛む」。ヴォーカルのACAね(アカネ)さんが中心となって活動する音楽ユニットの代表曲と言っても過言ではありません。このAMVを担当しているのは、アニメーション作家のWaboku(ワボク)さんです。1秒間に12枚のイラストを描き、4分半で計算した総枚数は約3200枚にも達します。作成期間は1曲で2ヶ月~3ヶ月となっており、こだわりを強く感じます。感情の表現に乏しい少女が描かれたAMVは、目玉をモチーフにしたキャラクターなど、所々で鬱を感じさせるような内容です。しかし、ACAねさんの歌声がそれを払拭しており、なんとも不思議な魅力が詰め込まれた作品です。
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Shelter/ポーター・ロビンソン&マデオン
アメリカのDJ・プロデューサーを務めるポーター・ロビンソン(Porter Robinson)さんとフランスのミュージシャンとして活躍するマデオン(Madeon)さんによる共作「Shelter」。日本文化、特にアニメやゲームといったコンテンツを好きなポーターが、アニメーションスタジオ『A-1 Pictures』にオファーしたことで実現した短編アニメ作品です。どこか切なさを感じさせる世界観とSF的な設定が、一人の少女を中心に描かれています。YouTubeに投稿されている曲の概要には詳細な設定が掲載されており、少女の台詞と合わせて視聴すると、その作品の深さを感じられるかもしれません。
Mela!/緑黄色社会
男女混合の4ピースポップロックバンド・緑黄色社会の楽曲「Mela!」は、海外でも人気の高いTVアニメ『僕のヒーローアカデミア』第4期『文化祭編』のEDテーマ曲として使用されました。原作に合わせてAMVの内容はヒーローを目指すオオカミ少年を題材にしたものとなっています。このアニメーションには総勢9名のイラストレーター、アニメーターが参加しており、多くの童話の中で悪役にされてしまったオオカミ少年がヒーローになるべく立ち上がり、勇気を振り絞って走り出そうとうするストーリーには感動です。童話をモチーフにしながらも、現代に通じる世界観設定は、ファンタジーさを感じさせないリアリティを与えてくれます。動画を最後まで観た後には、心が温かくなるような気持ちよさを感じられるかもしれません。
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言って。/ヨルシカ
ヨルシカの「言って。」は、デフォルメされた少女が様々な動きを見せるAMVとなっており、アニメ映画「秒速5センチメートル」「君の名は。」「天気の子」で話題を集めた新海誠監督が高く評価した作品です。タイトルの通り、所々に呼びかける部分が存在しており、それが何を意味しての言葉なのか、考察してみると面白いかもしれません。背景は描いたものではなく、実際にある場所を撮影したものが使用されていますが、デフォルメされた少女との違和感は無く、自然と溶け込んでいるのも良いですね。
だから僕は音楽を辞めた/ヨルシカ
続いての紹介も同じくヨルシカによって制作された楽曲です。そのタイトルは「だから僕は音楽を辞めた」です。先程紹介した「言って。」と違い、パステルカラーで描かれた3Dの世界が印象的な作品となっています。3D映像も日々進化していますが、人によってはまだカクカクとしたぎこちないものと思われがちです。しかし、このAMVはそのぎこちなさも払拭させる柔らかさが表現されており、シンプルな少年少女が描かれただけの作品であるにもかかわらず、とても印象深い楽曲です。タイトルからネガティブな印象を感じるかもしれませんが、歌詞と映像から伝わるのは全く異なるものです。「音楽を辞めた」というフレーズからこの映像の物語を考えてみると、様々な発見があるかもしれません。
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YELLOW/神山羊
ボカロPとして活動していた有機酸が、神山羊として名義を変更してから初めて投稿した「YELLOW」です。イラストレーターの東洋医学さんが担当した同楽曲は、少年がもう一人の自分と向き合う姿が描かれています。この動画で注目すべきは少年の手の動きです。なめらかな手の動き一つ一つが少年の言葉を表現しているように感じさせます。また、パントマイムのような緩やかな動きにも、少年の性格を表現すると同時に曲全体の雰囲気を物語っており、強いメッセージ性が込められた楽曲です。
平行線/酸欠少女さユり
TVアニメと実写ドラマとして放送された「クズの本懐」のEDテーマ曲として使用された、酸欠少女さユりさんの「平行線」。2.5次元パラレルシンガーソングライターとして活躍し、RADWIMPSの野田洋次郎さんが提供した「フラレガイガール」でも話題を呼びました。自身の歌う姿とアニメーションを駆使した演出に違和感はなく、万華鏡や割れた鏡が人間模様を上手く表現しています。この曲のタイトルにある「平行線」は、曲全体のテーマにもなっています。好きな人と交われない「もどかしさ」や、自分の望みと現実が交われない「もどかしさ」。しかし、それが全てマイナスなものではなく、平行線の先には「希望」があるとも本人は語っています。そのテーマからさユりさんは、この曲の歌詞には弱さを肯定するという想いを込めたそうです。万華鏡や割れた鏡の演出も、その想いを象徴したものなのかもしれません。
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ドラマツルギー/Eve
Eve(イブ)が手がける「ドラマツルギー」とは、実際にある単語を用いた言葉です。社会学の用語の一つでもあると同時に、演劇・戯曲の創作に関する方法論のことを指します。この映像に登場するのは周囲によって傷ついてしまい、生きることに臆病になってしまった少年です。誰もが仮面を被る世界は、現実の私たちの世界に通じるものがあり、特徴的なイラストでありながらもどことなく親近感が湧くのではないでしょうか。映像の特徴として、現実を一つの劇場として置き換えている設定が、より影響しているのかもしれません。その世界で少年は闇を抱えながらも、劇場から逃げ出したいとする葛藤な気持ちが描かれており、歌詞もその少年を代弁するかのように綴られています。
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新世界/BUMP OF CHICKEN
お菓子メーカーとして有名なロッテの70周年記念企画「ベイビーアイラブユーだぜ」のテーマソングに起用された、BUMP OF CHICKEN(バンプオブチキン)の「新世界」。このアニメーションは、「鋼の錬金術師」「僕のヒーローアカデミア」といった有名アニメを手がけた『ボンズ』が担当しました。登場キャラクターはなんと60人以上という豪華さ。一つのチョコから始まる出会いの物語が描かれており、日常風景でありながらコミカルな要素がこれでもかと詰め込まれた作品です。個性豊かな登場人物一人一人に様々な表情が描かれており、BUMP OF CHICKENのちょっとユーモラスを加えた歌詞に、観ている側もつい楽しくなってしまうAMVとなっています。
Acacia/BUMP OF CHICKEN
続いての紹介も同じくBUMP OF CHICKENによるAMV「Acacia」です。ポケットモンスター(ポケモン)とコラボした同楽曲は、YouTubeで公開されるや否や、バンプファンもポケモンファンも熱狂させる映像となっています。AMV紹介文にもある「GOTCHA」はポケモンに関連深い単語となっています。これは「I got you」を略した言葉で、「捕まえた」「分かった」「了解」という意味が含まれています。ポケモンを「ゲットする」という意味だとは思いますが、コラボに対するBUMP OF CHICKENからの返答のようにも捉えることができますね。映画「スタンド・バイ・ミー」のパロディから始まり、新旧歴代のポケモンキャラクターやトレーナーたちが次々と登場。わずか3分ほどの映像の中に、とてつもない情報量が詰め込まれており、大人も子供も楽しめる内容になっています。
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夜に駆ける/YOASOBI
小説を音楽にするユニットYOASOBI(ヨアソビ)の代表曲の一つでもある「夜に駆ける」。このアニメーションを担当したのは、アニメーション作家の藍にいなさんです。男女の複雑な恋愛を描いた同作品は、独特なタッチで描かれています。彼らの小説を音楽にするというコンセプトを象徴するような映像となっており、どことなく懐かしさを感じさせます。終始上手くいかなかった男女の恋愛は、終盤で一つの答えを見つけ出します。物語としても、この後はどうなるのかと魅せられる映像には、流石と言うべきでしょう。
ハルジオン/YOASOBI
2020年5月にリリースされたYOASOBIの「ハルジオン」は、本番まで一度も会わずに活動するフルリモート劇団『劇団ノーミーツ』の第二回長編公演「むこうのくに」の主題歌に起用されました。まるでウイルスに感染したかのように開かれ続けるウィンドウ画面。立ち並ぶ標識や、絵文字。一人の少女を軸に描かれた映像は、独特でありながらも強いメッセージ性を感じる内容になっています。しかし、歌詞に込められた恋愛模様を意識しながら観てみると、なるほどと気付ける表現が多数散りばめられています。恋愛小説を読んでいるような、不思議な気持ちにさせられるでしょう。
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Saturnz Barz(Spirit House)/Gorillaz
イギリスロックバンドとして活躍する、Blur(ブラー)のデーモン・アルバーン(Damon Albarn)と、イラストレーターのジェイミー・ヒューレット(Jamie Hewlett)によって結成されたバンド・Gorillaz(ゴリラズ)。今までの2次元・2.5次元によるAMVとは違い、「Saturnz Barz(Spirit House)」は360度の角度からアニメーションを楽しめる作品となっています。説明の通り、様々な角度から映像を楽しめることができるため、パソコンではマウス、スマホであればタッチをし続けることで、映像を自由自在に見渡せるようになっています。現実の世界観でありながらも、そこにはファンタジー要素が多数盛り込まれており、様々なギミックを楽しむことができます。観るたびに新しい発見をすることができる、技術とひらめきによって誕生した、新しい形のAMVとなっています。
アニメーションはもはや無くてはならない
アニメーションを用いたMVが人気の理由、そして様々なアーティストのAMVを紹介しましたが、もはやAMVは現在の音楽シーンに無くてはならない存在として確立しています。もちろん、アニメーションを使わない実写のMVにも魅力はあり、どちらにも一長一短あるかと思います。
Gorillazの「Saturnz Barz(Spirit House)」のような360度を楽しめるという、昔では考えられないような技術が導入されるようになり、MV一つでも様々な工夫がされるようになりました。AMVだからとあまり観たことがない人は、ぜひこの機会に触れてみてください。
それではここまでご覧いただきありがとうございます。