2021年8月、待望の新作“DONDA”をリリースしたカニエ・ウェスト。
世界的なヒップホップ・アーティストで、ラッパーとしてもプロデューサーとしても、21世紀の音楽シーンを牽引してきた最重要人物の1人です。
音楽以外にもファッションリーダーとしても注目を集め、また政治的なアクションでもしばしば世間を騒がせてきたカニエ。
この記事ではそんなカニエ・ウェストについて、様々な角度から解説していきたいと思います。
目次
カニエ・ウェストの音楽
まずは彼の本業である音楽に関して。
彼のキャリアはラッパーとしてではなく、音楽プロデューサーとしてスタートしています。
カニエが音楽シーンに登場したのは、2000年代屈指の名盤と名高いジェイ・Zの“The Blueprint”(2001)でのプロデュースがきっかけです。
収録曲のうち4曲にクレジットされたカニエは、”The Blueprint”の大成功によって一躍注目されることに。
これを機にカニエは当時通っていた大学を中退し、専業音楽家としての道を歩み始めます。
新進気鋭のプロデューサーとして様々なアーティストと共演した後、2004年、アルバム“The College Dropout”(2004)で満を持してソロ・アーティストとしてデビュー。
“The Blueprint”のプロデュースでも見せた類稀なるサンプリングセンスを遺憾なく発揮したこのアルバムは、デビュー作ながら各メディアから肯定的に受け止められます。
全米2位のヒットを記録し、2005年のグラミー最優秀ラップ・アルバム賞を受賞。さらには2020年にローリング・ストーン誌が発表した「史上最も偉大なアルバム TOP500」において第74位にランク・インした歴史的名盤です。
続いて発表された2ndアルバム“Late Registration”(2005)はクラシック音楽を大々的に導入した意欲作でありながら、自身初となる全米1位を10週連続で獲得し、前作を上回る成功を勝ち取ります。
さらにこの作品でカニエはグラミー賞に8部門でノミネートし、うち3部門で受賞。その評価を絶対的なものにします。
その後も“Graduation”(2007)、“808s & Heartbreak”(2008)と名作アルバムを立て続けに発表し、音楽界をリードしてきたカニエですが、その集大成として発表されたのが、2010年リリースの5枚目となるアルバム、“My Beautiful Darkness Twisted Fantasy”です。
ジェイ・Zやレイクウォンといったヒップホップ界のスターだけでなく、エルトン・ジョンやボン・イヴェールといったジャンルの枠を超えた豪華なゲスト・アーティストを迎え、1年以上の歳月をかけて制作されたこの作品。
カニエ・ウェストの最高傑作としてメディアの絶賛を浴び、辛辣な批評で知られるあのピッチフォークは実に8年ぶりとなる10点満点の評価を下しました。
2010年を代表する傑作との呼び声も高く、先ほど名前を挙げた「史上最も偉大なアルバム TOP500」では並み居る古典的名盤に並ぶ第17位に輝いています。
この”My Beautiful Dark Twisted Fantasy”によってヒップホップのカリスマとしての地位を不動のものにしたカニエですが、以降はインダストリアル・ロックに接近した“Yeezus”(2013)や、宗教色の強い“Jesus Is King”(2019)といった実験的な作風に挑戦するように。
また、この時期から私生活や政治的発言といった音楽以外の話題が目立つようになり、作品の発表ペースも徐々に落ちていきます。
そんな中、度重なる発表延期の末2021年8月に発表された最新作“Donda”で、カニエは世界152カ国でチャート首位を獲得。ヒップホップ・レジェンドとしての貫禄を見せつけました。
この”DONDA”は評論家には好意的には受け入れられず賛否両論を巻き起こしましたが、依然としてカニエ・ウェストが音楽シーンの中心的な存在であることは疑いようのない事実でしょう。
ファッションリーダー、カニエ・ウェスト
さて、カニエ・ウェストの存在感は、天才アーティストとしてだけではありません。
彼はヒップホップ界を代表するファッション・リーダーとして、彼の着る服や彼のファッション・センスは度々注目されてきました。
有名ミュージシャンのファッションが時代のアイコンとなった例はしばしばありますが、カニエのセンスもその例に漏れず、多くのフォロワーを生んでいます。
ジーンズで知られるフランスの有名ブランド、「A.P.C.」とのコラボからも、彼のファッションが単にヒップホップ・ファンからの支持だけでなく、1つのスタイルとして確立されていることは明らかでしょう。
また、彼はファッション・デザイナーとしても活躍しています。
カニエの愛称「Ye」から名付けられた自身のファッション・ブランド「YEEZY」を立ち上げ、スニーカーやアクセサリーといったアイテムを展開。
先ほど名前を挙げたカニエの最新アルバム”DONDA”のリスニング・パーティでカニエ自身が着ていたのも、この「YEEZY」の商品でした。
カニエ・ウェストの『Donda』リリースまでの紆余曲折。 https://t.co/3qXM6vMD2Y pic.twitter.com/bWXNXIRmie
— VOGUE JAPAN (@voguejp) September 4, 2021
そして、カニエのファッションで忘れてはならないブランドが「Nike」。
2008年のグラミー賞でカニエが実際に履いていたNikeとのコラボレート・スニーカー、「Nike Air Yeezy 1」のプロトタイプが180万ドルで落札されたことで話題になりました。
日本円にして約2億円にもなるこの金額は、スニーカーの落札額としては史上最高です。
その他にも、ヒップホップ・ファッションと所縁の深いワークウェア・ブランド「Carhartt」や登山用品ブランドの「Patagonia」といった様々なブランドのアイテムを身につけており、彼の着こなしは今後も注目されていくことでしょう。
カニエ・ウェストとアメリカ政治
音楽のみならずファッションの世界でも中心的な存在であるカニエ・ウェスト。
しかし近年、カニエの名前はヒップホップ・ファンやストリート・ファッションに関心のある層以外にも浸透しつつあります。
「2020年のアメリカ大統領選にカニエ・ウェストが出馬を表明」、このニュースは日本でも話題になりましたし、実際にご覧になった方も多いかもしれません。
彼はSNSで以前から政治的な発言をしばしば投稿しており、その話題性はアーティストが政治的発言をすることが一般的なアメリカにおいても高いものがあります。
その大きな理由が、彼がトランプ前大統領の支持を表明していたからでしょう。
Twitter上に「Make America Great Again」と書かれた帽子を被っている写真を投稿したこともありましたし(現在は削除済み)、実際に何度かトランプ氏と面会を行なっています。
しかしトランプ政権下で巻き起こったアフリカン・アメリカンによる社会運動「BLM(ブラック・ライヴズ・マター)運動」に対するトランプ氏の反応に疑問を持ったことで、トランプ支持を撤回します。
そしてトランプ氏の再選がかかった2020年の大統領選に出馬した…というのがことの経緯。
度々過激な発言で世間を騒がせてきたカニエですが、政治への関心は決してポーズや過剰なプロモーションの一環ではありません。
彼は社会慈善事業にも積極的に取り組んでおり、アメリカ大統領選に対しても誠実に取り組んでいるという主張を繰り返しています。
また、次回の2024年の大統領選挙への出馬も既にTwitter上で表明しています。
KANYE 2024 pic.twitter.com/Zm2pKcn12t
— ye (@kanyewest) November 4, 2020
アーティストとして、ファッション・アイコンとしてだけでなく、社会的人物としてのカニエ・ウェストにも、今後は目が離せません。
おわりに
この記事では天才的ヒップホップ・アーティスト、カニエ・ウェストについてご紹介してきました。
もちろん彼の最大の魅力はその素晴らしい音楽にありますが、もはや単なるラッパーとしての枠に囚われない巨大な存在感を発揮しているのも事実。
“DONDA”リリースの直前にも、本名をカニエ・オマリ・ウェストから「イェ(ye)」に正式に変更する請願書を裁判所に提出したというニュースで世間を騒がせたばかり。
その圧倒的な話題性と個性、そして素晴らしい才能をこの記事で知ってもらえたら、とても嬉しく思います。