世の中には音楽を題材とした漫画やアニメ作品が多くあります。
『のだめカンタービレ』に『BECK』、『けいおん!』や『アイドルマスター』に至るまで、そのジャンルは実に様々です。
その中でも、ひときわ音楽に力の入った名作アニメが『キャロル&チューズデイ』。
2019年に放映されたこの作品ですが、その素晴らしい完成度とは裏腹に知名度が高いとは言えないのも事実。
この記事では、音楽ファンならば必見の知る人ぞ知る傑作アニメ『キャロル&チューズデイ』の魅力を徹底的に解説していきます。
目次
『キャロル&チューズデイ』あらすじ
人類が新たなフロンティア、火星に移り住んでから50年になろうという時代。
多くのカルチャーはAIによって作られ、人はそれを享楽する側となった時代。
ひとりの女の子がいた。
首都、アルバシティでタフに生き抜く彼女は、
働きながらミュージシャンを目指していた。
いつも、何かが足りないと感じていた。
彼女の名はキャロル。
ひとりの女の子がいた。
地方都市、ハーシェルシティの裕福な家に生まれ、
ミュージシャンになりたいと思っていたが、誰にも理解されずにいた。
世界でいちばん孤独だと思っていた。
彼女の名はチューズデイ。
ふたりは、偶然出会った。
歌わずにいられなかった。
音を出さずにいられなかった。
ふたりなら、それができる気がした。
ふたりは、こんな時代にほんのささやかな波風を立てるだろう。
そしてそれは、いつしか大きな波へと変わっていく────
(『キャロル&チューズデイ』公式サイトより引用)
あらすじを見ていただければわかるように、現代よりはるか未来の火星を舞台とした、SFチックな世界観の作品です。
ですがストーリーはキャロルとチューズデイ、2人の少女の成長が中心で、決してSF的な壮大さやアクションが登場する訳ではありません。
あくまで音楽を主題にした作品として楽しむことができるアニメです。
「音楽」にどこまでもこだわった作品
『キャロル&チューズデイ』という作品は、音楽によって多くの繋がりや変化が生まれていく作品です。
主人公であるキャロルとチューズデイは音楽を共通言語として絆を深めていきますし、2人が劇中で出会うシベールやデズモンドといった個性的なキャラクター達にも、それぞれに音楽を通じたドラマがあります。
こうした作品の構造上、作品のクオリティは正にその音楽にかかってくると言っていいでしょう。
そしてこのアニメは、その音楽に並大抵でないこだわりを見せています。
国境を超えた超豪華な参加アーティスト!
まず最初に、『キャロル&チューズデイ』に楽曲提供をしたアーティストの面々を見ていきましょう。
結論から言うと、単なるアニメ作品とは思えないほどに豪華な顔ぶれが勢ぞろいしています。
日本国内からはNulbarich、赤い公園の津野米咲、ceroといったバンド・シーンで活躍するアーティストに、Corneliusこと小山田圭吾、セッション・ベーシストの吉田一郎不可触世界らが参加しています。
いわゆる「アニソン」の世界で活躍する作曲家やミュージシャンをあえて起用せず、オーバーグラウンドの音楽シーンの才能を揃えたというところに、この作品の「音楽」にかける熱意が見て取れます。
さらにこの作品には日本国内のみならず、海外からも著名アーティストが参加しています。
オランダのポップ・ミュージシャンであるベニー・シングスに、アリアナ・グランデやマライア・キャリーのプロデュースでも知られるノルウェー出身のアーティストのリド、さらには現代のブラック・ミュージックの第一線で活躍するベーシストのサンダーキャットらが楽曲提供を行っています。
如何に日本のアニメ文化が海外でも人気とはいえ、1つのアニメ作品にここまでの数の海外アーティストが参加することは前例がありません。
こうしたあまりにも豪華なアーティスト達が提供した楽曲が、この『キャロル&チューズデイ』では贅沢に使用されています。
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声優と歌声は別人!?キャラクターそれぞれに専属の歌手が!
楽曲の素晴らしさはここまでの説明でお分かりいただけたかと思いますが、ここからはその楽曲を実際に歌う歌手についてです。
日本で制作されたアニメですから作中のセリフは当然日本語で、声優陣も日本人のキャストが集められています。
しかしキャラクターの名前から分かる通り、日本人のキャラクターは登場せず、楽曲も歌詞は全て英語です。
この矛盾をこの作品ではそのまま堂々と採用し、普段のシーンは日本語で会話が進むけれども、歌唱のシーンだけは英語という2言語体制となっています。
さらに、『キャロル&チューズデイ』ではキャラクターの声優の他に、歌唱専用のシンガーをそれぞれ起用しているのです。
主人公のキャロルとチューズデイを例に取ると、それぞれ島袋美由利と市ノ瀬加那が声を当てる一方で、ナイ・ブリックスとセレイナ・アンがボーカルとしてクレジットされています。
— Nai Br.XX (@Nai_BrXX) July 7, 2020
Haunt of Fresh のPLAYROOMにまた出演させていただきましたー!
WYFOOL歌ったよ。見たおしてね。
YouTube → https://t.co/2uAE6iAwcH@HauntofFresh ありがとう✨🪐 pic.twitter.com/CquyNkAlS7
— Celeina Ann (@celeinaann) January 12, 2021
このように、『キャロル&チューズデイ』は楽曲そのものの質だけでなく、キャラクターの歌声にもかなりこだわっていることが分かると思います。
作中に登場する名曲の数々をご紹介
さて、ここまで『キャロル&チューズデイ』が如何に音楽に注力した作品かということを説明してきました。
ここからは実際に楽曲を見ていきながら、その魅力についてお話していきます。
“Kiss Me”
最初にご紹介するのはアニメ前半のOP、“Kiss Me”です。
先ほど紹介したナイ・ブレックスとセレイナ・アンがMVに登場し、アンが演奏するギターはチューズデイの愛器、ギブソンのハミングバードというこだわりぶり。
作曲はNulbarichが担当し、オシャレで現代的なシティ・ポップとアコースティック・ギターの相性が実に見事です。
また、アニメ本編でも登場するキャロルとチューズデイの息のあったハーモニーを楽曲に取り込んでいるのも魅力的。
“Polly Jean”
続いてはアニメ後半のOP、“Polly Jean”です。
作曲はCorneliusこと小山田圭吾で、大らかに包み込むような”Kiss Me”と比べるときめ細かなアプローチが取り入れられています。
特にリズムがユニークで、全体のリズムからは外れたフレーズを展開するドラムやパーカッションのアレンジは流石は小山田圭吾と言うべき大胆さです。
“Mother”
最後にご紹介するのは、アニメのクライマックスで歌われる“Mother”という楽曲。
この楽曲が生まれるまでのドラマや、その歌詞に込められた想いというのはアニメ本編を見ないと分からないものかと思います。
そしてこの曲は、『キャロル&チューズデイ』という名作アニメのフィナーレであるからこそ意味のあるナンバーでもあります。
ここで紹介してはみましたが、是非とも『キャロル&チューズデイ』を鑑賞していただいて、アニメの中で出会っていただきたい名曲です。
あえて語るならば、この曲を作曲したエヴァン・ボガート&ジャスティン・グレイに対して渡辺信一郎監督は「7分間の奇跡の名曲を作ってくれ」とオーダーしたと言います。
果たして「奇跡の名曲」なのか?それはアニメを見ていただいて判断していただければ。
もっと聴いてほしい『キャロル&チューズデイ』の名曲
ここまでに紹介してきた3曲というのは、実はアニメ公式YouTubeで聴くことのできる全楽曲でもあります。
しかし、『キャロル&チューズデイ』にはこれ以外にも沢山の名曲が登場します。
それらを一挙に収録したのが、『TVアニメ「キャロル&チューズデイ」VOCAL COLLECTION』というCD。
Vol.1,2と2枚リリースされていて、この2枚を聴けば『キャロル&チューズデイ』の音楽の魅力が堪能できる作品です。
各種音楽サブスクリプション・サービスでも配信されているので、アニメ本編で気になった楽曲を普段から聴いてみたいという方は是非チェックしてみてください。
音楽愛に溢れた小ネタの数々
作中で実際に登場する音楽が素晴らしいのはここまでにご紹介した通りですが、この作品が音楽ファン必見な理由はそれだけではありません。
現実世界のミュージシャンの名前も多く登場しますし、音楽ファンならばニヤリとさせられる演出が施されている作品でもあるのです。
例えば公式サイトのキャラクター紹介にはキャロルとチューズデイが影響を受けたミュージシャンの項目がありますが、キャロルは
ビヨンセ、アデル、アレサ・フランクリン、とかのカッコいい女性!
(『キャロル&チューズデイ』公式サイトより引用)
とありますし、チューズデイも
シンディ・ローパーさん、スティーヴィー・ニックスさん、エド・シーランさん、他たくさん
(『キャロル&チューズデイ』公式サイトより引用)
となっています。
言うまでもないことですが、ここで名前の挙がっている人物は全員実在するアーティスト。
特に第1話冒頭、チューズデイが家出をするシーンでは、彼女がシンディ・ローパーに憧れてミュージシャンを志した旨のモノローグが挿入されています。
そしてアニメの各話サブタイトルも、実在する名曲のタイトルをそのまま使用しています。
それこそ第1話のサブタイトルは前述したシンディ・ローパーのヒット曲”True Colors“ですし、他にも”Dancing Queen“や”Walk This Way“、”A Change Is Gonna Come“といった往年の名曲のオンパレード。
アニメのストーリーに合わせた楽曲をサブタイトルに当てているので、音楽ファンなら「ここでこの曲か!」と思わず膝を打つことでしょう。
おわりに
今回はアニメ『キャロル&チューズデイ』の魅力を、音楽を中心にご紹介していきました。
もちろんアニメ作品として素晴らしいクオリティですし、ストーリーを中心に楽しむことが醍醐味の1つでもあります。
ですが音楽を重要な要素としている作品である以上、その音楽について詳しく理解することでよりいっそう楽しめるのも事実。
まだ『キャロル&チューズデイ』を観たことがないという方はこれを機に是非観ていただきたいですし、既に観たことがあるという方もより音楽に注目して再度ご覧になっていただければと思います。