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『四文銭』「MOROHAⅢ」YAVAY YAYVA RECORDS,2016
こんな歌詞を音源に吹き込めるミュージシャンは、極めて稀有ではないでしょうか。
2008年の結成以来、己の全てをさらけ出す熱いラップと切れ味鋭いアコースティックギターでリスナーの心を揺さぶってきたMOROHA。
Samsung GalaxyのCMでナレーションを担当したこともあるため、その声に聴きおぼえがある方も多いでしょう。
本記事では、
「MOROHAに興味がある!」
「心を揺さぶる歌詞が聴きたい!」
という方に向けてMOROHAの魅力や経歴、メンバーやオススメの曲を紹介します!
目次
MOROHAの魅力
MOROHAの魅力は己の生き様を赤裸々にぶつけるラップ/ポエトリー・リーディングと、ヒリヒリするほど研ぎ澄まされたアコースティックギターのぶつかり合いにあります。
1MC・1アコースティックギターというミニマルな2人編成が巻き起こす、ソリッドな力強さと人間らしい生々しさは圧倒的に強靭。
現実の厳しさ/夢へのあこがれ/大切な人への想いを全身全霊で叩きつける歌詞は我々の心をまっすぐ貫き、強烈に共鳴させる力強さを放っています。
それから圧巻のライブパフォーマンスも見逃せません。
全力を振り絞るがゆえの圧倒的な存在感は、唯一無二と言っても過言ではないでしょう。
筆者は音楽や小説などの創作物で涙を流さないタイプなのですが、MOROHAのライブではいつの間にか涙が頬を伝っていた経験があります。
見る者の魂に直接叫びかける気迫と熱量は、家路についた後もずっしりと心に残ります。
MOROHAのメンバー
アフロ/MC
MOROHAのMC。リリック担当。長野県出身。
己の強さも弱さも露にする歌詞は、好むにしろ好まないにしろ耳を傾けざるを得ない存在感を放っています。
自分の性格を「元気がある」「熱血」「ストイック」といった言葉で評している一方で自分に対する自信のなさも吐露しており、その複雑な人間性を反映させた歌詞はMOROHAの大きな魅力となっています。
野球に打ち込む日々を送っていたアフロが音楽に目覚めたのは中学生の頃、レンタルCD店に通いながらメロコア・青春パンク・日本語ラップにのめりこんでいきました。
また、ラップを始めたのはDragon Ashの影響が大きかったとも振り返っています。
飛び込み営業をする会社に就職してすぐさま業績No.1になった過去には、彼の努力家としての一面が現れていると言えるでしょう。
CMのナレーション・エッセイ本『俺のがヤバイ』の刊行・コラムの連載なども手掛けており、その才能は多方面に発揮されています。
UK/アコースティックギター
MOROHAのギタリスト。オケ担当。長野県出身。
研ぎ澄まされたリフとスラム奏法(ギターをパーカッションのように叩く演奏スタイル)を軸にした、緊張感と叙情性にあふれるギタープレイが特徴。
知性と獰猛さを宿したヒリヒリする演奏はアフロの言葉に負けない鋭さを感じさせます。
端正な顔立ちとクールな雰囲気が印象的で、ゲームと秋葉原を愛するインドア派な一面も持っています。
ドライにものごとを考える一方で「大物になりたい」「チヤホヤされたい」と憚ることなく野心を口にしています。
ギターを始めたきっかけは、X JAPAN。そのかっこよさに心を動かされると同時に「自分でも出来るんじゃねーかな」と感じてギターを手に取ったそうです。
その後はメロコア・パンクロック・ハードロック・ヴィジュアル系をプレイしていたとのこと。
尊敬するギタリストとしてX JAPANのHIDEとHawaiian6の安野勇太の名を挙げています。
その音楽的嗜好には、00年代に青春を捧げた多くのギター愛好家が共感を覚えるのではないでしょうか。
アリアナ・グランデの大ヒットシングル『ノー・ティアーズ・レフト・トゥ・クライ』をアコースティックギターでカヴァーした動画も称賛を集めています。
MOROHAの歴史
MOROHAの2人が出会ったのは2003年。
アフロとUKは長野県上田市にある上田染谷丘高校の同級生で、それぞれ野球とバンドに打ち込む青春を過ごしていました。
高校卒業後、アフロは専門学校に通うため千葉で、UKは大学に通うため東京で新たな生活を始めます。
故郷を遠く離れた地で紆余曲折の日々を過ごすうちアフロはラップを仕事にする決意を固め、旧知の仲であるUKに「本気で音楽をやりたい」と声を掛けました。
それが2008年、MOROHAの歴史が始まった瞬間です。
ラップとアコースティックギターの2人組がクラブでプレイする、当初はそんな独特のスタイルで人前に立つことを楽しんでいました。
しかし、2人で活動を続けていくうちに「生演奏の良さ」「2人でやってるグルーヴ」に手ごたえを感じるようになります。
転機になったのは2010年。
サマーソニックの出場権をかけるオーディション企画『出れんの!?サマソニ!?』にエントリーしたところ審査員の曽我部恵一の目に留まり、曽我部恵一賞を受賞。それが彼が主催するROSE RECORDSからの1stアルバム『MOROHA』発売につながります。
ありのままの人間性をむき出しにした歌詞と張り詰めたアコースティックギターが火花を散らす楽曲は、賛否を巻き起こしながら注目を集めることになりました。
その後、バンドとしての地力をつけるべくライブに明け暮れ、2013年にはその経験を反映させた2ndアルバム『MOROHA Ⅱ』を世に放ちます。
2016年にはプロモーションやブッキングに自分たちの意志をより反映させるため自主レーベルYAVAY YAYVA RECORDSを設立。
前作で得た手ごたえをさらに突き詰めた3rdアルバム『MOROHA Ⅲ』を音楽シーンに送り出します。
そして、2018年にはメジャーレーベルのユニバーサルミュージックと契約して再録ベスト盤『MOROHA BEST~十年再録~』を発売、翌年には4thアルバム『MOROHA IV』をリリースしています。
30歳を超えてから掴み取ったメジャーデビューは、たゆまぬ努力と信念に従って突き進む勇気が実を結んだ結果と言えるでしょう。
その一方で既存のシステムに囚われない音楽活動の在り方も模索しています。
コロナ禍の2020年に発表した『主題歌』は投げ銭制を採用しています。振込先は、なんとアフロの個人口座。
生きる手段としての音楽に対して、真剣に向き合うMOROHAの姿勢が感じられます。
MOROHAのオススメ曲5選
革命
MOROHAの名前を耳にしたとき、この曲を最初に思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
親しい友達との飲み会から始まる冒頭から一転、夢を掴み取る決意を全身全霊で叫ぶ展開は圧巻の一言。
時に心を抉るような残酷な現実も突きつけながら我々と自分自身を少しでも前に進ませようとするアフロの言葉が、熱い疾走感と共に一気に駆け抜けていきます。
エモーショナルさと鋭さを兼ね備えたアコースティックギターと、自然体の口調で聴き手の心のドアをノックしまくるような熱いラップ。そのぶつかり合いが吹き荒れるような躍動感を楽曲にもたらしています。
人間の醜さや美しさを余すことなく描く生々しいアンサブルは、厳しい現実に全力で喰らいつくような激しさを絶えることなく燃え上がらせています。
新たな未来へ向かって突き進む、その最初の一歩を描いた名曲です。
ファンを公言している行定勲監督が手掛けたMVも、『革命』の素晴らしさを見事に引き立たせています。
※2ndアルバム『MOROHA Ⅱ』に収録されています。
※再録ベスト盤『MOROHA BEST~十年再録~』にも収録されています。
三文銭
『三文銭』の歌詞は、フジロックフェスティバル出演の夢に破れた心境の吐露から始まります。
悔しさを率直な言葉で語り、現実に忙殺される日々を吐露しながらも決してあきらめを口にすることはなく、無念を糧に突き進んでいく決意を力強く歌っています。
「自分はミュージシャンじゃないし、共感できないな……」と思う方もいるかもしれません。
しかし、どんな逆境にぶち当たっても夢に進んでいくアフロの姿勢は、頑張っている人の心にきっと響くはずです。
時に感傷的に、時に勇ましく掻き鳴らされるアコースティックギター。リズミカルな抑揚をつけながらも、熱く語りかけるような口調のラップ。有機的に結びつく2人のサウンドが活き活きとした躍動感を力強く生み出し、聴く者の魂を震わせる気迫を放ち続けています。
ミュージシャンとして大成したい。この曲のテーマはそれだけです。
しかし、壮絶なまでの正直さで心の揺れ動きをさらけ出すアフロの言葉が、『三文銭』を普遍的な魅力を秘めたナンバーに昇華しています。
※2ndアルバム『MOROHA Ⅱ』に収録されています。
※再録ベスト盤『MOROHA BEST~十年再録~』にも収録されています。
五文銭
『五文銭』もミュージシャンとして大物になりたいという悲壮な願いが歌われている楽曲です。
NHK紅白歌合戦を見て自分が出演していないことを悔しく思った、という導入から始まります。
そこから続く、這い上がってやるという下克上の宣言と既存のシーンには同調しないという決意。
自分の弱さからも現実の厳しさからも目を逸らさず、己を鼓舞するような言葉をストイックに叫んでいるのが『五文銭』の魅力でしょう。
自らの願いや感情をあばきだすような歌詞を基調にしながらも、楽曲が進むにつれて少しずつ自分の在り方・生き方を自問自答する哲学的なニュアンスが強まっていきます。
エモーショナルなグルーヴをかき鳴らすアコースティックギター、さりげなく韻を踏みつつも自然体の口調で熱く叫ぶラップ。困難な道のりを全身全霊で突き進むような力強さは、楽曲の最初から最後まで衰えることはありません。
いかなる時も魂を震撼させるような熱さがたぎっていますが、最後のクライマックスは特に凄まじい熱量を放っています。ラップとアコースティックギターだけで演奏されているとは到底思えない、圧倒的な迫力は必聴。生きる意味を自問自答するアフロの姿に、我々もまた同じ問答を突き付けられることでしょう。
MVの歌詞も素晴らしいのですが、個人的には音源の歌詞をおすすめしたいです。
※4thアルバム『MOROHA IV』に収録されています。
Tomorrow
どうにもならない人生の切なさを歌う、素晴らしいナンバーです。
プロ野球選手になりたかった子供時代を振り返った後に、日々の労働に明け暮れる大人の現実を「部品を作る部品になった」と残酷なまでに突きつけています。大胆な明暗の描写は、人生の苦みを見事に表していると言えるでしょう。
また、恋人との関係が徐々に変わって日々の苛立ちや不安をぶつけてしまう描写は、耳を塞ぎたくなるほど生々しく鮮明です。
夢に向かって必死になっていたはずなのに、何かが変わってしまう。
「どのツラ下げて、どこへ向かうの? 結果的には嘘つきじゃねえの?」という歌詞は、夢や目標に向かって頑張っていた過去を持つ人にとっては重たい共感を呼び起こす一節かもしれません。
切ない叙情性と心地よいグルーヴを感じさせるアコースティックギターを背景にして、アフロは自分自身の未熟さや醜さから目を逸らさず等身大の苦悩や葛藤と向き合い続けています。
最後には「理由はなくとも足は出すよ そうすりゃそれが理由になるもん」と苦みを含んだ希望へたどり着き、そして、不意に途切れるアコースティックギターの音色と楽曲は終わります。
人生の意味をドライに描き切った、力強い一曲です。
※3rdアルバム『MOROHA Ⅲ』に収録されています。
※再録ベスト盤『MOROHA BEST~十年再録~』にも収録されています。
ハダ色の日々
恋人と過ごす日常や感情の揺れ動きを、過剰な言葉で美化することなく率直に歌っています。
いわゆるラブソング的な美辞麗句で飾り立てることはなく、素朴な表現で時にセクシャルなシーンを描いています。眉をひそめる方もいるかもしれませんが、「ああ、こんなこと自分にもあったなあ」と感じる人も多いのではないでしょうか。
包み込むような優しさを紡ぎ出すアコースティックギターと、深い愛情が込められたラップ。柔らかな雰囲気を漂わせたまま楽曲は進んでいき、不器用ながらも誠実な慈しみが我々の心にじんわりと染み込みます。
2人の幸せな未来をついつい想像してしまう一節には、懐かしさと胸の痛みを感じます。
青春の優しいひと時を、素朴に切り取った楽曲です。
※2ndアルバム『MOROHA Ⅱ』に収録されています。
※再録ベスト盤『MOROHA BEST~十年再録~』にも収録されています。
最後に
本記事はMOROHAに興味がある方に向けてその魅力や経歴、メンバーやオススメの曲を紹介しました。
MOROHAは自分たちのスタイルを決して曲げず、少しずつ進んできました。そして、2022年2月にはキャリア初となる日本武道館公演が予定されています。
ミュージシャンとしての1つの到達点に立ったとき、MOROHAは何を思うのでしょうか。そして、次はどこへ向かうのでしょうか。
前進を続けるMOROHAから、これからも目を離せそうにありません。