【ライブレポート】Non Stop Rabbit – ノンラビ、2年ぶりの帰還! 全身全霊で駆け抜けた2日間4公演

【ライブレポート】Non Stop Rabbit – ノンラビ、2年ぶりの帰還! 全身全霊で駆け抜けた2日間4公演

3人組ロックバンドNon Stop Rabbit(以下、ノンラビ)が3月14日と15日の2日間にわたり、<メジャー入り初のワンマンライブ!2年もLIVEしてなかったからリバビリさせてや!本気の2DAYS、4番勝負!〜あの日の俺らを取り戻す〜(エモぉー)>を東京・渋谷CLUB QUATTROで開催した。本記事でレポートするのは、その3公演目に当たる3月15日の第1部。“思いの丈をぶつける”という慣用句がふさわしい濃密かつ強烈な1時間だった。

とてつもなく長い公演名だが、前回の有観客公演から丸2年以上、そして2020年12月にメジャーデビューを果たしてから初となるライブだという事実を考慮すれば、公演名にそのくらいの情報量を盛り込んだとしても不思議ではないのかもしれない。いや、むしろもっと長くなったとしても誰もそれを咎めることはできないだろう。

新型コロナウイルスの感染拡大により、以前とはまったく異なる生活様式を求められるようになってから2年強。試行錯誤の日々を経て、多くのアーティストは国や自治体が定めたガイドラインに従いながらライブ活動を再開している。周りのアーティストたちが少しずつ、しかし着実に動き出している中、有観客ライブという点に関して言えば、ノンラビの時計は2020年2月から止まったままだった。人一倍フットワークの軽そうな彼らが下した“有観客ライブをやらない”という選択に強い決意を見出したファンも少なくなかったはずだ。

もちろん彼らは完全に立ち止まっていたわけではない。音源のリリース、YouTubeチャンネルでの動画配信など数々のコンテンツを世に送り出し、ライブ以外の活動を通じてファンとの接点を保ち続けていた。しかし、音源や動画といった楽しみが提供されればされるほど、“実物”が恋しくなってしまうのがファンの性。コロナ禍以前に彼らのライブに熱狂した経験を持つファンであれば、その思いはより一層強いものになるであろうことは想像に難くない。

そんな切ない日々に終止符が打たれたのは、2022年元旦のこと。渋谷CLUB QUATTROにて2日間にわたるワンマンライブの開催が発表されると、ライブ活動再開を待ち侘びていたファンは狂喜乱舞。当然の如くチケット購入の申し込みが殺到し、当選倍率は約43倍にまで膨れ上がる事態に。観たくても観られないファンが多数生まれてしまうことに心を痛めたメンバーの漢気(おとこぎ)により、ライブ活動再開1発目にもかかわらず公演数が倍増されることが決定。2日間で4公演という無謀すぎるチャレンジからは、彼らの「俺たちが倍働けばいいっしょ!」の雄叫びが聞こえてくるようだ。

冒頭でも触れた通り、本記事でレポートするのは3月15日の第1部公演の模様である。今回開催される4公演のうち唯一のフリーライブ、つまり入場無料の公演となっており、ある意味ではもっともレアな回だと言っても過言ではないだろう。マスク着用で声出し禁止、会場の床は升目状に区切られて立ち位置が決められているなどコロナ禍ならではの制約の多いライブではあるものの、超高倍率を勝ち抜いた幸運なファンたちの異様な熱気が立ちこめるフロアから当日の模様をお伝えしていきたい。

ほぼ定刻に場内が暗転すると、大音量で鳴り響くオープニングSEをさらに後押しするかのように力強い手拍子が巻き起こる。声は出せずとも「待ってました!」の気持ちが痛いほど伝わってくる高揚感のある手拍子だった。ステージ上にはすでに太我(Dr)が待機しており、それに続いて矢野晴人(Vo, B)、田口達也(G, Cho)が登場。ドラムのカウントから雪崩れ込むようにスタートしたのは、メジャーデビュー・アルバム『爆誕 -BAKUTAN-』のオープニングを飾るロック・チューン“ALSO”。それを迎え撃つオーディエンスも心得たもので、ロックショーの始まりを告げる疾走ナンバーに激しく腕を振って応えている。のっけから矢野のヴォーカルは絶好調、バンドの演奏も実にタイトだ。公演タイトルにある“リハビリ”の要素が微塵も感じられないのは、前日の2公演で調子を完全に掴んだからなのだろうか。

「昔々あるところにウサギとカメがいました」の定番MCを噛みつくような勢いで吐き出した矢野が歌い出したのは、ノンラビ屈指の人気曲“私面想歌”。2年間の鬱憤を晴らすかのようにギターを掻き鳴らす田口の表情には自信が満ち溢れていた。前2曲から一転してダンサブルに揺さぶる“BAKEMONO”でもその勢いはまったく衰えることはなく、良い意味で荒々しいそのプレイぶりから、今夜はこれからすごいことになりそうだと身体を震わせたのは筆者だけではないだろう。

冒頭3曲を終えたところで最初のMCコーナーへ。本日のセットリストが太我の考案によるものであることが明かされた。太我の一番のお気に入りはオープニングナンバーとなった“ALSO”で、同曲への入れ込み具合は並々ならぬものがあるとのことだったが、なんと曲名の発音を「アルソ」と誤って覚えていたことを暴露され、ファンからは失笑が漏れる恥ずかしい展開に。つい先ほどまでのバンドマン然としたカッコ良さから一転し、YouTuberモードに切り替えての抱腹絶倒トークで場内を沸かせることができるのはノンラビならではだろう。

この日、多くのファンにとって最大のサプライズとなったのは、田口の口から飛び出した「今日はDVD収録してますから」という発言だったのではないだろうか。喜びと戸惑いが入り混じったような反応を見せるファンに対し、「タダで観に来てるんだから盛り上がってもらわないと困りますよ!」と以後の盛り上がりを半ば強引に約束させてしまう田口の話術も実に見事だった。今回開催された4公演は「対面にこだわる」とのメンバーの意向により配信はおこなわれなかったため、公演の模様が映像作品として残るということは、ライヴに参加したファンはもちろん、来ることが叶わなかったファンにとっても嬉しいプレゼントになるはずだ。どういった形で本日の映像がリリースされるのか、今後の発表を待ちたい。

底抜けに明るく楽しいMCコーナーの終わりを告げたのは、田口の「今日のセトリはアホ(太我)が作りました! ここから先はお休みありません!」というノンストップ宣言。そしてなにより恐ろしいのは、この宣言にいささかの誇張もなかったことだ。4曲目からラストまで、ノンラビの3人は自らの身体を削りながらひたすらに突っ走っていくことになる。

最新アルバム『TRINITY』からのアッパーチューン“三大欲求”が叩きつけられると、フロアは冒頭3曲を遥かに凌駕するボルテージで沸騰。頭上に突き上げられた腕の数が先ほどよりも明らかに増えている。長いMCを挟むと観客のテンションが下がってしまうことも少なくないが、逆にテンションを上げてしまうあたりに彼らの客扱いの上手さ、センスの良さを感じさせられた。熱狂的な反応に気を良くしたのか、最後のコードをガーンと鳴らした田口の顔には満面の笑みが浮かんでいる。

“三大欲求”の最後の音にかぶせるようにして矢野が歌い出したのは、同じく最新作からの“上向くライオン”。メロディアスなナンバーだが、聴く者を鼓舞するかのように力強いフレーズで楽曲を牽引する太我のドラムプレイも聴きどころだ。エンディングパートでは田口が「休むなよ!バラード1曲も無いからな!」と叫び、すでに公演名に掲げられた“リハビリ”のムードは極めて希薄になっている。リハビリテーションとは低下した身体の機能を回復させるための訓練のことを指す言葉だが、ノンラビの中では自分たちとファンを徹底的に追い込んでいくドSかつドM的な行為と定義されているのかもしれない。

続く“BIRD WITHOUT”の冒頭で「殺しに来てるんで!」ととんでもない発言をサラリとかまし、そのまま流麗なギターメロディを奏でる田口。この物騒な発言に大喜びで応えるファンの肝っ玉も相当なものだ。昨日から数えて3公演目、高度なヴォーカルパフォーマンスを要求される楽曲を歌い続けている矢野の声もいまだ絶好調で、その歌声に疲労の色は見受けられない。本人がMCで「ハチミツを飲んで寝た」と語っていたので、喉のケアにはかなり気を遣っているであろうことが推察された。

それまでの多幸感あふれる明るい空気を一変させたのは、名前も顔も知らない相手からの誹謗中傷というネット社会ならではの卑劣な行為を一刀両断する“全部ブロック”。この曲が痛快なのは、自分たちの尊厳を傷つけようとする連中をハナから相手にせず、腕にとまった蚊をひねり潰すかの如く、指1本でその存在自体を無かったことにしてしまうところだろう。そこにあるのは相手に対する冷酷なまでの無関心。誰もが被害者にも加害者にもなり得るネット社会を生きる上で、大きなヒントになるであろう1曲だ。

怒りに満ちたシリアスな横顔を見せた後は、本日最大のパーティータイムへと突入していく。フロントの2人はすでにハンドマイクを握り、大いに楽しむ準備が整っているようだ。最新アルバム『TRINITY』収録の“Needle return”が投下されるとフロアは蜂の巣をつついたような大騒ぎ。EDM系フェスで演奏されても大きな反応が得られるであろう超高性能なアッパーチューンだ。「一生跳んでもらうんで!」の煽りに応えて全力ジャンプを繰り返すファンの姿に「これが観たかったんだ!」とばかりに破顔するメンバーたち。声は出せなくても気持ちはしっかりと伝わっている。そう確信した瞬間だった。

“Needle return”で場内の盛り上がりは頂点に達したかと思いきや、田口の「まだだー!」の絶叫がそれをあっさりと否定していく。超人気曲“Refutation”の必殺ギターリフが場内に鳴り響くと、ファンのボルテージはさらなる高みへ向かって急上昇。いつの間にかギターを手にした田口がお立ち台の上で見事なギターソロをキメてみせた。“Needle return”から“Refutation”の流れは、しかるべきタイミングで公開されるはずのDVDにおける最大の盛り上がりパートになること必至。これがコロナ禍ではない機会に披露されたとしたら、盆と正月、さらにはハロウィンと学園祭がいっぺんにやって来たかのような超絶大騒ぎになることは保証しておきたい。

狂騒の二文字がふさわしいパーティータイムを締めくくり、再びベースを手にした矢野が「こんなもんじゃないでしょ!」と汗だくのファンを煽り倒していく。“PLOW NOW”がコールされると歓声こそ上がらないものの、「待ってました!」という空気が場内に充満した。迷いも弱さもすべて肯定し、優しく、そして力強く背中を押してくれる名曲だ。曲の後半、<ここで終わってたまるかって>から始まるパートを「心の中で歌ってください!」とファンに委ねた矢野。今日一番の熱量で手拍子が響き渡る中、満足そうに続きを引き継いでみせた彼の様子からは、ファンの大合唱が聴こえたことがはっきりと伝わってきた。その光景を美しく感じたのと同時に、「心の中で」のフレーズが不要となる日が一刻も早く到来して欲しいと強く願ったのは言うまでもない。

“PLOW NOW”が残したポジティヴな余韻が漂うフロアに向かって、「この4公演で毎回伝えていることがあります」と前置きし、あきらめないことの大切さを語り出した田口。シーンの異端児であるノンラビがメジャーデビューを勝ち取り、人気アニメの主題歌に抜擢されるまでになったのは、幾度となく訪れた辞めたくなるタイミングを乗り越えてきたからだ、と。「今しんどくて逃げたくても、いつか続けてよかったと思える瞬間がきっと来るはずだから」という言葉は、2年間もステージに立つことが叶わず、「俺たちって生きている意味あるのかな?」とまで思い悩んだ自分自身に向けたものでもあったのだろう。

ここで筆者の頭に浮かんだのは、先月開催された北京オリンピックで話題となったフィギュアスケート日本代表・羽生結弦選手の「報われない努力」という発言だった。ノンラビの3人は、努力が必ずしも報われるとは限らないことを知った上で、それでもいつか報われる日が来ること、その“いつか”が明日かもしれないこと、ただそれだけを信じて、次々と眼前に突き付けられるYesとNoのカードからYesだけを選び続けて来たのではないだろうか。迷いの無い表情で言葉を連ねる田口の姿に、「明日からまた頑張ろう」と背筋が伸びたのは筆者だけではないはずだ。

2年間の苦悩を爆発霧散させるかのような「優等生なんてやめちまえ! 俺たちは俺たちだ!」という田口の叫びをイントロとしてスタートしたのは、最新アルバム『TRINITY』の冒頭を飾る“優等生”。3公演目最後の曲、最後の4分間に残されたエネルギーをすべて注ぎ込み、約1時間のステージを全力で走り切って見せた。2時間後にもう1公演を控えたバンドとは到底思えないほどの完全燃焼だった。その妥協の無い全力疾走ぶりはNon Stop Rabbitのバンド名に偽りなしだ。

さあ、反撃の狼煙は上がった。2日間4公演の過激なリハビリを終えたウサギたちがどのように反転攻勢に打って出るのか。彼らの次なる一手が今から楽しみで仕方がない。

写真:菊島明梨( @voulpiw )
文:川崎りょう

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