YouTubeやストリーミング配信が人気を博すようになり、PCやスマホさえあれば、いつでもどこでも、古今東西のあらゆる音楽を楽しめるようになりました。
そんな中、日本の「シティ・ポップ」というジャンルの音楽が、海外から注目を集めるようになります。
「シティ・ポップ」とは、J-POPの形態の1つで、1970年代~1980年代ごろに流行を迎えました。こぶしやヨナ抜き音階など、日本音楽が色濃く残る演歌や歌謡曲とは異なり、洋楽の要素を取り入れた都会的な雰囲気が魅力の音楽です。
シティ・ポップの代表的アーティストと言えば、山下達郎や竹内まりやが挙げられます。YouTubeの非公式アップロード動画により国外にファンが一気に増え、レコードを入手しようとわざわざ海外から日本へやってくるなど、その勢いはとどまるところを知りません。
海外から再び注目を集める山下達郎。今回はそのテクニックが光る、名曲を6曲、紹介していきます!
目次
実はギネス記録保持者?!山下達郎のプロフィール
1953年2月4日生まれ
東京都豊島区 池袋出身
歌手・作曲家・音楽プロデューサー
山下達郎は1975年、シュガーベイブというバンドでデビューを飾り、翌年にアルバム『CIRCUS TOWN』でソロ・デビューします。
1980年に発表したアルバム『RIDE ON TIME』はオリコンアルバムチャートで1位を獲得しました。その後も、JR東海のCMで話題になった「クリスマス・イブ」など、ヒット作を連発し、アーティストとしての地位を確立します。
1984年以降は、妻である竹内まりやのプロデュースを手掛けています。その他、KinKi Kids「硝子の少年」や近藤真彦「ハイティーン・ブギ」に代表される楽曲提供も行い、他アーティストのヒットに貢献しました。
その他にも、ミスタードーナツに提供した「DONUT SONG」などのCMソング、木村拓哉主演ドラマ「グランメゾン★東京」やアニメ映画「未来のミライ」といった映像作品の主題歌なども手掛けています。
これまでの数々の業績が認められ、2015年には「第65回芸術選奨文部科学大臣賞」大衆芸能部門・大臣賞に選出されました。
「芸術選奨文部科学大臣賞」は、各年度で優れた業績を残した芸術家に贈られる賞です。他に、庵野秀明「シン・ゴジラ」や、片渕須直の「この世界の片隅に」が選出されています。
また、2016年には、「クリスマス・イブ」が30年連続でオリコンシングルチャート100位以内に入り、ギネス世界記録に認定されました。
シンガーソングライターのみならず、プロデュースから楽曲提供、CMや映像作品のタイアップまで、幅広く活躍する第一線のアーティストです。
山下達郎のテクニックが光る名曲6選
名曲をたくさんもつ山下達郎。それぞれ素晴らしい部分がたくさんあり選びきれませんが、今回はその中から、山下達郎のテクニックがより伝わる楽曲を6曲について解説します。
「クリスマス・イブ」間奏に込められた様々な思い
ギネス記録にも認定され、名実共に、山下達郎最大のヒット作と言える「クリスマス・イブ」。
この曲は1983年クリスマス前に発売されて以降、日本発のクリスマスソングとして根強い人気を誇っています。
2020年、朝日新聞社によるクリスマスソングアンケートで、「きよしこの夜」「もろびとこぞりて」などの定番曲を抑え、堂々の1位を飾っています!
そんな「クリスマス・イブ」間奏部分。
このアカペラ音楽に聞き覚えはありませんか?
ここでは、パッフェルベルが作曲した「カノン」のメロディが使われています。
山下達郎は、2020年のインタビューで、「バロック音楽に多い『クリシェ』のコード進行から、クリスマスというテーマが浮かび、間奏にはパッヘルベルの『カノン』を使うことを思いつきました。」と語っています。
『クリシェ』とは、コードの一部の音が1音ずつ変化していく和音進行のことです。
例えば、次のような進行があります。
C:ドミソ→G:ソシレ→Am:ラドミ→Em:ミソシ
ドシラソと、少しずつ音が低くなっていることが分かりますね!
パッヘルベルの「カノン」に使われていることから、日本では「カノンコード」や「カノン進行」として名を馳せています。
他に、「カノンコード」や「カノン進行」が使われている曲として、KAN「愛は勝つ」AKB「恋するフォーチュンクッキー」、あいみょん「マリーゴールド」などがあります。
また、山下達郎はあえて、この部分をアカペラで歌唱しています。
アカペラは、現在では無伴奏での歌唱として知られていますが、元々はア・カペラ(a cappella)と表記し、「教会で」という意味をもちます。
ア・カペラは、バロック時代の1つ前、ルネサンス時代に広まった演奏形態です。「教会で」という訳の通り、教会や礼拝堂でキリストを讃美して歌われたため、キリストとの関わりがある演奏形態です。
まさしくキリストの生誕を祝う「クリスマス・イブ」にピッタリの間奏と言えるでしょう!
演奏者は山下達郎だけ?!「さよなら夏の日」
第一生命のCMに使われた「さよなら夏の日」は、1991年にリリースされた21作目のシングルです。
この曲が生まれた背景には、甘酸っぱいエピソードがあります。
高校時代、当時の恋人と共に、地元の遊園地である「としまえん」を訪れた山下達郎。その時に夕立にあい、虹を見上げた時の青春を思い起こしながら作曲した、とインタビューで語っています。
そんな青春の香りが漂うこちらの曲。なんとドラム、ギター、ピアノ、シンセサイザー、ハンドベル、コーラスまで全て山下達郎一人で手掛けています。
当時はスタジオミュージシャンが引っ張りだこで、同じミュージシャンが様々なレコードに携わることも多かったそう。
その状況の中、差別化を図るために、一人での録音に挑戦したと、ラジオ番組で語っています。
彼の演奏スキルの高さに驚嘆すると同時に、当時の音楽への意識、「さよなら夏の日」への思い入れの深さが伝わりますね!
一人でアカペラ!?アルバム「ON THE STREET CORNER」
実は、一人で演奏を手掛けたのは「さよなら夏の日」だけではありません。
1980年にリリースしたカバー・アルバム「ON THE STREET CORNER」では、ほとんど一人でアカペラ歌唱を行っています。
「ON THE STREET CORNER」では、ドゥーワップ(doo-wap)と呼ばれるジャンルの楽曲が多くカバーされています。これは、1950年代に流行した黒人音楽のジャンルで、コーラス隊の「ドゥーワッ」というハミングが特徴的な合唱曲のことです。
山下達郎の多重録音により、均整の取れた美しいハーモニーを堪能できる本アルバム。「ON THE STREET CORNER 2」などの続編や、デジタルリマスター版などを再リリースしながら、今も人気を誇っています。
ゴスペルの影響を受けた「蒼氓」
1988年リリースのアルバム「僕の中の少年」の1曲、「蒼氓(そうぼう)」。なかなか聞き慣れない言葉ですが、「名もなき民」といった意味があります。ゴスペルの影響を受けたバラードとして知られています。
ゴスペルとは、アメリカで生まれた音楽のジャンルです。日本では、本田美奈子が歌唱した「Amaging Grace(アメイジング・グレイス)」や映画「天使にラブソングを」の印象が強いでしょう。
ゴスペルはもともと、黒人が歌うキリスト系の宗教音楽で、アカペラにハンドクラップや足踏みなどを交えながら、パフォーマンス的に演奏されることが多いです。
いわゆる讃美歌と違って、裏声重視で美しく演奏することよりも力強さに重きが置かれ、シンコペーションのリズムやコールアンドレスポンス(掛け合い)が特徴的な音楽です。
曲中のコーラスでは、豪華なメンバーがそろっています。山下達郎・竹内まりや夫妻と、家族ぐるみで親交のある桑田佳祐・原由子夫妻。
ゴスペルらしく、未来への祈りや願いを込めた「ラララ…」は、ユニゾン(ハモりがなく、全員で同じ音を歌唱する)でありながらも耳と心に残るメロディです。
2020年には、アルバム「僕の中の少年」リマスター版のリリースを記念して、ミュージックビデオが公開されました。
後半には、「蒼氓」とは対照的な「踊ろよ、フィッシュ」も収録されています。
テイストの異なる2曲を一気に聴けてしまう、贅沢なミュージックビデオに仕上がっています!
遊び心のある歌詞とミュージックビデオ「RECIPE」
2019年にリリースされたシングル「RECIPE」。この曲は、木村拓哉主演のドラマ「グランメゾン★東京」の主題歌として作曲されたものです。
このドラマは、木村拓哉演じる尾花夏樹が、自身のレストラン「グランメゾン東京」を三ツ星レストランにするために奮闘する、というもの。
歌詞の中でも、”やすらぎのスープ”、”くちづけのテリーヌ”、“はげましのジュレ”とフランス料理にちなんだワードが並びます。
また、可愛らしいアニメーションによるミュージックビデオも必見です!
登場するのは、山下達郎をモチーフにしたタツローくんというCGキャラクター。実際にレコーディングやコンサートが行われたスタジオやライブ会場を舞台に、ロボットダンスやムーンウォークのような動きを披露しています。
歌詞とミュージックビデオ、両方の遊び心に、聴き手の目も耳も釘付けになること間違いなし!
ギターのカッティング「SPARKLE」
1982年にリリースされたアルバム「FOR YOU」には、「SPARKLE」という曲が収録されています。間奏のパートがサントリー生ビールのCMで有名ですね。
冒頭から爽やかで印象的なギターの音色が響くこの曲。実はカッティングというギターの奏法が使われています。
カッティングとは、ギターを弾いたときに、そのまま「ボローン」と音を響かせるのではなく、わざと音の響きを止める(カットする)奏法のことです。
弦を弾いたり止めたりを繰り返すため、繊細な指の動きが求められるのはもちろんのこと、音を止めた時に「ザッ」という雑音が入らないようなテクニックが求められます。
山下達郎は、アマチュアバンド時代はドラマーだったものの、デビューしたバンド・シュガーベイブではギターへと楽器を変えています。「自分はリード・ギターのテクニックが無いから」とカッティングの技術を磨いた結果、一部で「カッティングの山下達郎」と呼ばれるほどの腕前をもつようになりました。
そんな山下達郎が、カッティングに焦点を当てて作ったのがこの曲。
山下達郎自身も愛着のある曲で、ライブでは必ず最初に演奏されるそうです。
「SPARKLE(きらめく、輝くなどの意)」という題名の通り、ワクワク感を楽しめる1曲です。
まとめ
1人で様々な楽器の演奏や歌唱を行い、ギターのカッティングで名を上げるなど、幅広いテクニックを持ち合わせる山下達郎。
彼はあまりメディア露出をしないことで有名です。YouTubeに公開している動画は数少なく、SpotifyやYouTube musicなどサブスクリプションで聴ける楽曲もかなり限られています。
そんな山下達郎の貴重なトークや音源を楽しめるのが、彼自身のラジオ番組「サンデー・ソングブック」。
1992年の放送を皮切りに、2021年7月には放送1500回を迎えました。
この番組では、リスナーからの「リクエスト」が名物。時には未発表のものも含むライブ音源やテイク音源など、無茶ぶりのようなリクエストにも応えています。
多彩な才能をもちつつ、ファンの気持ちも大事にする山下達郎。
シティ・ポップ再流行の波に乗り、もう一度彼の名曲を味わってみてはいかがでしょうか?
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