ふう…なんだか気疲れするなあ…
そういう時はトリップしてリラックスしようよ。
ちょうどいいのがあるんだよね…
ダメだよ!
健全なCal-Chaにそんな違法な品物は…
ん?なにか勘違いしてない?
トリップ感のある気持ちいい音楽を教えてあげようと思ったのに。
サイケデリックロックっていうんだよ。
先に言って!
危うく通報するところだったよ!
サイケデリックロック。
音楽雑誌や音楽情報サイト、CDのライナーノーツなどでよく目にするこの言葉。
「知ってるよ。ヒッピーの人達が聴いてるような怪しげな音楽でしょう?」という大雑把な説明はできても、そこからさらに踏み込んで解説することのできる音楽ファンはそれほど多くはないでしょう。
半世紀以上に及ぶロックの歴史において、サイケデリックロックが流行していたと言えるのは1960年代のわずかな時期に限られており、それ以降はロックシーンの主流に返り咲いていません。
しかし、サイケデリックロックは決して息絶えたわけではなく、その要素は形を変えながら現在も受け継がれています。
近年ではオーストラリア出身の新世代バンドTame Impalaがグラミー賞にノミネートされるなど、サイケデリックロックは再び息を吹き返しつつあります。
今回は謎多き音楽ジャンル、サイケデリックロックについてご紹介していきましょう。
目次
サイケデリックロックとは
サイケデリックロックを理解するには、1960年代に誕生したサイケデリアと呼ばれるカルチャーを知る必要があります。
サイケデリアとは、LSDに代表される幻覚剤を使用した際に生じる視覚や聴覚、思考の変化などを経験した人々による文化の総称で、必ずしも音楽に限定されたものではありません。
サイケデリックな文学もあればサイケデリックなヴィジュアルアートも存在します。
ティーシャツの絞り染めの柄などに多用される極彩色のデザインはサイケデリアの代表的なものだと言えるでしょう。
幻覚剤の影響下にある時の感覚の変化を音で再現する、または幻覚剤の影響を意図的に増幅させる音を奏でるのがサイケデリック・ミュージックであり、その手法をロックに導入したのがサイケデリックロックです。
ストレートなロックとはひと味違う浮遊感の強いサウンドが特徴的で、インド音楽などを彷彿とさせるエキゾチックな音階が使用されることも多々あります。
また、通常の録音方法では再現することのできないサウンドエフェクトの使用や同じフレーズを執拗に反復するなど、様々な創意工夫で非日常的な音世界を生み出しています。
1960年代半ばにピークを迎えたサイケデリアブームは、1960年代の終わりには衰退を迎え、ブームとしてのサイケデリアは短命に終わりました。
ドラッグカルチャーから生まれた音楽ジャンルですが、The BeatlesやThe Rolling Stones、Pink Floydといった超大物バンドもサイケデリアとは無関係ではなく、ロックの歴史において非常に重要なポジションを占めるジャンルであると言えます。
また、サイケデリック・ロックの要素は様々なジャンルへ波及していき、プログレッシヴロックやヘヴィメタルにも多くの影響を与えています。
先ほど例として挙げたThe BeatlesやThe Rolling Stonesのように、サイケデリックロックバンドではないけれど、その歴史の中でサイケデリック色の強いアルバムをリリースしたことがある、というバンドも数多く存在します。
幻覚作用の再現というコンセプトも薬物の使用経験のない一般の音楽リスナーには理解するのが不可能なので、実際に作品をご紹介しながら音の傾向を掴んでいただければと思います。
サイケデリックロックの名盤やシーンを代表するバンドをご紹介していきましょう。
サイケデリックロック・初期の有名バンド
1960年代に隆盛を誇ったサイケデリックロック。
まず最初に、シーンを形作った代表的バンドや名盤をご紹介します。
The Beatles 『Revolver』
1966年にリリースされた『Revolver』は、LSDと東洋思想にのめり込んでいたThe Beatlesが最新スタジオ技術と時代の空気を思う存分取り入れて作り上げたサイケデリックロックの傑作です。
アルバムの最後に収録された名曲“Tomorrow Never Knows”のドラッギーなサウンドを聴けば、彼らが再現しようとしていたものの正体がわかるのではないでしょうか。
同曲の歌詞は、ジョン・レノンが1964年に出版された『チベット死者の書サイケデリック・バージョン』にインスパイアされて書いたものだと言われています。
Pink Floyd 『The Piper at the Gates of Dawn』
イギリスが誇るプログレッシヴロックの巨人Pink Floydは、結成初期はサイケデリックロックを演奏するバンドでした。
後に精神を病んで脱退することになるシド・バレット主導で制作された1967年リリースのデビューアルバム『The Piper at the Gates of Dawn』は、誰かの夢に迷い込んでしまったかのような非現実感のある作品に仕上がっています。
Pink Floydというバンドのイメージとは異なるものの、作品の質は非常に高く、サイケデリックロックの名盤としてリスナーを満足させてくれます。
The 13th Floor Elevators 『The Psychedelic Sounds of the 13th Floor Elevators』
1966年にリリースされたThe 13th Floor Elevatorsのデビューアルバム『The Psychedelic Sounds of the 13th Floor Elevators』は、サイケデリック感丸出しの極彩色のアートワークが絶大な存在感を放っている作品です。
サイケデリックという言葉から受けるイメージと比較するとハードな楽曲もありますが、全体的には陶酔感と浮遊感のある作品だと言えます。
日本のバンドで言えば、ゆらゆら帝国などが好きな方が聴いたらハマるかもしれません。
Jefferson Airplane 『Surrealistic Pillow』
1967年にリリースされた『Surrealistic Pillow』は、サイケデリックロックのパイオニア的存在として知られるJefferson Airplaneのセカンドアルバムです。
女性ヴォーカリストのグレイス・スリックが加入して初のアルバムとなった同作は、全米チャートで3位を記録するヒット作となっています。
現在の基準からするとフォークロックの要素が強いようにも聴こえますが、シングルヒットした“White Rabbit”などトリップ感のある楽曲も収録されており、当時としては革新的なサウンドだったのでしょう。
Cream 『Disraeli Gears』
日本では『カラフル・クリーム』の邦題で知られる同作は、1967年にリリースされたイギリスの3人組ブルーズバンドCreamのセカンドアルバムです。
エリック・クラプトン、ジャック・ブルース、ジンジャー・ベイカーからなるCreamは、ロック史上最強トリオとの呼び声高い超実力派バンドで、1966年から1968年という短い活動期間にも拘わらず、ロック界に偉大な足跡を残しています。
ド派手なアートワークが目を引く同作は、シンプルなブルーズロックだったデビュー作の基本路線は維持しつつも、そこに極彩色のパウダーをぶちまけたような音像の作品です。
代表曲である“Sunshine of Your Love”も収録されており、サイケデリックロックに興味がなくとも必聴の作品だと言えるでしょう。
Flower Travellin’ Band 『Satori』
日本のバンドもご紹介しておきましょう。
内田裕也が実力派シンガーとして知られるジョー山中らと結成したFlower Travellin’ Bandは、東洋的なフレーバーを持つハードなサイケデリックサウンドが海外でも高い評価を受けています。
1971年にリリースされた『Satori』はロック史に残る名盤として知られ、海外のディスクガイドなどでも1970年代の名盤として取り上げられることも少なくありません。
ジョー山中の日本人離れしたヴォーカルと高度に完成されたインストゥルメンタルパートが織りなす緊張感溢れた音世界に魅了される作品となっています。
サイケデリックロック・現代の有名バンド
1970年代を迎える頃にはすでに衰退していたサイケデリックロック。
しかし、その遺伝子は今も世界各地で脈々と受け継がれています。
ネオサイケやモダンサイケなど呼称は様々ですが、良質のサイケデリックロックを鳴らす現代のバンドも併せてご紹介していきましょう。
Tame Impala 『Currents』
2007年に結成されたオーストラリア出身のTame Impalaは、現代のサイケデリックロックシーンを代表する大物バンドです。
現代のバンドらしくインディロック感やエレクトロからの影響も巧みに消化したサウンドは、若いロックファンから絶大な支持を受けています。
グラミー賞にもノミネートされた2015年リリースの『Currents』は彼らの代表作のひとつで、踊れる要素も絶妙に配分された聴きやすい作品です。
King Gizzard & the Lizard Wizard
またしてもオーストラリア出身のバンドをご紹介します。
2010年に結成されたKing Gizzard & the Lizard Wizardは、活動期間10年足らずで15枚のスタジオアルバムをリリースしている超多作なバンドとしても知られています。
その音楽性はサイケデリックロックを基調としつつも、アルバムごとにコロコロと変化し、2018年の『Fishing for Fishies』ではブギー、2019年の『Infest the Rats’ Nest』ではなんとスラッシュメタルを演奏しています。
ライヴバンドとしても非常に高い実力を持っており、2019年のFuji Rock Festivalでは耳の肥えたロックファンからも大絶賛を浴びました。
先ほど述べた通りアルバムによってテイストがかなり異なるのでオススメ作は挙げませんが、ロックファンの琴線に触れる素晴らしいバンドであることは断言できます。
Psychedelic Porn Crumpets 『And Now for the Whatchamacallit』
またまたオーストラリアのバンドです。
現在、オーストラリアは良質なサイケデリックロックバンドの一大輸出国となっています。
2014年に結成されたPsychedelic Porn Crumpetsは、オルタナディヴロックやガレージロックの要素を感じさせるサイケデリックロックを売りとするバンドです。
70年代ハードロックの香りを感じさせるリフやドリーミーなパートなどを上手く散りばめ、バンドの印象をひとつに絞らせないあたりにセンスを感じます。
どの作品も良質で甲乙つけがたいですが、初来日となった2019年のSummer Sonicでの熱演も記憶に新しく、ここは同年にリリースされたアルバム『And Now for the Whatchamacallit』を挙げておきましょう。
彼らの作品はアートワークも素晴らしいので、音楽だけではなくジャケットも併せて楽しんでいただきたいです。
まとめ
今回ご紹介したバンドの音を聴いていただくと、バンドによってかなりサウンドの雰囲気が異なるのがおわかりいただけたかと思います。
しかし、どのバンドにも共通しているのは、言葉で表すのが難しい「サイケ感」を持っていることです。
みなさんが好きなバンドの曲の中にも「あ。このパート、なんかサイケっぽいな」という部分があったりするのではないでしょうか。
この記事でサイケデリックロックに興味を持たれたら、そんなサイケな匂いのするバンドを探してみてください。
記事内において幻覚剤について触れましたが、違法薬物の所持・使用は法律で禁じられています。
音楽で合法的に気持ちよくなりましょう。