Death Metal(デスメタル)ってどういう音楽…?歴史と代表的アーティストを解説!

Death Metal(デスメタル)ってどういう音楽…?歴史と代表的アーティストを解説!

つかぬことをお訊きしますが…デスメタルはお好きですか?


あ。僕はそういうのダメなので。怖くてうるさい音楽でしょ?


はあ……(ため息)
それは偏見というものですよ。聴きやすいデスメタルもあるんです。


えっ。そうなの?
聴かず嫌いはよくないし、ちょっと教えてもらおうかな……

松山ケンイチ主演で映画化された人気ギャグ漫画『デトロイト・メタル・シティ』や広瀬すず主演の映画『一度死んでみた』などの作品で重要な役割を果たした音楽ジャンル、デスメタル(Death Metal)

ヘヴィメタルのサブジャンルとして1980年代に誕生したデスメタルは、「死のメタル」というおどろおどろしい名称や「デス声」と呼ばれる低音の唸り声のようなヴォーカルスタイルのため、「なんか怖そう…」と敬遠されがちな音楽ジャンルのひとつです。

エクストリーム・メタルと総称される激烈な音楽性を指すジャンルに含まれるデスメタルですが、近年の日本国内でもマキシマム ザ ホルモンに代表されるような、デス声をアイデンティティのひとつとしながらも大きな商業的成功を収めるバンドも出現するなど、一般の音楽リスナーにとってデスメタルは決して縁遠いジャンルではなくなってきています。

高音でパワフルなヴォーカルと流麗なギターワークが美徳とされたヘヴィメタルというジャンルにおいて、低音の聴き苦しいデス声と激烈な演奏に注力するデスメタルの出現は、伝統的なヘヴィメタルファンからは邪道として唾棄されるものでした。

しかし、従来のヘヴィメタルとは一線を画す過激なサウンドが一部のマニア層から支持され、1990年代に起こったデスメタルブームの追い風もあり、今ではヘヴィメタルの中で主流と呼んでも差し支えないポジションを獲得しています。

今回はデスメタルの歴史や音楽スタイル、シーンを代表するバンドなどをご紹介していきたいと思います。

デスメタル・歴史

デスメタル・源流

デスメタルの起源については諸説ありますが、その誕生に絶大な影響を及ぼしたと言われている2組のバンドが存在します。

まずひとつめは、1978年にイギリスで結成されたヘヴィメタルバンドVenomです。

1981年のデビューアルバム『Welcome to Hell』、それに続く『Black Metal』の2枚のアルバムは、デスメタルのみならずエクストリーム・メタル全般に大きな影響を与えています。

特に後者の『Black Metal』は、名称そのままのブラックメタルというジャンルに多大な影響を与えた作品でもあります。

『Welcome to Hell』のヘヴィメタルとパンクを合体させたような荒々しさ、『Black Metal』の禍々しいサウンドから影響を受けた後続のバンド群が、その影響を自分たちなりに消化して作り上げていったのがデスメタルだと言えるでしょう。

ふたつめのバンドは、Venomに大きな影響を受けて1983年に結成されたスウェーデン出身のBathoryです。

Venomをさらに速く過激にしたかのようなサウンドは凄まじいのひと言に尽き、Bathoryの最初の4枚のアルバムは「激烈さ」という点で後続バンドに目指すべき基準を示しました。

Bathoryというバンド名はVenomの楽曲 “Countess Bathory”が由来となっています。

初期のVenomやBathoryの作品は音質が劣悪なことでも知られており、それが功を奏したのか、分離の悪い聴き苦しい音が凶悪さを際立たせる結果となりました。

これは低予算と稚拙な演奏技術が生んだ結果でしたが、この劣悪な音質に憧れるバンドも多く、わざと音質を悪くするケースまで登場するなど、音質の悪さはデスメタルというジャンルのひとつの特徴として認識されています。

VenomとBathoryが蒔いたエクストリーム・メタルの種子は、北米やヨーロッパの各地で次第に芽を出していきます。

アメリカのSlayerやドイツのKreatorなどのスラッシュメタルバンド、そして初期ブラックメタルの誕生に大きく寄与することになるスイスのCeltic Frostなどが従来のメタルよりも遥かに過激な音楽を発表し、刺激を求める先鋭的なメタルファンの耳を捕らえ始めたのです。

ハイトーンヴォイスとギターの速弾きを華とする王道のヘヴィメタルとは対照的な過激で獰猛なサウンド、それらはデスメタルという新しいジャンルとして毒々しい花を咲かせることになりました。

デスメタル・初期

デスメタルの元祖として知られるバンドの多くはアメリカから誕生しました。

サンフランシスコのPossessedが1985年にリリースしたデビューアルバム『Seven Churches』「初のデスメタルアルバム」と評されることも多く、そのものズバリ“Death Metal”という楽曲が収録されています。

フロリダからはDeath、Obituary、Morbid Angel、Deicideなど才能豊かなデスメタルバンドが数多く誕生し、デスメタルの総本山と呼ばれました。

また、フロリダにあるモリサウンド・スタジオのスコット・バーンズは、デスメタル作品のプロデュース/ミキシングに精通した名手として知られ、彼に依頼するためにフロリダ以外からも数多くのデスメタルバンドがやって来たほどです。

デスメタルのパイオニア達が質の高いアルバムを作り続け、ジャンルの枠を広げていくのに伴い、1990年代には世界各地から将来有望なバンドが次々と登場し始めました。

ゲテモノだったデスメタルはいつしかヘヴィメタル業界でも無視できない存在となり、多くのバンドがレコード契約を手にすることとなります。

ヘヴィメタル専門レーベルであるRoadrunner Records、Earache Records、Nuclear Blast、Century Mediaなどは良質のデスメタルバンドを数多く抱え、大ヒットとまでは言えないまでも、それまでのデスメタルのイメージからは想像もできないほどの枚数のレコードを売ることに成功しました。

特にCannibal CorpseMorbid Angelはデスメタルバンドとしては破格の成功を収め、一般の音楽ファンの間でも名前が知られるほどの認知度を獲得しています。

1990年代前半はデスメタルにとってのバブル期だったと言えるでしょう。

デスメタル・メロディの導入

ヘヴィメタルのサブジャンルとしてのデスメタルの地位が確立され、数多くのバンドが切磋琢磨した結果、従来のデスメタルには無かった要素を取り入れることで差別化を図る流れが生まれてきました。

その最たるものがメロディの導入です。

メロディアスという言葉とは対極に位置する無慈悲な音楽ジャンルであったはずのデスメタルですが、デス声や激烈なギターリフなどの基本路線は維持しつつも、その中に美しいギターメロディを織り交ぜていくという新たな手法が登場し、ヘヴィメタルファンに大きな衝撃を与えました

デスメタルに美麗なメロディを導入するというタブーを犯して一躍脚光を浴びたのは、イギリス出身のCarcassが1993年にリリースしたアルバム『Heartwork』でした。

死体のコラージュ写真をアートワークとして使うなど悪名高く、血みどろのデスメタルを演奏していたCarcassですが、スウェーデン人ギタリストのマイケル・アモットが奏でる美麗なギターメロディを前面に押し出した同作でブレイクを果たします。

今なお傑作として語り継がれる『Heartwork』は、メロディック・デスメタルというジャンルの扉を開いた作品として歴史に名を刻んでいます。

また、北欧からは多くのメロディック・デスメタルバンドが輩出され、Carcass脱退後にマイケル・アモットが結成したArch Enemyやアメリカでも成功を収めたIn Flamesなどがその代表格だと言えるでしょう。

デスメタル・技巧派

テクニック面を追求していくバンドも登場しました。

その代表格のひとつとして挙げられるのが、フロリダ出身のDeathです。

バンドの頭脳にしてギターの名手チャック・シュルディナー率いるDeathは、プログレッシヴ・デスメタルとも形容される複雑で高度な演奏技術を要する音楽性へ舵を切っていきました。

1991年リリースの『Human』はDeathの代表作として知られ、非常に難解な内容にもかかわらず、現在までに全世界で60万枚以上のセールスを記録しています。

同じくプログレッシヴ路線のデスメタルバンドとしては、スウェーデン出身のOpethがいますが、近年ではデスメタルからの影響を脱却し、デス声ではなくクリーンヴォイスで歌うなどその音楽性はさらに変化を続けています。

デスメタル・ハードコアとの融合

メタルとハードコアの融合ジャンルであるメタルコアにデスメタルの要素を導入したバンドもいます。

メタルコアは日本でも高い人気を誇る音楽ジャンルであり、デスメタルに免疫のない音楽ファンにも受け入れやすいのが、このデスコアと呼ばれるジャンルかもしれません。

アメリカ出身のSuicide Silenceはデスコアを代表する人気バンドで、複数のアルバムをチャートの上位を送り込んでいます。

2012年にヴォーカリストのミッチ・ラッカーを事故で亡くすという悲劇を経験しましたが、後任ヴォーカリストを迎えて現在も活動を続けています。

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デスメタル・音楽性

やはりデスメタルという音楽ジャンルを決定付ける最大の要素は、デス声と呼ばれるヴォーカルスタイルでしょう。

テクニックによってグロウルやガテラルなど呼称が変化しますが、従来の歌唱という概念から大きく外れた低く唸るような発声は、まさにデスメタルというジャンルにふさわしい表現方法だと言えます。

下水道ヴォイスと呼ばれるほど極悪な歌唱を聴かせるヴォーカリストも存在し、ネイティヴスピーカーが聴いても歌詞を聴きとれないほどです。

歌詞の内容は、死や暴力、オカルト、政治など多岐に渡ります。

デスメタルという音楽の特性上、ラヴソングや応援ソングなどは存在しないと言っていいでしょう。

その残虐な歌詞が問題視されることもありますが、ほとんどのバンドはホラー映画やホラー映画と同じようにエンターテイメント的な表現のひとつとして歌詞を書いており、実際にそのような思想を持っているわけではありません。

イギリスのCarcassは歌詞に医学用語を多用しており、“硫酸どろどろなんでも溶かす”などインパクトのありすぎる邦題が付いた楽曲の数々はヘヴィメタルファンの間で半ば伝説化しています。

多くのデスメタルバンドは、ツインギター、ベース、ドラムで編成されています。

ギタリストかベーシストがヴォーカルを兼任するケースも多く、複雑なフレーズを演奏しながら歌う姿には尊敬の念を抱かずにはいられません。

弦楽器は低くチューニングされ(ダウン・チューニング)、エフェクターで極端な歪みを生み出していることが多いです。

クロマチックと言われる半音階のコード進行やスピーディーな単音ギターリフなどが多用されることも特徴のひとつで、バンドによってはメロディアスなギターフレーズなどを加えることもあります。

また、激烈な曲調を生み出すために、高速でテクニカルなドラム演奏を求められるケースが多く、デスメタル界にはドラムの名手が多数存在することで知られています。

Morbid Angelのピート・サンドヴァルやVaderのドック(故人)、Crypstopsyのフロ・モーニエなど名前を挙げたらキリがないほどで、その演奏ぶりは人間技とは思えません。

デスメタル・代表的バンド

「轟音の中でボエボエ叫んでいるだけ」という先入観で敬遠されがちなデスメタルですが、実は必ずしもそうではありません。

バンドによって異なる音楽性を持っており、デス声のヴォーカルがなければ普通のヘヴィメタルに近いのではないかと思えるバンドもいるほどです。

スタイルの異なるデスメタルバンドを何組かご紹介していきましょう。

Cannibal Corpse

1988年にフロリダで結成されたCannibal Corpseは、「これぞデスメタル!」というサウンドを持った王道デスメタルバンドです。

アルバムセールスが累計100万枚を突破しているデスメタル界の大スターで、ジム・キャリー主演の映画『エース・ベンチュラ』にも出演するなど高い知名度を誇っています。

ヘッドバンギングしながら爆音で聴くのにふさわしい獰猛のサウンドは、まさに王者の風格だと言えるでしょう。

Death

最初期のデスメタルシーンを形作ったDeathは、1983年にフロリダで結成されたデスメタル界の重鎮バンドです。

リーダーのチャック・シュルディナーが生み出すテクニカルなデスメタルは、後続のバンドに多大な影響を与えました。

2001年にチャック・シュルディナーは脳腫瘍のため死去しましたが、彼が残した名盤の数々は今も色褪せることなく多くのファンに愛聴されています。

Obituary

上記2バンドと同じくフロリダのデスメタルシーンから登場したObituaryは、1984年から活動を続ける大ベテランバンドです。

1997年に一度解散しますが、2003年に再結成し、現在も活動を続けています。

速さを売りにするバンドではなく、スローからミドルテンポの楽曲が多いのが特徴で、重厚感のあるグルーヴを好む音楽リスナーにオススメです。

Carcass

日本では「リヴァプールの残虐王」というキャッチフレーズで知られるCarcassは、1985年に結成されたイギリスのデスメタルバンドです。

当初はゴアグラインドと呼ばれる激烈で一般受けの非常に悪い作風だった彼らですが、1993年リリースのアルバム『Heartwork』でヘヴィメタル界に衝撃を与えることになります。

デスメタルにメロディアスなギターフレーズを導入するというスタイルを発明し、それまでデスメタルを敬遠していたリスナーを取り込むことに成功したのです。

後のメロディック・デスメタル隆盛のきっかけともなった『Heartwork』は、デスメタルの歴史を変えた記念碑的なアルバムだと言えるでしょう。

1996年に解散しますが、10年以上の時を経て2007年に再結成。

2012年にリリースされた再結成後初のアルバム『Surgical Steel』は、Carcassの新たな名盤としてヘヴィメタルファンから絶賛されています。

そして、2020年10月30日にリリースされるファン待望の新作EP『Despicable』の邦題はなんと『鬼メスの刃』

日本中のメタルファンを唖然とさせました。

Arch Enemy

Carcassが開いたメロディック・デスメタルの扉は、まさに新たな時代の幕開けとなりました。

1995年に元Carcassのギタリスト、マイケル・アモットが結成したスウェーデンのArch Enemyは、メロディック・デスメタルの第一世代を代表するバンドだと言えるでしょう。

王道のヘヴィメタル/ハードロックを音楽的ルーツに持つマイケル・アモットのソングライティングはまさに天才的で、世界各国のチャートにアルバムを送り込むなど、世界でもっとも有名なメロディック・デスメタルバンドのひとつとして知られています。

これまでに3人のヴォーカリストが在籍しており、そのうち男性は初代ヴォーカリストのヨハン・リーヴァだけで、それ以降は女性が務めています。

しかし、その強靭なヴォーカルは、音源を聴いただけでは女性であるとは信じられないほどです。

GYZE

最後に日本のバンドをご紹介しておきましょう。

北海道出身のGYZE(ギゼ)は、2009年に結成されたメロディック・デスメタルバンドです。

日本国内よりも先に海外のレーベルからデビューを果たしており、その作品が国内で大評判となった結果、1年以上遅れて日本盤がリリースされたという“逆輸入アーティスト”として話題になりました。

美しいギターメロディと卓越したソングライティングは国内外で高く評価されており、海外ツアーも頻繁におこなっています。

中心メンバーであるRyojiShujiは実の兄弟ですが、Shujiが体調不良でバンド活動からの離脱を余儀なくされており、現在はサポートメンバーを入れて活動を継続しています。

デスメタル・まとめ

かつてはゲテモノ扱いだったデスメタルですが、現在ではヘヴィメタルの人気ジャンルになっている状況を見るにつけ、時代と共に価値観は変化していくのだということを強く実感します。

これまでデスメタルを聴いたことがないという方が、この記事をきっかけに「ちょっとだけ聴いてみようかな」と思っていただけたら幸いです。

「怖いもの見たさ」ならぬ「怖いもの聴きたさ」でチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

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