アニメソング(アニソン)とは、作品を彩るうえで重要な要素のひとつです。
作品の世界観を歌で表現し、曲に合わせて様々な表情を見せるキャラクターたちに心躍ったことがあるのではないでしょうか。
テレビアニメがそれほど広まっていなかった頃と比べると、現在のアニソンはひとつのジャンルとして確立し、アニメの枠だけでなく音楽番組やライブイベントなどの開催によって多くの人から注目を浴びるようになりました。
放送されるテレビアニメの数も年々増えていき、それに伴ってアニソン市場も多様化しつつあります。
今回はそんな多様化しつつあるアニソンの歴史について触れながら、時代の流れとともにどのような変化があったのか、今と昔の違いについて「前編」と「後編」に分けて紹介していきます。
「そうえいばこんなアニソンもあったなぁ」と、自分が慣れ親しんだアニソンを思い出しながらぜひ御覧ください。
目次
アニメソング(アニソン)とは
アニメソング(アニソン)の歴史を紐解く前に、アニソンについて今一度振り返ってみましょう。
現在知られているアニソンがどのようにファンに届けられているのか、項目に分けて簡単にご紹介します。
アニメの主題歌および挿入歌
アニソンと言うと、多くの人がアニメのオープニングとエンディングに流れる曲のことを指すと思います。
これらを総じて主題歌と言いますが、主題歌以外に劇中歌で流れる挿入歌もアニソンに分類されます。
また、アニメ本編とは別枠で、作品のキャラクターを務める声優たちが歌うキャラクターソング(キャラソン)もアニソンと呼んでもいいでしょう。
アニソンを歌うのは主にアニメ曲を専門に歌うアニメソング歌手(アニソン歌手)や声優です。有名アーティストや新人アーティストを起用したタイアップというものもありますが、一部ではタイアップの曲はアニソンではないと主張する人もいます。
音楽的なジャンルは実に様々
世間一般ではアニソンはひとつのジャンルとして認知されていますが、その中身は複数のジャンルが入り乱れているものを総じてアニソンとしています。
アニソンはその作品の世界観や起用されるアーティストにより、ロックやポップといったジャンルに振り分けることができるので、ひとつに分類することはできません。
童謡風の親しみやすい曲調から、ハードロックを基調とした激しい曲。ポップでアップテンポなリズム感溢れるもの。邦楽アーティスだけでなく海外のアーティストの参入。また、初期の頃には合唱団を用いた曲も存在しており、その時制によってアニソンは変化を続けてきました。
ライブイベントを開催する人気を誇る
アニソンはアニメにおいてなくてはならないものとして確立し、2000年以降の近年ではアニソンを主体としたライブイベントなどが多数開催されています。
また、声優やアニソン歌手がメディアに露出するのが当たり前となった昨今では、声優によるイベントも多数行われ、その声優やアニソン歌手を目当てにするファンも少なくありません。
その規模はイベントによって実に様々で、ドームで行われる大がかりなものから、ライブハウスのような比較的小さな場所でも行われています。
- Animelo Summer Live(アニサマ)
- ANIMAX MUSIX
- リスアニ!LIVE
上記のライブイベントの他にレコード会社が単独で行う不定期開催のイベントもあり、アニソンの普及に伴ってその数を増やしつつあります。
若手からベテランまで活躍中
テレビアニメが普及されるにつれ、現在では多数のアニソン歌手が活躍しています。また、アニメに限らず今ではゲームにも主題歌がつくようになりました。
アニソン歌手の活躍の場が広がり、それに伴って新人も続々と登場。アニソン歌手が音楽番組に出演することも、もはや当たり前とまで言われています。
また、中高年世代から支持されているベテランアニソン歌手も現役で活動しており、時代の流れとともにメディアに取り上げられるようになりました。それによって今の若い世代からも支持を集め、アニソンの規模はさらなる広がりを見せています。
- LiSA
- 水樹奈々
- 藍井エイル
- 水木一郎
- 鈴木このみ
- 影山ヒロノブ
- JAM Project
- 奥井雅美
- ささきいさお
- きただにひろし
ここに掲載されているアーティストはほんの一部にしか過ぎません。タイアップを多数手がけるアーティストなどを合わせれば、その数は膨大なものとなるでしょう。それだけ、昨今のアニメ業界が拡大している証拠です。
アニメソング(アニソン)の歴史
そんな拡大を続けているアニソンですが、その始まりはいつ頃からだったのか、気になる人もいると思います。
ここでは、アニソンがいつ頃から普及を始め、時代ごとにどのような変化をしてきたかについてまとめています。
「そんな時代もあったのか」「最近はこういったアニソンなのか」と、自分が知っているアニメが放送された年代とぜひ比べてみてください。
前編ではアニソンの始まりから1990年代までを紹介しています。
【1929年~】アニソンの始まり
諸説ありますが、アニソンが初めて生まれたのは1929年にビクターからリリースされた児童ジャズレコード『黒ニャゴ』および、その同名タイトルのアニメ映画(1931年公開)が始まりだったと言われています。
しかし、当時のアニソンは現代のようにオープニングやエンディングといった主題歌は収録されておらず、主に登場人物によって歌唱される劇中歌として扱うことがほとんどでした。レコード自体も発売されることは少なく、未発売の曲も多数存在します。
また、アニメという呼称もされていなかったため「まんがの歌」「テレビまんが」「まんが映画」と呼ばれており、童謡としての扱いがほとんどでした。
1940年以降には物品税が導入され、童謡と判定されれば非課税となっていたので、アニソンを童謡扱いとするレコード会社もあったようです。
上記の経緯があり、それがアニソンなのか童謡なのか曖昧なものとなっています。
「物品税」とは、消費税が導入される前の制度。主に生活必需品などは非課税にされ、娯楽として使用される贅沢品は高い税率が課されていました。しかし、商品によってはグレーゾーンも存在し「どれが、なぜ、課税か非課税か」と問題になったために廃止されました。
【1960年代】まんがソノシート・鉄腕アトム
1960年代に朝日ソノラマから発売された『まんがソノシート』がヒットしたことにより「まんがの歌」「テレビまんが」「まんが映画」と呼ばれていたものが「アニメ」と呼称されるようになりました。
まんがソノシートは安価で購入できたこともあり、これをきっかけに子供たちにアニメが広まり、童謡だったものがアニソンとして確立するようになります。
『まんがソノシート』および『ソノシート』とは、通常のレコードとは異なる薄い録音盤のことを言います。形状はレコードそのものですが、極めて薄く、曲げられる程に柔らかいため、雑誌の付録としても利用されました。ちなみに『ソノシート』は朝日ソノプレス社の商標なので『フォノシート』や『シートレコード』とも呼ばれています。
そして、1963年には漫画家の手塚治虫さんが原作のテレビアニメ『鉄腕アトム』が放送を開始しました。
現代では当たり前となった30分形式での毎週放送は、これが日本国内初のアニメ作品となり、その後のアニメ作品に大きな影響を残しました。アニメ業界の礎となったと言っても過言ではないでしょう。
本題のアニソンですが、これにはメインとなる歌手は起用されていません。作品の主題歌を担当したのは少年合唱団によるもので、『鉄腕アトム』を含めて当時の子供向け作品(ウルトラマンなど)において広く浸透していました。
この頃のアニメは現代のように幅広い世代が夢中になるようなものではなく、子供のためという扱いおよび認識がされていました。
使用されるアニソンはそんな子供たちにもわかりやすいように作られているものがほとんどでした。しかし、中には演歌を用いる作品もあり、当時から意表を突くようなアニソンというのは存在していたようです。
ちなみにこの当時のアニソンには作中の必殺技などが歌詞に織り込まれているものがほとんどです。これは、アニメに登場するアイテムやグッズを販売するために玩具メーカーがスポンサーになったためであり、その宣伝目的として歌詞にひと手間加えたとのこと。
そんな子供向けとして認知されていたアニメ作品ですが、1960年代後半頃から徐々に世代幅を広げていく傾向にありました。
- ジャングル大帝(1965年)
- オバケのQ太郎(1965年)
- おそ松くん(1966年)
- 魔法使いサリー(1966年)
- リボンの騎士(1967年)
- マッハGoGoGo(1967年)
- ゲゲゲの鬼太郎(1968年)
- 巨人の星(1968年)
- サイボーグ009(1968年)
- 妖怪人間ベム(1968年)
また、少女漫画を原作とするアニメも登場するようになり、世代や性別に関係のない現在のアニメ文化に近いものへと変化をしていきました。
これに伴ってアニソンにも作品ごとの雰囲気が重視され、1960年代初頭に多く見られた合唱団による歌は、次第にコーラスとしてだけ使われるようになりました。
【1970年代】第一次アニメブームの到来
1970年代に入ると、アニメ作品だけでなくアニソンもがらりと変化しました。
1960年代後半に放送された『巨人の星』や、1970年代初頭に放送された『あしたのジョー』はまさにその変化を与えた作品と言えるでしょう。
アニメの内容もスポ根による泥臭さや過激な描写が増え、この頃からアニメは子供だけでなく中高生にまで影響を与えるようになりました。
その他には『科学忍者隊ガッチャマン』『マジンガーZ』『キューティーハニー』といったアニメが放送。これらが放送されるようになってからは『アニソン歌手』というアーティストが続々と起用されるようになり、主題歌の多くは現在でも歌い継がれるほどの人気を誇っています。
- 水木一郎(マジンガーZなど)
- 子門真人(およげ!たいやきくんなど)
- ささきいさお(宇宙戦艦ヤマトなど)
- 堀江美都子(キャンディ・キャンディなど)
- 大杉久美子(アタックNo.1など)
ちなみに当時のレコード会社は、アニソンには商業的な価値がないと判断しており「歌謡曲などのついで程度」という扱いだったそうです。
しかし、そんな酷評をひっくり返す出来事が起こりました。子門真人さんが歌う『およげ!たいやきくん』が国民的大ヒットを記録したのです。
国民的大ヒットを記録した『およげ!たいやきくんは』は、シングルとして日本国内で最も売れた曲でもあり、その総数は約450万枚を超えています。ちなみに2位は宮史郎とぴんからトリオさんの『女のみち』で、こちらが約325万枚。驚異的な数字です。
そして『およげ!たいやきくん』に続き、堀江美都子さんが担当した『キャンディ・キャンディ』の主題歌レコードも記録的ヒットとなり「アニソンにも商業的な価値はある」と判断したレコード会社は、アニソン専門の部署を設立します。これに伴ってアニソン歌手がステージや音楽番組に出演するようになりました。
また、熱狂的なアニメファンを獲得したことでも有名な『宇宙戦艦ヤマト』の登場もあり、1980年代に引き継ぐようにアニメブームが到来しました。
ちょっとした小ネタとして『キャンディ・キャンディ』は著作権絡みで裁判沙汰にまで発展し、現在では原作コミックが絶版。テレビアニメも再放送およびDVDなどの販売が不可能となっており、漫画は高額な取引が行われています。違った面でも有名な作品です。
【1980年代】タイアップによるオシャレさが普及
1980年代になると『宇宙戦艦ヤマト』に続き、現在でも多数のシリーズを展開している『機動戦士ガンダム』がブームに更なる勢いを与えました。
この頃になるとアニメはもはや子供だけを対象にしたものではなく、大人も楽しめる文化へと変貌していきました。
しかし、これまでのアニメは子供たち向けに作られていたものがほとんどで、今までのタイトルや必殺技を連呼する(タイトル叫ぶ系)アニソンは、泥臭さやオシャレさに溢れるアニメ作品とは合わなくなっていました。
これには、当時の日本がバブル期の真っ只中にあることも要因のひとつとして挙げられており、都会のオシャレさを好む傾向にもあったからと言えます。
1970年代後半に登場したアニメ映画『銀河鉄道999 (The Galaxy Express 999)』のゴダイゴさんによる主題歌は、そのオシャレさの最前線に立っていたと言っても過言ではないでしょう。
時代に合ったこの主題歌は大ヒットを記録しており、現代でもカバー曲として登場することがあるほどです。
これらをきっかけにアニメの内容をそのまま歌にした系統の曲は少なくなり、オシャレさを追求してタイアップによる有名歌手を起用する流れが多くなりました。
テレビアニメ初のタイアップと言われているのが、1983年に放送された『キャッツ・アイ』で、この時に起用されたのが歌手の杏里さんでした。
また、現代でも語り継がれるアニメとして『タッチ』『ドラゴンボール』『キン肉マン』『北斗の拳』『Dr.スランプ アラレちゃん』『うる星やつら』『めぞん一刻』など、現代のアニメ界のレジェンド的な立ち位置にある作品が放送されたことにより、アニメ業界はより盛り上がりを見せました。
それに伴ってアニメスタジオも続々と設立され、宮崎駿監督のスタジオジブリも1985年に設立。翌年にはジブリシリーズ第1作となる『天空の城ラピュタ』が公開され、テレビアニメだけでなくアニメ映画にも注目が集まるようになりました。
アニメスタジオの新規設立に伴ってアニソンも有名歌手を起用したものが続出。しかし、これによって昔ながらのアニメに合わせた歌詞などがほとんどなくなってしまい、時代の流行や雰囲気だけの主題歌が乱発する事態が発生しました。
アニメとは直接関係のないラブソングが流れたりと、旧来のアニメ作品を親しんでいたファンからは否定的な意見もあったようです。
しかし、これらのアニソンが人気がなかったかと言うとそうではなく、主題歌の在り方そのものが変わっても、時代に合わせた曲の人気は旧来のアニソンと比べても決して劣るようなものではありませんでした。
【1990年代】第二次アニメブームの到来
1990年代となると、現代でも活躍するアニメが登場した豊作の年代であったと言えます。
- ちびまる子ちゃん(1990年)
- 勇者エクスカイザー(1990年)
- 美少女戦士セーラームーン(1992年)
- クレヨンしんちゃん(1992年)
- 忍たま乱太郎(1993年)
- 魔法騎士レイアース(1994年)
- 新世紀エヴァンゲリオン(1995年)
- 名探偵コナン(1996年)
- こちら葛飾区亀有公園前派出所(1996年)
- ポケットモンスター(1997年)
- おじゃる丸(1998年)
- カウボーイビバップ(1998年)
- ONE PIECE(1999年)
人によっては見慣れたタイトルが並んでいるのではないでしょうか。
この頃はアニソンに限らず、音楽全般に小室哲哉さんブームが浸透しており、とくに打ち込みやテクノ風の曲が大きな話題となっていました。
子供向けアニメもこれまでは童謡を中心としたものでしたが、アニメ『ポケットモンスター』のポップ性の強い曲がヒットしたこともあり、この頃から減少傾向にありました。
哲学的な思想や青少年のリアルさを描いたロボットアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』は大ヒットを記録し、現代でも映画化や様々なグッズ展開をするに至っています。
上記のアニメのヒットなどもあり、アニソンそのものも高い人気を誇りました。アニソンはタイアップであっても売れると認識した大手レコード会社(エイベックス、ソニーミュージックなど)は、これを機にアニメの直接スポンサーに関わるようになります。
また、アニメやアニソン以外に声優にもスポットが当てられるようになり、声優専門雑誌『声優グランプリ』『VOICE Animeage』などが創刊。
声優の林原めぐみさんはとくに高い人気を誇っており、自身が歌う『Give a reason』は、ミリオンセラーが乱立する90年代の音楽チャートにおいてトップ10に入る活躍を見せました。
現在では主流となっているアーティスト性を全面に押し出したアニソンは、この頃から受け入れられるようになったと言われています。キャッチーさだけにこだわらないタイアップ曲が目立ち、現在までのアニソンの流れに大きな影響を与えました。
前編のまとめ
前編ではアニソンとはどういったものか、そして、アニメとアニソンの成り立ちから2000年代に至るまでの歴史を振り返ってみました。
世代によっては意外と知らないこともあったかもしれません。
もし興味がある方は、過去のアニソンにも触れてみるのもいいでしょう。
今と違う雰囲気を持つアニソンにもしかするとハマってしまうかもしれません。
後編ではアニメとアニソンの成り立ちの2000年以降から現在に至るまで、そして、多様性溢れるアニソンについての解説をしています。
気になる方はぜひ御覧ください。
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