2022年、100年間で最も暑い夏にリリースしたドレスコーズのアルバム「戀愛大全」を引っ提げて行われたツアー「戀愛遊行」の大阪、味園ユニバースでの公演を収録したDVD/Blu-ray「ドレスコーズの味園ユニバース」。
志磨遼平をしてまぼろしの一夜と言わしめたそのライブ映像をレポートしていきます。
目次
『ドレスコーズの味園ユニバース』・ディスクレビュー Part.1
味園ユニバースと志磨遼平
ライブには楽曲の持つ意味合いと演出、そしてステージそのものが持つ意味などが複雑に絡み合いひとつのストーリーになるような感動を起こす瞬間があります。ドレスコーズ、志磨遼平というストーリーが味園ユニバースのストーリーに重なった一夜がまさにここにありました。
味園ユニバースは1955年から2011年までキャバレーとして営業していた、日本のアンダーグラウンド文化の発信地でもあった場所です。現在は貸しホールとして運営されていますが、派手なネオンサインをはじめ当時の雰囲気を残したステージはライブハウスとは一線を画した独特の妖しさがあります。
一方、志磨遼平という男はかつて毛皮のマリーズというバンドを発足しアンダーグラウンドの帝王、東京のストゥージズなどと呼ばれインディーズ・シーンを席巻したまさに音楽業界でいうところのアンダーグラウンドの最先端でした。毛皮のマリーズ解散後すぐに始動したドレスコーズも、アルバムを2枚、EPを1枚発表したところで志磨以外のメンバーが脱退。以降はアルバムやツアーごとにメンバーを替えるという特殊なスタイルで活動しています。ロックンロールへの深い理解ゆえにロックンロールから離れていった音楽性やその出で立ち振る舞いも、他のアーティストと一線を画す妖しい雰囲気を纏っています。
味園ユニバースとドレスコーズ志磨遼平、そのストーリーには重なるポイントがいくつもあるのです。
宇宙の入り口、味園ユニバース
さて、本編はジュリアン・ビアバン・レヴィ監督によるショートムービーからの導入になっています。「眠るのをやめて、昨日と今日と明日を繋いでいくと宇宙が見えるんだって」という象徴的な台詞があります。宇宙とはユニバース、夜の街の象徴であった味園ユニバースは精神的な宇宙=自由につながる場所として説明されます。
そしてそのまま1曲目「ナイトクロールライダー」が始まります。夜を泳いで宇宙を見に行く、そんな生き方をしている人間の歌であることがこのストーリー構成で明らかになります。浮遊感のある楽曲とやわらかい歌唱で一気に世界観に引き込まれていきます。これが夜の入り口です。2曲目は「聖者」、照明が当たり志磨のスパンコールのトップスが顕わになります。勢いのある楽曲で一気に観客が盛り上がっているのが温度感を持って伝わってきます。熱狂の中3曲目「惡い男」へ。ネオンの妖しい光はこの男のためにあるんではないかと思えるほど志磨の出で立ちと楽曲にマッチしています。夜の世界へ誘う「惡い男」そのものです。ここまで一切のMCなしで疾走感のある4曲目「ぼくのコリーダ」へそのまま突入。客席の熱は一気に最高潮へ。MCでは熱狂のあまり客席の柵が壊れてしまったことに触れ、観客の興奮ぶりが常軌を逸していたことがわかります。それもドレスコーズ志磨遼平と味園ユニバースのシンクロ率がとてつもなく高いことに起因しているのは間違いないでしょう。
この熱狂的な展開を予想していたかのようにクールダウンとしてスローナンバー「みずいろ」、曲間を空けず「紙の月」を妖艶に歌い上げます。続いて毛皮のマリーズ時代のロックバラードの名曲「MAYBE」、ここで惑星のようなミラーボールが回り田代裕也(G)のノイジーなギターソロが轟音で響いたとき、全員が宇宙(ユニバース)を垣間見ます。暗転し惑星だけが浮いている無音になったとき、まさにそれを実感します。