HYBE(ハイブ) [旧 Big Hit Entertainment] 大スターBTSを生み出した緻密な世界戦略とは?

HYBE(ハイブ) [旧 Big Hit Entertainment] 大スターBTSを生み出した緻密な世界戦略とは?

2013年の結成当初、韓国以外ではほとんど知られていなかったBTS(防弾少年団)を米国の「Billboard Hot 100」の首位に輝くまでの世界的なトップアーティストに育て上げたBig Hit Entertainment(ビッグ・ヒット・エンターテインメント) 。

当時は同事務所の国内での認知度の低さからテレビ出演も少なく、大手芸能事務所に所属するアーティストと比較すると自身を売り込む手段が限られていたBTSがこれほどまでヒットした背景には一体どのような戦略があったのでしょうか。

本記事を通し、HYBE(ハイブ) [旧 Big Hit Entertainment]が米国をはじめとする世界の音楽市場でBTSを成功に導いた秘密を解き明かしていきたいと思います。

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HYBE(ハイブ)とは

BTS, ENHYPENを輩出して話題の芸能事務所

2005年2月、現在も代表を務めるパン・シヒョク氏によって設立されたHYBE(ハイブ)。

「音楽とアーティストを通じて人々を癒し、感動を与える(Music & Artist for Healing)」というミッションの下、音楽界に多くの革新をもたらした韓国発の人気アイドルグループ・BTSやその弟分として知られるTOMORROW X TOGETHER(以下、TXTと省略)等を輩出し、そのマネジメント事業やライブ事業のほかプロモーション事業まで幅広いアーティスト活動事業を展開しています。

“BTSの生みの親”として世界中で注目されるパン代表は、日本でも大ヒットしたTWICEやアイドルらしからぬ男臭さを売りにしている2PM、さらに日本で制作されたアニメ主題歌の3ヵ国語歌唱で反響を呼んだStray Kids等が所属するJYPエンターテインメントのパク・ジニョン代表の下で働いた後に独立し、現在のHYBEの礎を作り上げた実力者。

2020年6月には、米ビルボードが2017年から同国の3大メジャーレーベルであるユニバーサルミュージックグループ、ソニーミュージックエンターテインメント、ワーナーミュージックグループを除く世界の音楽市場において独自で成果を挙げたレーベルや流通会社の主要人物を選定している「2020 Indie Power Players」の一人に選出され、現在のK-POP界において最も勢いのある経営者と評されています。

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コロナ禍でも止まらぬ成長

2019年、HYBEは前年の売上高のおよそ2倍にもなる5879億ウォン(約540億円)を記録したと発表しました。

2020年5月にはNU’ESTやSEVENTEEN(以下、セブチと省略)等が所属する芸能事務所・Pledisエンターテインメント(以下、Pledisと省略)を買収して筆頭株主となり、同事務所との合流で誕生した「Big Hit Labels」という強力なマルチレーベルシステムを構築。

その後、8月に発表した同年上半期の決算では、昨今の新型コロナウイルス禍で音楽界が打撃を受ける中でHYBEも同様にBTSのワールドツアー「BTS MAP OF THE SOUL TOUR」の日程見合わせが発表される等の困難に見舞われたものの所属アーティストたちのアルバムや各音楽配信サイトでの音源、6月に開催されたBTSのオンラインコンサート「BANG BANG CON The Live」等での収益が大きな伸びを見せ、売上・営業利益とも過去最高の実績になったことを報告。

その後、8月21日に全世界同時リリースされたBTS初となる全編英語歌詞のデジタル・シングル「Dynamite」に至っては、リリースから1週間でストリーミング回数3390万回、シングル盤を30万枚売り上げる好成績を収め、韓国のアーティスト史上初めて米国の主要シングルチャート「Billboard Hot 100」で初の1位に輝く偉業を達成して大きな話題となりました。

10月中旬頃にはHYBEが満を持しての上場予定であることも発表されています。

MEMO

その実現に大きく貢献したBTSのメンバー7人にはすでに1人当たり6万8385株の普通株が付与されているそうです。

 

HYBEの戦略

具体的にHYBEはどのような戦略を採用し、現在に至るまで成長し続けてきたのでしょうか。

BTSがヒットした理由に焦点を当てながら考察していきたいと思います。

①米国音楽市場での活動を重視

これまでもK-POP界において海外進出を目指す例は多数見られましたが、いずれも大きな成功に繋がらなかった理由として考えられるのは彼等の最終的な目標がアジアを拠点としたエンターテインメントビジネスを展開することだったからだと考えられます。

韓国の大手芸能事務所・YG(以下、YGと省略)エンターテインメントのPSYBIGBANG等が良い例で、彼等は英語歌詞をオシャレなメロディーに乗せた明らかに“世界”を意識している楽曲で米国進出に乗り出しました。

しかし、それはあくまで途中経過であって最終的には自国を含めるアジア市場をメインとした活動に切り替えていくプランを構想していたのでしょう。

HYBEはそんなYGの戦略を教訓に、BTSを米国市場に売り出して同国を拠点にグローバルな活動を展開していく戦略を採用。

当時はYG等の大手芸能事務所が主体となって巻き起こしてきたK-POPブームを経てはいてもやはり米国において話し手が少なく不利な状況に置かれていた韓国語楽曲でしたが、BTSのリーダー・RMはそんな状況をものともせずに「BTSのアイデンティティを変えて全英語歌詞にするくらいなら(米シングルチャートに当たる)HOT100首位は獲れなくて良い」という旨の思いを強調します。

そして米国進出の際、「10代・20代に向けられる社会的偏見や抑圧を防ぎ、自分たちの音楽を守り抜く」という意味が込められたグループ名を体現するが如く、韓国語の歌詞を貫き通す姿勢が全世界の音楽界に大きな衝撃をもたらしました。

そのようにこれまでの常識を覆そうとする彼等でしたが、やはり当初は米国でなかなかヒットせずに苦労したようです。

2014年7月にロサンゼルスで開催した初の米国公演は、何とわずか200人規模のライブハウスで実施。

MEMO

観覧は無料であるうえに、メンバーたち自ら街中でビラ配りを行って観客を集めるために努力したといいます。

その後、SNSアプリや無料のコンテンツを通じて米国で着実に人気を獲得していったBTS。

リーダー・RMの高い英語力とスピーチ力を活かし、メンバーたちの本当に伝えたいことを現地でしっかり主張し続けてきこともその要因の一つとして考えられます。

そしてロサンゼルス公演からおよそ3年後の2017年5月、ジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデ、ショーン・メンデス等の錚々たる顔ぶれを抑え、『Billboard Music Awards 2017』「トップ・ソーシャル・アーティスト」部門を受賞することになるのです。

11月には『American Music Awards』に韓国人グループとして初めて招待され、授賞式会場で同年9月に全世界同時発売して「Billboard 200」で首位を獲得した『LOVE YOURSELF 承 ‘Her’』のリード曲である「DNA」を生パフォーマンスで披露。

MEMO

当時、パフォーマンス直後に同曲の検索数が米国におけるGoogleの急上昇ワードで1位を記録するほど話題となり、ネット上でも大きな反響を呼びました。

米国での大反響はすぐさま他国にも伝わり、翌年1月にはシンガポールで開催された55000人規模のスタジアム公演のチケットが発売から4時間で完売させる偉業を成し遂げます。

これはアジア市場での活動と並行しながらも米国でのヒットを最終目標にHYBEとBTSが一丸となって突き進んだ結果が実を結んだ結果であると共に、2013年のデビュー以降これまで7年間誰一人欠けることなく、ヒットに繋がるまで強い信念を持って努力し続けたメンバーたちの結束力から生まれた第一歩の道標でもあったと言えるでしょう。

②米国の人気アーティストとのコラボレーション

その後もSteve AokiNicki MinajHalseyLauv等、数々の米国における人気アーティストたちとのコラボレーションを果たし、徐々に知名度を向上。

元々、韓国で発売されたミニアルバム『LOVE YOURSELF 承 ‘Her’』の収録曲であった「MIC Drop」は、2018年11月に米レコード協会(RIAA)によってプラチナ認定された大ヒット曲。

YouTubeにアップされているSteve Aokiとのコラボバージョン「MIC Drop (Steve Aoki Remix)」のMVも、現在(2020年9月26日時点)の再生回数が7億5000万回超と大人気です。

「Boy With Luv (feat. Halsey)」も「MIC Drop」に続いて同じくプラチナ認定された楽曲で、YouTubeでのMV再生回数は何と9億5000万回超となっています(2020年9月26日時点)。

BTS以外の韓国人アーティストで唯一プラチナ認定されているのは、世界中で大旋風を巻き起こしたPSYの「江南スタイル」ですが、韓国発のアーティストがプラチナ認定されたのは史上初

リアルタイムで売れているアーティストと組むことにより、米国内だけでなくグローバル的な影響力を持たせて長期的なヒットに繋げようというのがHYBEの狙いだったと考えられます。

その狙いは見事に的中し、私たち日本人が洋楽を聴く際のように米国のARMY(BTSのファンの名称)に韓国語を”音”として捉えさせることで言語を超えて愛されるアーティストという立ち位置にまで成長し、世界中で支持されるようになったBTS。

MEMO

今ではHYBEとのコラボによる相乗効果を期待する現地の各レーベルから先に連絡が来ることもあるといいます。

米国でのヒットで不動の人気を確立した後、先日ニュー・シングル「Dynamite」で初登場全米1位を獲得したという事実は、これまでアジア発のアーティストに抱かれてきた“一発屋”いう音楽界の常識の崩壊を決定づけました。

彼等の活躍がK-POPをはじめ、アジアの音楽に対する既成概念を克服したのです。

アジア発ということを意識させるよりも先に韓国語のかっこよさや可愛さを感覚で楽しんでもらうだけでなく、もはや米国で馴染みのなかった同言語を現地の人々が口ずさむまでにK-POPは米国に浸透しています。

③オンラインメディアの活用

設立時には、韓国内で駆け出しの“弱小事務所”扱いだったHYBE。

大きなメディアで取り上げられることが少なく、所属アーティストたちの知名度を高める媒体がなかったことから使えるツールを何でも使い、先見の目で独自の戦略を創り上げたのがパン代表でした。

その内容とは、YouTubeやTwitter等のSNSアプリを活用してアーティストたちの日常生活からステージ裏まで幅広い映像をファンクラブ加入者以外にも無料で楽しんでもらうというもので、ステージの上だけでは見せないようなメンバーたちの素顔を身近に感じられる点がARMYの間で大好評。

2015年にK-POPアイドルを世界に売り出すことを目的に立ち上げられた「V LIVE」という無料配信アプリの動画コンテンツにもHYBEはかなり力を入れており、同アプリのアワードでBTSは4つの賞を獲得しているほかTXTも2019年に同年内にデビューし、V LIVEで最も愛された新人アーティストに贈られる「グローバル新人賞」を受賞しています。

また、2019年にはHYBEの子会社であるWeverse Company(旧: beNX)が直接制作・リリースを手掛けた独自のコミュニティー・プラットフォーム「Weverse」が、同事務所系列のグループを応援するファンだけが集う場所として開設されました。

このコミュニティー上ではTwitterのような文章や写真の投稿機能を通じ、ファン同士での交流が可能でまさに既存のSNSアプリの良いとこ取りというべき仕様となっています。

BTS、TXTをはじめ、HYBEが展開するマルチレーベル所属のセブチ、先日生放送の最終オーディションで決定した7人のメンバーから成るENHYPEN等のメンバー自らもしばしば投稿しているほか、ファンからの投稿に彼等が直接コメントをすることも。

MEMO

多い時には1日で1人10件ほどの返信を行っているので、同コミュニティーならではの濃密なやり取りに魅力を感じたファンはこぞって連日愛あるメッセージを送っています。

世界各国の利用者が誰でも簡単に他のファン、応援するアーティストたちの最新の投稿内容を閲覧可能なようにワンタップで韓国語が英語や日本語に翻訳される機能には、HYBEのグローバルなビジネス展開を見据えた思惑が伺えます。

④マルチレーベル構造の強化

2019年にGFREND等が所属する韓国のレーベル・Source Musicと音楽ゲーム会社・Superb Corpを買収してから本格的に取り組まれ始めたマルチレーベル構造の強化

先の内容でも触れたように、2020年5月にはNU’ESTやセブチ等が所属する芸能事務所・Pledisを買収して筆頭株主の地位を手に入れたHYBE。

同事務所の独立的な運営権限を残しつつも「互いに成長し、相乗効果でより大きなビジネスを展開していこう」という共通意識のもとで強力なマルチレーベル構造を創り上げ、今後国外での事業を有利に拡大していくための基盤を確保しました。

韓国では最高水準のラインナップと言っても過言でない男性アイドルグループを傘下に揃え、世界でも通用する競争力を持ったHYBEには今後さらなる海外音楽市場での活躍が期待されています。

MEMO

日本でも2020年6月にHYBEの日本法人としてアーティスト活動事業を展開するBig Hit Entertainment Japanが『Big Hit Japan Audition 2020』第1弾としてLINE限定の女子オーディションが開催され、全国から3万人超の応募が殺到して注目を集めました。

8月14日から9月13日にかけては、それに続く第2弾オーディションとして初の日本人男性アーティストの応募受付を実施。

日本在住者かつ1999年1月1日以降生まれで他の芸能事務所に所属していない男性であれば誰でも応募が可能だといい、見事第1次から3次までのオーディションを勝ち抜いた方はHYBE 所属のBTSの弟分グループの一員としてグローバルに活躍していく予定だそうです。

それに伴い、選出されたメンバーたちの才能の開花に尽力したい日本人プロデューサーの募集も開始され、今後HYBEの傘下に日本人が加わっていくことで日本の音楽市場にも同事務所がさらに大きな影響を与えていくと予想されます。

最新情報

新曲「Film out」公開

BTSが新曲「Film out」を3人組ロックバンド・back numberとコラボレーションして共同制作しました!
俳優の坂口健太郎主演映画「劇場版シグナル 長期未解決事件捜査班」(4月2日公開、橋本一監督)の主題歌に決定しています。
情緒深く切ないバラードが非常に印象的な曲なので、是非一度お聞きになってみてください!

マクドナルドとコラボ!限定メニュー発売決定

マクドナルドがBTSとコラボレーションしたセットメニューを5月26日から6月20日までの期間限定で発売することを発表しました。
チキンマックナゲットとフライドポテト、コーラをセットにした「BTSミール」と名付けられたこちらのセットメニューですが、ナゲットには韓国のマクドナルドで人気のソースに着目した2種類のソースが用意されるとのことで楽しみです!(※2021年4月23日現在、日本での発売は未定となっています。)

ルイ・ヴィトンの新アンバサダーに就任!

ルイ・ヴィトンのグローバル・ブランド・アンバサダーにBTSが就任しました!

最後に…

ここまでまとめてきたようにBTSの成功、ひいてはHYBEが世界の音楽市場で成功を収めた背景には①米国音楽市場での活動を重視、②米国の人気アーティストとのコラボレーション、③オンラインメディアの活用、④マルチレーベル構造の強化という4つの戦略が大きく関与していると考えられます。

早い段階から米国音楽市場でのヒットを目指してきたHYBEの狙いとそれに付帯し、自身等のアイデンティティを疎かにすることなく常に主張を続けるメンバーたちの姿勢が全世界のARMYから支持を集めるきっかけを生み、その後米国における旬のミュージシャン等とのコラボ、オンラインメディアでの地道な努力が功を成して現在のような人気ぶりを誇るようになったBTS。

さらに、2019年からHYBEが本格的に着手し始めた“マルチレーベル構造の強化”によって彼等の活動基盤はより確立されたものとなりました。

韓国においてすら共に無名だったHYBEとBTSが、これほどまでのし上がるためには相互の支え合いが欠かせなかったことが分かります。

米国音楽市場での人気を不動のものとし、ニュー・シングル「Dynamite」が発売から2週連続で1位、そして5週目に再び首位に返り咲くという「Billboard Hot 100」のシングルチャートで日々記録を更新中の彼等には、次なる期待としてグラミー賞獲得の声も相次いでいるようです。

直属アーティストだけでも2020年10月にはTXT、11月にはBTSのカムバックが発表され、ますます世間の関心が寄せられているHYBE。

今後も世界の音楽市場を舞台に、聴き手の心に響く音楽を生み出してくれることへの期待が止みません。

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