2019年に20周年を迎えた、日本の音楽フェスティバル「SUMMER SONIC」
その節目の年にヘッドライナーを務めたのが、アメリカ出身のDJデュオ「The Chainsmokers(ザ・チェインスモーカーズ)」です。
その音楽性は、いわゆるエレクトロ・ミュージックに分類されるものですが、ファレル・ウィリアムスやLinkin Park、deadmau5など幅広いジャンルのアーティストから影響を受けていることを公言しています。
自身の音楽について訊かれた際には、「インディ・ロック、ポップミュージック、ダンスミュージック、ヒップホップの境界線を曖昧にするもの」と形容しており、エレクトロ・ミュージックを基調としつつも、様々なジャンルとのクロスオーヴァーを意識していることは間違いないでしょう。
2012年に活動を開始して以降、たった7年ほどで「世界でもっとも稼ぐDJ」の座に上り詰めるなど、アメリカンドリームを体現している彼らの軌跡をご紹介していきます。
目次
The Chainsmokersメンバー
アレックス・ポール
- 1985年5月16日生まれ
- ニューヨーク大学で美術史と音楽ビジネスを専攻。
アンドリュー・タガート
- 1989年12月31日生まれ
- シラキュース大学に在学中、レコード会社のインターンとして音楽業界に従事。
元々はアレックス・ポールとレット・ビックスラーという人物が結成したデュオでしたが、ビックスラーの脱退後にアンドリュー・タガートが加入し、現在の編成になっています。
大学で音楽ビジネスを学ぶポールとレコード会社のインターンとして音楽業界に飛び込んだタガート、このふたりが出会うのは必然だったのかもしれません。
The Chainsmokers経歴
2012年・The Chainsomkers結成
ニューヨークを拠点にDJのマネジメント業を営んでいたアダム・アルパートがアレックス・ポールとアンドリュー・タガートを引き合わせ、DJデュオ The Chainsmokersは誕生しました。
DJ志望でオリジナル曲をネット上に発表していたアンドリュー・タガートは、アダム・アルパートがミュージシャンを探しているという話を聞きつけ、当時住んでいたメイン州からニューヨーク州まで引っ越しを敢行。
脱退したレット・ビックスラーの後任としてアレックス・ポールとコンビを組むことになりました。
アレックス・ポールはすでにDJとしてのキャリアをスタートさせていましたが、当時はフルタイムのミュージシャンではなく、ニューヨークのアートギャラリーで働く身でした。
デュオとしての体裁を整えた彼らは、インディ・ロックバンドのリミックスを手掛けることでそのキャリアをスタートさせました。
彼らが手掛けたバンドの中には、超大物ロックバンドThe Killersを筆頭に、Two Door Cinema Club、Phoenix、Smallpools など日本でも高い知名度を持つ面々が含まれています。
2013年・『#Selfie』の大ブレイク
アーティスト達にリミックスを提供する日々を送っていた彼らに、大きなチャンスが訪れたのは2013年4月のこと。
イギリスのインディ・フォークバンドDaughterの楽曲“Medicine”のリミックス音源が注目を浴び、音楽情報サイトHypeMachineのチャートでは1位を獲得するほどの人気に。
新進気鋭の音楽クリエイターコンビとして音楽ファンの間で話題になります。
2013年12月、大きなトレンドになりつつあった自撮りをすることを意味する「セルフィー」という言葉からインスピレーションを得た“#Selfie”というオリジナル曲を発表。
EDM楽曲にナルシスティックな女の子の台詞が乗るという面白さが受け、クラブシーンを中心に大ヒットとなりました。
ビルボードの「US Hot Dance/Electronic Songs」チャートでは1位を記録し、最終的にはプラチナムを獲得する大出世作に。
アメリカ以外の国々でもチャートインし、The Chainsmokersはその名を全世界に轟かせました。
当のふたりはここまで大きな反響を呼ぶ楽曲だとは考えていなかったようですが、まさに彼らの人生を変えた1曲だと言えるでしょう。
飛ぶ鳥を落とす勢いの彼らは、その後も次々と楽曲をリリース。
アルバムという形態にこだわらず、シーンの流れを読みながら楽曲をリリースしていくスタイルで、EPやアルバムなどといった作品集を出す前にシーンの最前線に躍り出ることになりました。
2015年・クラブシーンとチャートを席巻
2015年6月にリリースされたアメリカの歌手Rozesをフィーチャーした”Roses”も全米チャート6位の大ヒット。
多くの国々でプラチナムを獲得するなど、2015年を代表する楽曲のひとつとして音楽ファンに記憶されることになりました。
思いがけないヒットとなった“#Selfie”とは異なり、The Chainsmokersのふたりも「”Roses”は特別な曲だと思っていた」と語るなど自信作だったことが窺えます。
活動開始3年ほどで若きヒットメーカーとなった彼らは、2015年10月に初のEP『Bouquet』をリリースし、50万枚以上を楽々と売り上げました。
この作品に収録された5曲はすべてシングルとしてもリリースされており、楽曲を次々と発表して常に露出をしていくという戦略はここでも健在です。
クラブシーンとチャートを席巻し続けたThe Chainsmokersの音楽は、ついに音楽界最高の栄誉と呼ばれる賞にたどり着きます。
2016年・『Closer』の大ブレイク
2016年2月にリリースされたアメリカの歌手Dayaをフィーチャーした楽曲 “Don’t Let Me Down”でグラミー賞「最優秀ダンス・レコーディング賞」を受賞。
同曲は全米3位を記録するなど商業的にも大成功を収めました。
同年7月に発表した”Closer”では初の全米1位を獲得。
その後、12週間に渡って首位を独走するという圧倒的な強さを見せつけました。
また、イギリスとはじめとする他の国々でもチャートの頂点に立っています。
アンドリュー・タガートとアメリカの歌手Halseyがヴォーカルを分け合う同曲では、別れた恋人たちが思いがけない再会を果たす、という内容が歌われています。
その売り上げは驚異的で、2018年には1,000万枚以上のセールスに対して贈られるダイヤモンド・ディスク賞を獲得しました。
2016年11月には早くも2枚目のEP『Collage』をリリース。
“Closer”や“Don’t Let Me Down”などヒットシングルを収録した同作は全米最高6位を記録しました。
現在までに全米で200万枚以上のセールスを記録し、プラチナムを獲得しています。
数多くのアーティストとのコラボレーション楽曲を発表し、それらを軒並み大ヒットさせてきたThe Chainsmokers。
彼らが次なるコラボレーションの相手に選んだのは、イギリスの超大物ロックバンドColdplayでした。
iPodのCMで使用された“Viva la Vida”など数多くのヒット曲を持つColdplayは、現在までに1億枚以上のレコード売上を誇る2000年代を代表するバンドです。
2017年・初のフルアルバム『Memories…Do Not Open』のリリース
2017年2月にリリースされた大物同士のコラボレーション曲 “Something Just Like This”は、The Chainsmokersの巧みなトラックメイキングと聴く人の心を鷲づかみにするColdplayの歌心が見事に融合し、リリースされるや否や大ヒットを記録。
同曲のリリックビデオは、公開1日で900万回再生という驚異的な記録を打ち立てました。
受賞こそ逃しましたが、グラミー賞の「最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞」にもノミネートされています。
大ヒット曲を多数収録した『Bouquet』と『Collage』の2枚のEPをいずれも大ヒットさせたThe Chainsmokers。
2017年4月に待望のフルアルバム『Memories…Do Not Open』を世に送り出します。
全米1位に輝いた同作は、現在までにアメリカ国内だけで100万枚以上のセールスを記録しています。
アメリカの経済誌フォーブスが選ぶ2017年版「世界でもっとも稼ぐDJ」ランキングでは堂々の3位にランクインしており、その年収は3,800万ドルと紹介されていました。
2018年・新曲のリリースラッシュ
2018年のThe Chainsmokersは、まさにリリースラッシュという言葉がふさわしいアクティヴな活動を展開します。
5・6月を除き、毎月1曲のペースで新曲をリリースするという量産体制でした。
発表された全10曲をまとめたセカンドアルバム『Sick Boy』は同年12月にリリースされています。
この手法はマネージャーのアダム・アルパートが考案したもので、音楽市場ではストリーミングが主流となっており、アルバム単位ではなく楽曲単位で作品が消費されていることに着目した彼は、毎月新しい楽曲を発表することによってファンの関心を継続的に引き寄せることが可能だと考えたそうです。
アダム・アルパートは「この戦略を実行していなかったら、The Chainsmokersは忘れ去られていただろう」とまで語っています。
DJ機材を武器にアメリカンドリームを掴み取ったThe Chainsmokersは、活動の場を音楽以外にも広げていきました。
「ミュージシャンだけをやる時代は終わったんだ」として、映像制作会社Kick the Habit Productions(Kick the Habitは悪癖を絶つ、という意味)を設立。
2019年にはアメリカのケーブルテレビ局Freeformで放送された音楽ドラマ『Demo』を手掛けるなど、その活躍の場を映像分野へも着実に広げています。
2019年・世界で最も稼ぐDJに
2019年は数多くの音楽フェスティバルに出演したThe Chainsmokers。
その中には日本のSUMMER SONICも含まれており、同フェスティバル最大のステージである「Marine Stage」の大トリとして多くの観客を熱狂させました。
同年12月にはサードアルバム『World War Joy』をリリース。
同作には5 Seconds of SummerやBlink-182などのロックバンドとのコラボレーション楽曲も収録されています。
また、2019年版「世界でもっとも稼ぐDJ」ランキングでは、6年連続で1位の座に君臨していたカルヴィン・ハリスを破り、年収4,600万ドルで世界最高の高給取りDJに。
2020年現在、世界ツアー中のThe Chainsmokers。
すでに10月までスケジュールが決まっており、その人気ぶりはいまだに衰えていません。
オススメ曲
Closer
2016年7月に発表された“Closer”は、The Chainsmokersに初の全米1位をもたらした楽曲です。
同年にリリースされたEP『Collage』に収録されています。
思いがけない場面で再会してしまったかつての恋人たちを題材にした楽曲で、前半をアンドリュー・タガートが、後半をアメリカ人女性歌手Halseyが歌う形式になっています。
どこか懐かしい感じのするシンセサイザーのサウンドや適度なテンポのリズムに気持ちよく身体をゆだねることのできる1曲です。
something just like this
チェインスモーカーズとコールドプレイのコラボによって生まれたこの曲。この二組が組めば、もう名曲間違いなしです。
EDMでありつつも、ゆったりとしていて聴き心地がいい曲調です。しかし緩すぎず、体が自然と乗ってきてしまうような、そんなリズム感です。
ヘラクレスやアキレス、スパイダーマンのような英雄にいつまでも憧れるのが男というものですが、成長するにつれてヒーローにはなれないことがだんだんわかってくる。
そんな時で彼女がふと言ったのは、「私が求めているのはヒーローではなくて、、、、「Something just like this(こんな感じの何か)」。」
そんなシーンを歌った曲となっています。
Who do you love
5SOSをフィーチャーリングして作られたこの『Who do you love』という曲。
彼女のコートから吸わないはずのタバコが見つかったり、普段と様子が違うため「Who do you love?」と浮気を疑う男を歌ったのがこの曲。
この曲も世間一般にイメージされるEDMとは異なり、騒がしくない聴きやすいエモいEDMとなっています。
刺激が足りない方はライブ映像やリミックス版を聞くことをおすすめします。エモいEDMがゴリゴリのダンスミュージックに急変する様子はちょっと驚きます。
まとめ
結成数年で名実ともに世界トップのDJデュオに上り詰めたThe Chainsmokersについてご紹介してきました。
音楽業界に憧れる青年たちがDJ機材を武器にスターへの階段を駆け上がっていくその姿は、まさに「成り上がり」というフレーズがふさわしいものです。
結成以来、ブレることなく良い楽曲を世に送り出し続けてきた彼らの勢いは今後も衰えそうにありません。
「DJ? パリピ向けの音楽なんでしょ?」と敬遠している方も、勇気を出してThe Chainsmokersの門を叩いてみてください。
きっと何度もリピートしたくなるような1曲が見つかるはずです。