大瀧詠一のアルバム「A LONG VACATION 」再ブレイクの背景と曲の魅力を解説!

大瀧詠一のアルバム「A LONG VACATION 」再ブレイクの背景と曲の魅力を解説!

大瀧詠一「A LONG VACATION 」色褪せない珠玉のアルバムが再ブレイク!

1970年に細野晴臣、松本隆、鈴木茂とともに伝説のバンドはっぴいえんどを結成した大瀧詠一。

解散後に立ち上げたナイアガラ・レーベルから発表した自身のアルバム「A LONG VACATION」が、40周年を迎えた今、再び脚光を浴びています。

ダイハツ「ムーヴ キャンバス」のCMで藤原さくらが歌う、
思い出はモノクローム 色を点(つ)けてくれ
というフレーズが気になった方も多いのではないでしょうか?

この印象的なフレーズは、同アルバム1曲目を飾る「君は天然色」のサビ部分です。

名盤「A LONG VACATION」が再びブレイクしている背景について、曲と歌詞の魅力や、40周年記念盤がこれまでと違う点も交えて解説します!

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大瀧詠一のアルバム「A LONG VACATION」 とは?

 

「A LONG VACATION」は、大瀧詠一が自身の音楽レーベルナイアガラ・レーベルから、1981年3月21日に発売したアルバム。

40年間廃盤にならず、CDやレコード、カセットテープなどあらゆるフォーマットで発売され続け、2020年までの累計売上枚数は300万枚を超える不朽の名作です。

また、当時音楽メディアがレコードからCDに移行しつつある中、日本で初めてCD化された邦楽アルバムでもあります。

世界に広まった昨今のシティポップブームにより、日本の若年層だけでなく、海外のリスナーからも再注目されている、大瀧詠一の代表作といわれる作品です。

「A LONG VACATION」」収録曲

  • 1)君は天然色
  • 2)Velvet Motel
  • 3)カナリア諸島にて
  • 4)Pap-pi-doo-bi-doo-ba物語
  • 5)我が心のピンボール
  • 6)雨のウェンズデイ
  • 7)スピーチ バルーン
  • 8)恋するカレン
  • 9)FUN X 4
  • 10)さらばシベリア鉄道
  • 作曲:大瀧詠一 作詞:松本隆(*4)は作曲・作詞ともに大瀧)

曲の特徴とアルバムコンセプト

「A LONG VACATION」のアルバムコンセプトは、オールディーズへのオマージュを1980年代の音で表現するというもの。

大瀧は、1950年〜60年代のアメリカンポップスをこよなく愛し、熱心に研究したことでも有名です。
特にフィル・スペクターや、バート・バカラックのような音楽プロデューサーに対するリスペクトが強く、作曲の随所にその手法や引用を取り入れているのが分かります。

フィル・スペクターといえば、同じ楽器を複数用意し、複数のミュージシャンに同時に演奏させることで音の壁を作る「ウォールオブサウンド」の開発者。

1960年代のロネッツクリスタルズといったガールポップグループや、ビートルズラモーンズのアルバムなど、幅広くプロデュースしています。

アルバム冒頭の「君は天然色」は、フィル・スペクターのサウンドメイキングを踏襲した、通称「ナイアガラサウンド」を象徴する曲。

また、アルバム中盤に収録の「我が心のピンボール」は、大瀧のルーツの一つである50’Sロックンロールが基調となっています。

ロックンロールのギターリフ後、唐突にビーチ・ボーイズのようなコーラスを差し挟むなど、1曲の中に数種類の引用や手法を組み合わせるのも、大瀧詠一の曲作りの特徴です。

松本隆による憂いを帯びた歌詞

アルバムに収録の10曲中9曲の作詞を、松本隆が担当しています。
大瀧詠一との仕事は、バンド・はっぴいえんど以来でした。

しかし、松本が「A LONG VACATION」の作詞に取り掛かろうとした矢先、実の妹が26歳の若さでこの世を去ってしまいます。

松本はその後3ヶ月の休養期間を取り、一切の仕事を断ちました。
しかし大瀧は、「発売日が延期になっても構わないから」と、だまって彼を待ち続けたそうです。

大瀧にとっては、「A LONG VACATION」の歌詞を任せられるのは松本隆以外には考えられなかったといいます。

本アルバムは全編を通してキラキラしたサウンドが特徴ですが、改めて歌詞に注目してみると、憂いを帯びた内容にハッとしませんか?

例えば、「君は天然色」思い出はモノクロームというフレーズ。
妹を失った松本の目には街の景色が白黒に見えたことから、この歌詞が作られたそうです。

続く、色を点(つ)けてくれという詞には、「どんな色でもいいから景色を染めて欲しい」という彼の切実な願いが込められています。

また「カナリア諸島にて」の歌詞には、

ぼくはぼくの岸辺で生きていくだけ

風も動かない

など、まるで人生を諦観しているような男性の心情がつづられています。

憂いを帯びた歌詞と眩しさきらめく曲との対比により、曲全体が深みを増し、切なく胸に刺さりますね。

作詞家が松本隆だったからこそ、「A LONG VACATION」はここまで趣のあるアルバムになったのでしょう。

これまでの集大成!40TH ANNIVERSARY EDITION

2021年は、アルバム発売から40年のアニバーサリー・イヤー。
しかし残念ながら、大瀧詠一本人は40周年記念盤の製作には立ち会えていません。

大瀧は2013年12月30日、65歳の若さで多くの音楽ファンに惜しまれながらこの世を去っています。
死因は解離性動脈瘤でした。

彼は生前「40周年記念盤は、現存する全てのメディアで配信する」と発言しています。

その言葉どおり今回リマスタリングされた「A LONG VACATION」は、CDやレコード以外にもサブスクリプションサービスでの音源解禁、SACD(Super Audio CD)の発売などあらゆる音楽メディアで販売、配信されました。

その結果「ナイアガラサウンド」は、世界中で新たなファンを獲得しています。

20周年・30周年盤とのリマスターの違い

これまで何度となく再発盤がリリースされてきた同アルバムですが、20周年、30周年ともに記念盤が発売されています。

40周年盤はそれぞれの良いところを取った、これまでの集大成。
それは、生前の大瀧詠一の願いでもありました。

上述の記念盤全てのマスタリングに携わった内藤哲也さんがインタビューで、

「これまでリリースされたほとんどの商品が今も店頭で発売されつづけているなかで今回40周年盤をリリースするわけですから、買われたファンが聴いたときに、新たな発見をするようなものに仕上げるのは当然のこと」

出典元:Sony Music 連載Cocotame Series

とおっしゃるように、同アルバムは再発のたびに新しいアプローチでマスタリングし直されています。

20周年盤は、発売当時ラウドな音楽が流行していた背景から、音圧を上げた派手なマスタリングを意識。
30周年盤は、録音当時の空気感をそのまま表現できるよう、なるべくマスターテープに近い自然な音に。

そして40周年盤は、これらを融合させ、さらに最新のデジタル機材を起用して現代のリスニング環境になじむようマスタリングされています。

筆者もこのアルバムを幾度となく聴いてきましたが、発表後40年経った曲を新たな感動を持って聴けるのは、エンジニアの方々の努力の賜物にほかなりません。

「君は天然色」のYoutubeプロモーションが成功


2021年3月3日、40周年記念盤の発売にさきがけ、アルバム1曲目「君は天然色」のMV(ミュージックビデオ)がSony Music公式チャンネルで公開されました。

再生回数は700万回を超えています。(2021年9月時点)

コメント欄には国内外、幅広い年齢層のファンから多数の称賛メッセージが寄せられており、改めてこの曲が持つ影響力の大きさに驚かされます。

このプロモーションが、後のストリーミング配信や記念盤の好セールスの起爆剤になったことは、言うまでもありません。

MVを製作したのは、依田伸隆
「僕のヒーローアカデミア」や「天気の子」ほか、アニメ作品のプロモーションビデオや予告編を数多く手掛ける映像ディレクターです。

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アルバムジャケットをデザインした永井博によるイラストがコラージュされた、遊び心あふれる作品で、幅広い年齢層にアプローチしています。

臨場感のあるリバーブと、ピアノとベルの音のきらめき、瑞々しく響く大瀧詠一のボーカル、全体の音の厚みなど…これまでの再発盤と比べても明らかに音がよく、新鮮さが感じられますね。

サブスク配信解禁、SACD発売で快挙達成

2021年3月21日、大瀧詠一が立ち上げたナイアガラ・レーベルから発表した音源177曲が、音楽サブスクリプションサービスで解禁されました。

そのなかで、Apple Musicの公式プレイリスト「はじめての大瀧詠一」がチャート1位を獲得。
サブスクリプションサービス利用者の大半は、リアルタイムで大瀧を知らない若年層のため、彼のような大御所アーティストが1位を獲得したのは異例のことです。

また、SACD(Super Audio CD:専用の機器で再生する高音質メディア)が初回で4,000枚出荷されたことも、他には例を見ない快挙だったそう。

8月4日には、初回で完売したアナログレコードのアンコールプレス盤が、発売されるやいなや即日完売したとネットニュースで伝えられました。

これらの実績が、「A LONG VACATION」が40周年を迎えた今、再注目されているアルバムだという事実を物語っています。

おわりに

今回は、大瀧詠一の名盤「A LONG VACATION」についてご紹介しました。

同作品が40年経った今、再ブレイクを果たした背景には、

  • 世界的なシティポップブーム
  • 作品自体の色褪せないクオリティー
  • 新たな息吹を吹き込んだリマスタリング
  • Youtube先行配信によるプロモーション
  • サブスクリプションサービスでの音源解禁

といった要因がありました。

故・大瀧詠一のビジョンと、それを形にしたエンジニアやセールスプロモーションにより、「A LONG VACATION」は今もなお新たなファンを獲得し続けているのです。

これまでの記念盤とオリジナル音源を聴き比べてみるのも、それぞれの魅力が発見できてオススメですよ!

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