はっぴいえんど「風街ろまん」|”邦楽史上最高の名盤”と称されるアルバムの魅力とは!?

はっぴいえんど「風街ろまん」|”邦楽史上最高の名盤”と称されるアルバムの魅力とは!?

日本語ロックの金字塔、はっぴいえんど

活動期間はわずか3年、3枚のアルバムを残し解散してしまいましたが、今もなお色褪せることのないサウンドは、根強く支持され続け、近年でもさまざまなフォーマットで再発、復刻、そしてレア音源などがリリースされ続けています。

はっぴいえんどとは?

はっぴいえんど・メンバー

メンバーは現在のジャパニーズポップス・ロックの礎を築き、今もなお国内外のアーティストに影響を与え続けている4人。


大瀧詠一(ボーカル・ギター)
細野晴臣(ボーカル・ベース・ギター・キーボード)
松本隆(ドラム・パーカッション)
鈴木茂(ボーカル・ギター)

現在の音楽シーンにおいて名を上げているアーティストで、「はっぴいえんどを超えることはできない」と発言する人も多く、どれだけ偉大な存在であったか窺い知ることができます。

はっぴいえんどの音楽性

ビートルズを代表とするブリティッシュ・サウンズが日本の音楽シーンを席巻し、GSやフォークといった時代を象徴するムーヴメントが起こるなか、シーンとは真逆を歩むはっぴいえんどが求めたものは、日本のロックを確立させることでした。

どこか歌謡曲を連想させるGSや、牧歌的で素朴なメロディではあるものの、グルーヴ感の物足らない、政治的思想を含んだフォークは、彼らにはあまり魅力的に映っておらず、アメリカンロックの要素を積極的に取り入れていきます。

細野や大瀧は幼少期よりアメリカンロック・ポップスに多大な影響を受けており、細野はとりわけニール・ヤングやスティーヴン・スティルスが在籍したバッファロー・スプリングフィールド、モビー・グレープを敬愛し、はっぴいえんどの多くの楽曲にその要素をちりばめています。

バッファロー・スプリングフィールド


モビー・グレープ


はっぴいえんどは、メンバーが全員が作曲やボーカルなどをマルチにおこなえる体制を理想としていました。
外部の作曲家や作詞家、編曲家に委託する作家性のなさや音楽業界内の編成に対し、はっぴいえんどはまさに、日本で初めてグループ内で完結するスタイルをつくった、といっても良いでしょう。

はっぴいえんどの楽曲群は「フォーキー・ロック」「ウェストコースト・サウンド」とも呼ばれ、当時の国内では真新しく、耳馴染みのないものでした。また、日本語でロックを歌うことに「英語こそロックである!」と反発するアーティストがいたことも事実です。

ですが、彼らは日本語でロックを表現することを諦めませんでした。それは、偉大な作詞家である松本隆の存在がいたからでもあります。
後に、誰もが耳にしたことのある無数の楽曲を手掛けることになる彼の才能をメンバー全員が認め、さらには「です・ます」調で彩られるはっぴいえんどの世界観を、より際立たせるものとしていることにほかなりません。

「風街ろまん」の魅力

はっぴいえんどの3枚のアルバムの中で、本来であればデビューから順を追って聴き進めていくことが善しという考え方もあるでしょうが、ここでは、グループが一番成熟していた時期にリリースされた「風街ろまん」の魅力に迫ってみましょう。また、今回は特に細野晴臣松本隆にスポットを当てて紹介していきたいと思います。

リリースは1971年11月20日、はっぴいえんどにとって2作目のアルバムでした。

前述したように松本隆が作詞を担当し、作曲は残りの3人がおこなうスタンスをとっています。また、作曲者がヴォーカルを務めることもこのバンドの特徴の1つといえます。

アルバム制作にあたって、淡々と作品を仕上げていく大瀧に対し、細野は苦戦します。自身の声の低さと詞、曲調が噛み合わず、作曲が進まないのです。「ベースを担当し声も低い、全てが低域で生きている」と後に本人も語っています。

やっとの想いで、細野作曲の「夏なんです」が完成し録音に入りますが、2カ月後に再度録音をおこなっています。

収録は後者のものが選ばれており、そのサウンドは不思議な浮遊感に溢れ、コード進行も独特で違和感のあるものに仕上がっています。日本の夏と同調したような中毒性のある楽曲に、松本の「です・ます」調の歌詞がピッタリと合わさり、まるで気温まで感じとることができます。

また、特徴的なイントロにはモビー・グレープの「He」が引用されており、細野本人も公言しています。

苦戦した作曲にはジェームス・テイラーの音域とフィンガーピッキングの技法も参考にされており、「Sweet Baby James」という楽曲が「作曲の大きな自信になった」と語っています。

ここで、少しお話を戻します。バッファロー・スプリングフィールドやモビー・グレープの魅力とは何かを分析しようとする評論家や愛好家もいますが、スティーヴン・スティルスは自ら、その魅力は「Something Else」と答えています。これは「他の何か」とも訳されますが「説明できない何か」と捉えるべきでしょう。

確かにアートやミュージックはそのような受け取り方で「ちょうど良い」という印象を受けます。
はっぴいえんどの音楽にもそのような、ニュアンスがぴったりです。

「風をあつめて」

そして、日本語ロックの大名曲、国内外を含め多くのアーティストやファンにカバーされ続けている大名曲が生まれます。「風街ろまん」A面3曲目に収録されている「風をあつめて」です。

是非歌詞を調べてみてください。詞に目を通すだけで、自然とあのメロディーが浮かんできませんか?

詞の内容はとても幻想的でありながら、イメージができ得る微妙なラインであることも感じられます。松本は、この作詞の中で子供の頃に見た原風景を落とし込んでいます。

「子供たちが遊んでいた広場にビルやマンションが建ち並び失われていくなか、その広場はどこへいったのか。それは、子供たちの記憶のなかへ残されている。その記憶の街をパノラマのようにたくさん集めると、1つの巨大な架空の街ができあがる。それが『風街』である」

と後に語っている松本隆。

原風景が失われるきっかけの1つに、東京オリンピックがありました。細野にとっても松本にとっても愛着があった路面電車はオリンピックを機に街から姿を消してしまいます。

歌詞のなかにも登場する路面電車はアルバム「風街ろまん」の見開きジャケット内側にも描かれていますが、これは松本の強い意向によるもので、それほどまでに2人にとっては当時の東京に思い入れがあるのです。

作曲に時間がかかった細野は「風をあつめて」の録音に臨みます。

録音当日までしっかりと作曲が決まっていなかった「風をあつめて」ですが、大瀧と細野の対立、最年少の鈴木には声を掛けられず、松本と2人きりで行われました。後に細野は、曲ができていないことで「心に余裕がなく声が掛けられなかった」と語っています。それほどまでに追い込まれたり、センシティブでなければ、あの楽曲は生まれなかったのでしょう。

楽器の演奏をほとんど熟すことができた細野は、ベース、オルガンはもちろん、ギターの重ね録りもおこない、シンプルながらこだわりの詰まった音源を完成させます。そして、はっぴいえんどにおける細野晴臣の記念すべき第1曲目となるわけです。

松本の詞の中に込められた思いには、このようなエピソードもあります。

「風に吹かれては受動的なこと、あつめるというのはものすごく能動的なこと。このまま空へ飛べるのではないか、という瞬間がふっと訪れる。とてもみんなが憧れていることなのではないか。」

「実際の生活、人生はドロドロのなかでみんな生きている。もっとさっぱりした所へ行きたいはず。風はそこへ運んでくれる。その気持ちを歌にしてあげたい。」

筆者は松本隆のこの想いだけでホロリとしてしまいます。

松本は、まぐれでできた世紀の名曲、と形容していますが、このレベルの曲が録音当日に湧いてくる細野の才能も、やはり超人的であり、かつ、編曲や演奏も1人でおこなっているわけですから、並大抵の精神力ではないではないはずです。

細野は「風をあつめて」について、こんな発言もしています。

「当日何も決まってない状態、ぶっつけで録ったから、いまでも緊張する、いまだに僕この曲歌えない笑」

まとめ

「風街ろまん」にはこのほかにも数々の名曲が収められています。

松本隆お得意のダブル・ミーニング、大瀧詠一作曲「はいからはくち」は「ハイカラ白痴」と「肺から吐く血」、さらには白痴と博士もかかっており、ひらがな表記で歌詞を聴くまで内容がわからない仕掛づくりが成されています。こちらも、モビー・グレープ「オハマ」からの影響が強い作品となっています。

鈴木茂作曲「花いちもんめ」は、歌詞の中に細野と大瀧の対立を客観的に見ている視点が織り込まれた弱冠19歳の渾身のデビュー作。
大瀧の多羅尾伴内名義による、当時流行していたCMのパロディー楽曲「はいから・びゅーちふる」や、1999年にシングルカットされた細野晴臣作曲、ファルセットヴォイスで歌われる「あしたてんきになあれ」などなど。

全編を漂う気だるい空気感、日本語ロック・ポップスの多様性や、以降の可能性を決定付けた「風街ろまん」。そしてはっぴいえんどという存在。

解散後は、1985年、国際青年年記念ALL TOGETHER NOWという大規模なジョイントコンサートにて再結成ライブをおこなっています。

以降、再結成は果たされぬまま2013年、大瀧詠一は永眠。2015年、松本隆作詞家活動45周年記念コンサート「風街レジェンド2015」にて、細野、鈴木が出演し、残されたはっぴいえんどの再結成となりました。

また、2021年11月5日、6日には、松本隆作詞家活動50周年コンサート「風街オデッセイ2021」が日本武道館にて開催される予定となっており、昭和~平成~令和を彩る錚々たるアーティストが、松本隆のために集結します。もちろん、細野、鈴木も2日間とも出演し、はっぴいえんど名義での演奏が予定されています。

はっぴいえんどファンには大興奮の2DAYS、レジェンドたちの躍進はまだまだ止まらないようですね。

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