2021年の5月18日、人気女性シンガーソングライターの藤原さくらが『君は天然色』を配信リリースしました。
ダイハツ・ムーヴキャンバスのテレビCMにも起用され、耳にしたことのある方も多いのではないでしょうか?
実はこの曲、1981年に大瀧詠一がリリースしたシングル楽曲のカバー。
とても40年前のものとは思えない瑞々しさに溢れるこの楽曲は、単なるヒット曲の枠にとどまらない、音楽的な普遍性を持った邦楽史上有数の大名曲です。
この記事では『君は天然色』の魅力、そしてこの楽曲の持つ深みについて見ていきたいと思います。
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目次
『君は天然色』とは?
『君は天然色』は、大瀧詠一のアルバム『A LONG VACATION』収録の楽曲です。
全楽曲において作曲は大瀧詠一、作詞はかつてはっぴいえんどという伝説的バンドで大滝と共に活動していた松本隆が手がけています。
ちなみにこの『A LONG VACATION』は、オリコン史上初のミリオン・ヒットを記録したCDという伝説を持つアルバムでもあります。
そのオープニングを飾る『君は天然色』もアルバム同様、邦楽史に名を残す名曲としてリリースから40年経った今もなお多くのミュージシャンや音楽ファンに愛されています。
最近では2020年放送のTVアニメ『かくしごと』のEDテーマに起用されたことでも話題になりました。
ちなみに、2021年に大瀧詠一のソロ作品が各種サブスクリプション・サービスで解禁され、彼の音楽を気軽に聴くことができるようになりました。
それまではCDやレコードを購入しないと聴けなかったこの楽曲が、今やクリック1つで簡単に聴くことができるというのはとてもありがたい話です。
大瀧詠一本人も絶賛した!『君は天然色』の音楽的魅力
この『君は天然色』という楽曲は、作曲した大滝自身も
「あれ以上に至福の時はなかった」
と述懐する出来栄えの自信作です。
夏を思わせる爽やかなメロディ、そして大滝の優しい歌声ももちろん魅力的ですが、この楽曲最大の素晴らしさはそのサウンドにあります。
大瀧詠一は熱心な洋楽ファンで知られていますが、この『君は天然色』では1960年代に活躍したフィル・スペクターという音楽プロデューサーのサウンドを参照しています。
スペクターの手がけた音楽の特長は、通称「ウォール・オブ・サウンド」と呼ばれる重厚なサウンドで、1960年代当時のアメリカのポップス業界を席巻しました。
『君は天然色』のイントロ、ピアノをメインに一気に展開されるきらびやかなサウンドは、まさしくこのフィル・スペクターの「ウォール・オブ・サウンド」の再解釈と捉えることができます。
また、大滝は自身のルーツである洋楽ポップスの古典を様々な形で楽曲の中に引用することがありますが、『君は天然色』でもその手法は健在。
例えば歌い出しの直前のブレイクのリズム、これは1970年代に全英1位シングルとなったウィザードの『シー・マイ・ベイビー・ジャイヴ』の2分15秒頃からの展開をそのまま使用しています。
これはあくまで一例で、こうした細やかな引用がこの楽曲には随所に見られます。
この一貫した洋楽ポップスへの愛と洞察を、そのまま邦楽の世界に持ち出し見事ヒットさせるという手腕が、『君は天然色』の深みのある魅力を生み出しています。
『君は天然色』の歌詞に込められた、松本隆の悲しみ
次に見ていくのはこの楽曲の歌詞について。
『君は天然色』の歌詞の第一印象としては「明るくも切ないラヴ・ソング」というものだと思います。
過ぎ去った過去(とき)
しゃくだけど
今より眩しい
もう一度そばに来て
はなやいで
美(うるわ)しのColor Girl
こうした歌詞からは、離れ離れになった恋人を思う男の心境が見て取れるよう。
しかし、この曲の歌詞に込められた想いというのはただのラヴ・ソングではありません。
実はこの『君は天然色』、そして『A LONG VACATION』制作当時、作詞を担当した松本隆に悲しいニュースが降りかかります。
松本の愛する実妹の、早すぎる死です。
彼は悲しみに打ちひしがれ、大滝に他の作詞家を探すよう依頼したと言いますが、「松本の詩でなければ意味がない、再び書けるようになるまでいくらでも待つ」と大滝は返答。
事実、アルバム『A LONG VACATION』は当初の予定より半年以上遅れてのリリースとなりましたが、その裏にはこうした悲しいエピソードがありました。
そして、『君は天然色』の歌詞はまさしく松本が亡き妹に捧げたものになっています。
彼女の死で「世界から全ての色が失われたようだった」と後に語った松本ですが、そうした背景を知るとその歌詞は非常に切なさを帯びて聴こえてきます。
特にサビの冒頭、
想い出はモノクローム
色を点けてくれ
という歌詞に込められた想いたるや。
こうした悲しいドラマ、そして大瀧詠一と松本隆という2人の天才の絆が、『君は天然色』に今もなお褪せない「色」を点けているのです。
大名曲『君は天然色』の素晴らしきカバー
ここまでに書いてきたように、『君は天然色』という楽曲はあらゆる意味で非の打ち所がない、邦楽史上の金字塔とも呼ぶべき名曲です。
そんな大名曲『君は天然色』は、これまで様々なアーティストによってカバーされてきたスタンダード・ナンバーでもあります。
ここからはそのカバーの中から、YouTubeで聴くことのできる2つのバージョンをご紹介したいと思います。
藤原さくらのカバー
1つ目はこの記事の冒頭でもご紹介した、藤原さくらによるカバー。
バックの演奏はオリジナルの壮大なものとは異なり、アコースティック・ギターを主体としたメリハリのあるものに。
そして藤原さくらの少しハスキーな歌声が、この楽曲の鮮やかなメロディと実によくマッチしています。
全体としてはガーリーでキュートな印象ですが、Aメロに顕著などこか寂しげな表情が楽曲に奥行きを与えているように思います。
『君は天然色』はもはや完璧と言っていいほどに洗練された楽曲ですから、カバーという形で違ったアプローチを試みるというのは実に勇気のいる挑戦です。
しかし、この藤原さくらのバージョンはその挑戦を見事に成功させています。
女性シンガーが歌うことで、この楽曲の新たな一面が浮き彫りになったような気さえする見事なカバーです。
川崎鷹也のカバー
次にご紹介するのが、松本隆トリビュート・アルバム『風街に連れてって!』に収録されている川崎鷹也のカバー・バージョンです。
川崎鷹也は、2018年にソロ・デビューを果たしたばかりのいわば新人アーティスト。
そんな彼が、B’zや宮本浩次といった錚々たる面々の中で松本隆の傑作である『君は天然色』をカバーすることには驚きの声もありました。
しかしこのカバー・バージョンを聴けば、その人選は間違っていないことがお分かりいただけるかと思います。
オリジナルの壮麗さをストリングスによって表現した爽やかさの引き立つ演奏の中で、実に力強く、そして誠実に歌い上げるその表現力は見事という他ありません。
このバージョンのプロデュースを務めたのは、東京事変のベーシストとしても知られる亀田誠治。
J-Pop界随一の名プロデューサーの指揮の元、『君は天然色』の持つ古典としての魅力、そして川崎鷹也の若々しい才能、その両方が調和しています。
最後に
今回は『君は天然色』という稀代の名曲について様々な角度から見ていきました。
『君は天然色』収録のアルバム『A LONG VACATION』はしばしば邦楽史上屈指の名盤と称され、様々なメディアが発表する邦楽名盤ランキングでも不動の地位を確立している作品です。
もちろんどの楽曲も名曲ではありますが、その中にあってこの『君は天然色』はひときわエヴァーグリーンな魅力を持つ楽曲です。
今でも耳にすることの多い『君は天然色』ですが、今回ご紹介したこの楽曲の持つ「深み」の部分に注意しながら聴いてみると、『君は天然色』がよりいっそう色鮮やかに感じられるようになるのではないでしょうか。
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