羊文学「1999」 – 楽曲レビュー ~ミレニアル世代が描く世紀末の世界観~

羊文学「1999」 – 楽曲レビュー ~ミレニアル世代が描く世紀末の世界観~

1999年のクリスマスに私は何をしていただろうか?
羊文学「1999」を聴いた時に真っ先に考えたことだ。

羊文学のプロフィール

羊文学2012年結成のオルタナティブロックバンドである。
Vo. Gt.塩塚モエカ、Ba. 河西ゆりか、Dr. フクダヒロアの男女混合3人組であり、ドリームポップやシューゲイザーの影響を感じさせる幻想的で浮遊感のある音像とコーラスワーク、儚さと透明感があるモエカの声が特徴である。

クリスマスソング「1999」とは

羊文学は2019年にメジャーデビューし、同年12月4日にリリースしたシングル『1999 / 人間だった』は生産限定盤ながら全国的なヒットを記録した。
ここに収録されている、彼女らの知名度を圧倒的に上げたクリスマスソング「1999」を紹介する。

羊文学 “1999” (Official Music Video)

「1999」楽曲解説

「1999」というタイトルについて

「1999」は西暦1999年という解釈で間違いないだろう。
「1999」というタイトルから想像するものは、世紀末やコンピューターの2000年問題、ノストラダムスの大予言、人類滅亡などがある。
確かに1999年は、ミレニアムへの期待と同時にこの世の終わりの空気も漂っていた。
しかし羊文学全楽曲の作詞・作曲をしているモエカは1996年生まれであり、世紀末の空気を実感していないはずだ。
そのモエカ「1999」を書いたきっかけはなんだったのだろうか?

羊文学ならではのサウンド

「1999」のイントロで聞こえるのは、彼女らの魅力である賛美歌のようなコーラスワークだ。
その声の重なりがクリスマスソングとしての華を持たせている。
モエカの声は澄んでいるが、憂いも含まれている。
その声質にギターの歪んだエフェクトが絡みあい、楽曲のストーリー性を高めている。
サウンド面はライブでの再現性も考慮しているのか、楽器の音数はあえて絞っているように感じる。そのためか非常に耳なじみがよい。

歌詞にまつわる3つの謎

「知らない神様」とは?

聴いていると「どういうこと?」と耳に引っかかる歌詞がいくつかある。
最初にサビでは
〈それは世紀末のクリスマスイブ/誰もが愛したこの街は/知らない神様が変えてしまう/っていう話〉
と歌われるように、突然この街が変わるかもしれないムードを描いている。
「知らない神様」とは一体なんなのだろうか?
クリスマスイブだからサンタクロース?それならみんなが知っている。
1999年なのだからノストラダムスの大予言に出てくる恐怖の大王のこと?と疑問を抱くところではないだろうか?

「僕」は誰?

次に「ぼく」は誰なのか?という点だ。
〈ぼくはどうしたらいい?〉ひらがなで始まる一人称が、途中で〈僕〉と漢字に変わっているのだ。歌詞を読まないとわからないのだが、これはストーリーを読み解くにあたり非常に重要なポイントである。
〈ぼくはどうしたらいい?/眠れない夜がきて/窓の外が少しオレンジに変わる〉
ぼくが主人公のような歌い出しであるが、次に
〈昨日見た映画で/過ぎていった時代は/僕のママやパパが子供の頃〉
と歌詞が「僕」の視点に変わっている。

「あのひと」とは?

最後に
〈僕が愛していたあのひとを/知らない神様が変えてしまった/どうしてよ〉
とあるように、実際に知らない神様は愛していたあのひとを変えてしまっている。
「あのひと」とは一体誰なのだろうか?

3つの謎の解明

「ぼく」の正体

以上から歌詞の意味を考えると、まず「ぼく」は「僕」のパパが子供の頃の一人称なのではないか?という結論にいたった。
映画の中で
〈ぼくはどうしたらいい?〉
眠れない夜を迎えているのが僕のパパが子供の頃、すなわち世紀末なのだろう。

「あのひと」の正体

また、僕が愛していた「あのひと」は僕のママとパパで「知らない神様」が変えてしまったことの1つは、不安から眠れない夜を増やしたことである。またその不安から仲たがいをしてしまったこともあっただろう。

「知らない神様」の正体

そして「知らない神様」とは、やはりノストラダムスの大予言に出てくる恐怖の大王のような大きな存在なのだろう。
変わってしまったあのひとを
〈夜が明ける頃/迎えにゆくよ〉
というのは、時代を越えて「僕」が「ぼく」を迎えに来るというファンタジーではないだろうか?
そして、この曲がリリースされたのは2019年であり「1999」の20年後というのも何か深い意図を感じる。

世代による1999年の認識の違い

羊文学:ミレニアル世代の認識

この曲を初めて聴いて驚いたのは、私にとって1999年は青春時代だったが、モエカは物心がついていないためか、「1999」架空の物語のように描いていることだった。
それと同時に、羊文学はミレニアル世代であるということを強く感じたのである。

ポルノグラフィティ:団塊ジュニア世代の認識

「1999」を初めて聴いた時に浮かんだ曲があるので紹介する。
1999年にリリースされたポルノグラフィティ「アポロ」である。

ポルノグラフィティ『アポロ』(“OPEN MUSIC CABINET”LIVE IN SAITAMA SUPER ARENA 2007”) / PORNOGRAFFITTI『Apollo(Live)』

浮かんだ部分は、
〈僕らの生まれてくるずっとずっと前にはもう/アポロ11号は月に行ったっていうのに〉
という頭サビの歌詞だ。

ミレニアム直前に生まれた羊文学も、私の世代もアポロ11号の月面着陸は生まれてくる前にあった過去の出来事である。

戦後生まれの団塊世代の認識

しかし戦後生まれの団塊世代から見たら、月面着陸は青春時代の話である。
言い換えると私が1999年のことを過去の話として歌う羊文学に対する違和感と同じようなものを、団塊世代はポルノグラフィティの「アポロ」に対して感じたのではないかということだ。

このように「1999」は、ミレニアル世代や世紀末におびえていた団塊ジュニア世代、月面着陸が未来だった団塊世代、それぞれの世代によって感じることが違うということに気づいたのである。

私が描く1999年

私にとって1999年は、かつての「未来」だった。
子供の頃にノストラダムスの大予言におびえ
〈眠れない夜が増え/テディベアとお話できそうだよ〉
というような体験をした。
そして1999年の
〈カウントダウンがはじまった〉
時は、ドキドキしたものだった。

冒頭の「1999年のクリスマスに私は何をしていただろうか?」
私の回答は、青春時代であり、憂鬱で不安定な日々を過ごしていたということだ。

ミレニアル世代が描く1999年

しかし羊文学「1999」で、1999年のことを未来ではなく、過去の物語として描いている。
過去の物語としていることの違和感を受け止めながら、ミレニアル世代である羊文学が描く1999年の世界観に強く感銘を受けたのだ。

「1999」が好きならこのバンドの楽曲も気に入るはず

きのこ帝国 – 海と花束 (MV)

2007年結成のオルタナティブロックバンドであるきのこ帝国は、羊文学と同じ男女混合編成の4人組である。
シューゲイザーやポストロックの影響を受けたバンドサウンドが特徴である。
2013年リリースした1st EP『ロンググッドバイ』より、インディーズ時代の名曲を紹介する。
想い続けた人との決別を描いた楽曲であり、
〈僕たちはいつも/叶わないものから順番に愛してしまう〉
という歌詞は、2010年代の邦ロックを代表する名フレーズだと確信している。

きのこ帝国-金木犀の夜

次に、2018年に発表した3rdアルバム『タイム・ラプス』より、活動後期の名曲を紹介する。
岩手県出身のVo.佐藤千亜妃金木犀の香りを知らないが、友人に「金木犀の曲、書いてよ」と言われたのがきっかけとなり、イメージを膨らませた曲である。
きのこ帝国は2019年5月に活動休止を宣言したが、佐藤はソロ名義で現在も活動している。

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