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星野源の歌詞
さて、ここまでは音楽的背景や編曲といった部分から分析していきましたが、ここから見ていくのは星野源の歌詞表現。
星野源は音楽的にはかなり高度なアーティストですが、彼がポピュラリティを獲得しているのは実は歌詞の魅力が大きく貢献しているような気がします。
星野源というとエッセイストやラジオ・パーソナリティとしても活躍していますから、彼の紡ぐ言葉というのは彼の音楽と同じくらいキャッチーで親しみやすいものです。
その理由として、彼の死生観と捻くれたセンスというのが挙げられると思います。
『地獄でなぜ悪い』という楽曲を例に挙げましょう。この曲は彼がくも膜下出血で闘病中に生まれた楽曲です。
音楽そのものはとてもポップなキラー・チューンですが、その歌詞の一節
「無駄だ ここは元から楽しい地獄なんだ
生まれ落ちた時から 出口はないんだ」
の強烈さといったら…。
この世を「地獄」と表現する激しさは勿論、それを「楽しい」と言ってのけるセンスというのは真似できるものではありません。
紛れもなく、生死の狭間をさまよい、音楽に救われた彼にしか書けない言葉です(ちなみにこの時に彼を救ったのがプリンス。そのままブラック・ミュージックを探求し、MJに行き着き『SUN』が生まれたという経緯があります)。
捻くれた部分でいけば、先に紹介した『アイデア』からこの歌詞を引用しておきたいと思います。
「生きて ただ生きていて
踏まれ潰れた花のように
にこやかに中指を」
2番のサビに入る直前の歌詞ですが、「中指を」というのが実に刺激的です。2番は音楽的にもダークなムードがあるという話はしましたが、それをさらに印象付けるような挑戦的な歌詞となっています。
今でこそ星野源というと国民的な人気者ですが、彼の半生というのはかなり暗いものなんです。
そうした闇が歌詞の中に表れることで、結果的に彼の楽曲の底抜けの明るさにコントラストを生んでいるのではないでしょうか。そうしたスパイスの要素こそ、星野源の歌詞の最大の魅力だと思います。
ここまで見てきたように、星野源の作品というのは決して「売れ線の軽薄なJ-Pop」ではありません。
ただ、彼の音楽が高尚なものかというとそうでもありません。これほど様々な引き出しを持ち合わせていながら、星野源の音楽はやはりどこまでも「J-Pop」なんです。
それがよく表れているのが彼のライブでしょう。ここまであえて触れてきませんでしたが、彼の最大のヒット曲、『恋』のライブ映像を見てみましょう。
この多幸感、紛れもなく「ポップス」です。
ロックのひりついた緊張感でもなく、ジャズやクラシックのような上品な空気でもない、ただただ楽しい空間を提供するライブ・パフォーマンス。バック・ダンサーも登場して「恋ダンス」を披露していますね。
繰り返すようですが、あくまで彼の音楽はハイ・コンテクストなものです。
売れることだけを意識したようなチープなものでなく、信念に基づいたアーティスティックなもの。
その上で、それを「J-Pop」に昇華してしまっているというのが彼の最大の魅力。彼の背景に詳しくなくても、ただ音楽として純粋に楽しむことのできる親しみやすさが彼の音楽にはあります。
そして、今回説明した込み入った部分まで発見できることができれば、「星野源」という天才をもっともっと深く楽しむことができます。
今まで「人気歌手」として星野源を聴いていた方も、これを機に「アーティスト」としての星野源に注目していただけたらと思います。