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星野源の独創性
ただ、星野源の魅力はブラック・ミュージック的な音楽性だけではありません。次に見ていくのが、彼の独創性、オリジナリティの部分。
『アイデア』という楽曲を例にとって分析してみましょう。NHK連続テレビ小説『半分、青い』の主題歌にも起用された曲ですが、よくよく聴いてみるとかなり複雑な構成なんです。
ストリングスとマリンバが弾ける印象的なイントロから1番のサビにかけて、一貫して楽しげなサウンドが展開されます。星野源のパブリック・イメージに相応しい曲調です。
ところが、2番から様子が一変します。突然暗いムードになり、それまではバンド編成だった演奏が打ち込みを主体にした無機質なものに。メロディ自体は同じですが、かなり印象が変わります。
そして更に曲調は変化し、アコースティック・ギター1本での弾き語りに…2番のダークさを引き継ぎながら優しいメロディを歌います。そしていよいよラスサビ、ここでようやく最初の華々しいバンド・サウンドに戻ってくるという構成です。
ここまで曲調が変化する楽曲、それもJ-Popのヒット曲というのは他になかなかありません。洋楽に目を向ければ、クイーンの『ボヘミアン・ラプソディ』にも通ずるものがあると思います。
音楽的には高度かつ挑戦的でありながら、非凡な音楽センスでヒット曲に「してしまう」という共通点。
さらに、もう1曲星野源の作曲の高度さを象徴する楽曲として触れておきたいのが『創造』です。
この曲、任天堂の不朽の名作『スーパーマリオブラザーズ』発売35周年のアニバーサリー・ソングですが、楽曲の中に数々の任天堂作品へのオマージュが散りばめられているんです。
ゲームキューブの起動音に始まり、名作ゲームの効果音を模したエフェクトが印象的に挿入されています。
ゲーム・ファンなら思わずほくそ笑んでしまうような演出ですが、その遊び心というのが実にさりげなく、元ネタを知らない人も、音楽として100%楽しめるように作られています。
アーティストとして良い楽曲を作る。そして任天堂のアニバーサリー・ソングに相応しい意匠を凝らす。
この2つを同時に成立させている凄さというのを感じ取っていただきたいです。かなり繊細なバランス感覚がなければ、コミック・ソングのようなものにもなりかねません。