2018年1月、株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントが、自社グループ内においてアナログレコードの自社一貫生産を開始すると発表しました。
1980年代にCDが誕生して以来、音楽のデジタル化が一気に加速したことによって、残念ながらアナログレコードの存在が薄れていってしまいました。
しかし、数十年の時を経て、再びじわじわとアナログレコードの魅力が注目され始めています。
それまでは国内でたった1社だけがアナログレコード生産を行ってきましたが、音楽系大手であるソニー・ミュージックがアナログレコード用の製造設備をわざわざ導入し、製造部門に再参入したことは、人気の再燃が本物であることを証明しています。
アナログレコードはとても不便なもので、レコード自体は大きいし、聴くためにはプレーヤーなど周辺機器も揃えなければいけません。
だけれど、その不便さの分だけ、流れてくる音楽を隅々まで大切に聴くようになります。
興味のある方は、アナログレコードの世界を少しだけ覗いてみてはいかがでしょうか。
目次
アナログレコードとは
アナログレコードは、「レコード」や「アナログ盤」と呼ばれるほか、作られる材質に由来して「ビニール」や「バイナル」( Vinyl )などとも呼ばれます。
CDは音をデジタル化してディスクに記録させているのに対して、アナログレコード は盤面の溝(音溝)に音の振動を掘って記録させ、その音溝にレコード針をあて、電気信号に変換することで音楽を再生しています。
そのため、アナログレコードを実際に聴くには、
- ①レコードプレーヤー
- ②カートリッジ(レコード針の付いている部分)
- ③フォノイコライザー(出力レベルを上げたり、本来の音を再生するのに必要なもの)
- ④アンプ(電気信号を増幅させるもの)
- ⑤スピーカー
が必要です。
これらの機能が一体になっているレコードプレーヤーもありますが、そうでないものもあり、その場合にはそれぞれ揃えなければいけません。
また、繊細な振動を捉えて音楽を再生しているため、正確な音楽を聴くには、レコードプレーヤーが水平になっていなければいけなかったりと、環境が音の質を左右する場合もあります。
このように、アナログレコードを聴くには少々の手間をかけなければいけませんが、それもアナログレコードの大きな魅力の一つ。
1877年に発明家トーマス・エジソンが、フォノグラフ(円筒形録音盤装置)を発明して音を録音・再生することに成功し、その10年後に発明家エミール・ベルリナーがグラモフォン(円盤型蓄音機)を発明しました。
グラモフォンは、アナログレコードの原型であり、その名は音楽の最高峰を決めるグラミー賞の由来にもなりました。
アナログレコードは、人々が音楽を楽しむための最初の道具であり、音楽を世界中に広めることになった、とても歴史深いものなのです。
あえてアナログ盤をリリースするアーティストたち
アナログレコード の人気が再燃しているとはいえ、自宅にプレーヤーがあるという人は、まだまだ少ないのが現状です。
それでも今、通常のCD盤に加え、あえてアナログ盤をリリースするアーティストが続々と増えています。
今回はその中でも、聴いておいて損はない、邦楽アーティストのおすすめレコードを紹介していきます。
細野晴臣「HOCHONO HOUSE」
音楽界の重鎮にして、まだ進化をやめない細野晴臣さん。
自身の1stソロアルバム「HOSONO HOUSE」(1973年リリース)の曲順をそのまま逆にし、機材を自宅に持ち込んで、全て自分自身でリメイクしたのが、この「HOCHONO HOUSE」。
多くのアーティストに多大な影響を与えた、名盤中の名盤をセルフリメイクした「HOCHONO HOUSE」も、間違いなく名盤です。
クレイジーケンバンド「もうすっかりあれなんだよね」
横浜発のロックバンド、クレイジーケンバンド。
2015年にリリースしたアルバム「もうすっかりあれなんだよね」をアナログ化し、音質にこだわった180g重量盤の2枚組でリリースしました。
ムーディーで泥くさいクレイジーケンバンドの「大人の遊び的」音楽は、アナログレコードで聴くとさらにグルーヴィーです。
星野源「Pop Virus」
歌手、俳優、文筆家など、様々な顔を持つ星野源さん。
ジャズ音楽が好きな両親の影響で、家にはたくさんジャズのレコードがあったといいます。
いつもレコードの音楽に包まれて育った星野源さんが、アナログレコードをリリースするのは、ごく自然な流れ。
「Pop Virus」は、何となく聴いていると、いかにも星野源さんらしいポップなアルバムに聴こえますが、聴き込んでいけばいくほど、こだわりがこれでもかと細部に散りばめられています。
プロでもおののくほどの、「凝り」を感じることができる衝撃作です。
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OKAMOTO’S「OPERA」
芸術家・岡本太郎を敬い、メンバー全員が「オカモト」姓を名乗る異色のバンド、OKAMOTO’S。
ベースには、浜田雅功さんの愛息ハマ・オカモトさんが在籍していることでも知られていますが、彼らの最大の魅力は音楽技術の高さ。
そして、世界的芸術家を敬愛するバンドの由縁をもつことからもわかる、真似のしようがない個性です。
「OPERA」は、彼ら全員が紡いだ音楽を一つのストーリーにしたもので、曲中や曲間など随所に計算された演出が施されています。
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カネコアヤノ「爛漫/星占いと朝」
今、最も注目度の高いアーティストの1人、シンガーソングライターのカネコアヤノさん。
揺らぎながらも芯のある世界観が、彼女の魅力です。
彼女の言葉は、リアルな感情と希望が見え隠れします。
アナログ盤は、7インチシングルレコードで限定生産された『爛漫』。
音と言葉、そして彼女の声に集中して聴いてほしい作品です。
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羊文学「ざわめき」
2015年に結成された3人組のガールズバンド、羊文学。
クリスマスシングル『1999』がスマッシュヒットを記録し、一躍注目を集めている、音楽ファンからの期待満載な彼女たち。
「ざわめき」は、羊文学が新たに別の扉を開いたような、何かの始まりを予感させる仕上がりです。
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坂本慎太郎「できれば愛を」
2010年に解散したロックバンドゆらゆら帝国のボーカル&ギター、坂本慎太郎さん。
ゆらゆら帝国の音楽は、本当に同じアーティストが作っているのかと疑うほど振り幅が大きく、ゆらゆら帝国中毒者を幾人も生み出しました。
その中心にいたのが、独特の雰囲気を纏っている坂本慎太郎さん。
ソロになって3作目のアルバムとなった「できれば愛を」は、明るくポップなアルバムを作ろうと思ったのに、なぜかどんどん重みのあるものに仕上がってしまったという作品。
坂本慎太郎さんという人間から、滲み出たような音楽を堪能できます。
大橋トリオ「THUNDERBIRD」
心地よい優しい歌声が人気の、大橋トリオさん。
CMでお馴染みの楽曲を含む「THUNDERBIRD」は、大橋トリオさんが持つ普遍的な温かみをベースにしながらも、冒険心を散りばめた聴きごたえのあるアルバムです。
大橋トリオさんの楽曲は、アナログレコードの良さを最大限に感じさせてくれるような不思議なオーラがあります。
藤井 風「HELP EVER HURT NEVER」
「次なる大ブレイクアーティストは99%彼だ」という声があらゆる方面から飛んできている、シンガーソングライター藤井風さん。
歌声は、リスナーをどっぷりと酔いしれさせるのに十分なほど、色気を持っています。
「これからの時代はYouTubeだ」というお父さんの一言で、小学生の終わりから音楽動画を配信していた彼。
「HELP EVER HURT NEVER」は、2020年5月にリリースされた1stアルバムであり、間違いなく2020年を代表するアルバムになるでしょう。
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久石譲「 ENCORE ~アンコール~」
日本を代表する音楽家である久石譲さんは、ジブリファンにとってはお馴染み。
ジブリ作品のサウンドトラックも、それぞれアナログレコードでリリースされており、ファンならそのジャケットもコンプリートしたくなるほど魅力的です。
しかし、久石譲さんが名曲を残しているのは、もちろんジブリだけではありません。
「ENCORE」は、久石譲さんにとって初のオールピアノアルバム。
音楽家・久石譲さんの奏でる優しく美しい音色が響きます。
アナログレコード なら、その素晴らしさを体全体で堪能できます。
レコードの日
2020年で6年目を迎える「レコードの日」が、今年も11月3日に開催されます。
「扱いが面倒だけど、素敵な音楽の時間を与えてくれるアナログレコードを愛そう」というコンセプトで始まったこのイベント。
11月3日午前0時より、参加アーティストらによる様々なアナログレコードが、全国レコードショップの店頭やオンラインで一斉に販売されます。
もしかしたら、お気に入りのアーティストも参加しているかもしれないので、気になる方はぜひチェックしてみましょう。
さらに年内には、Mr.Childrenが12月2日にリリースするニューアルバム「SOUNDTRACKS」を、180g重量盤アナログレコードでもリリースすると発表しています。
何でも便利な世の中になったからこそ、手間のかかるアナログレコードが再び人気を呼んでいます。
ぜひ、コーヒーでも飲みながら、ゆっくりとアナログレコードを楽しんでいただけたらと思います。