パーカーのフードをかぶり、フェイスマスクで顔の下半分を覆った全身黒づくめのミステリアスな若者。
その正体は、世界中で絶大な人気を誇る「DJ/プロデューサーのアラン・ウォーカー」です。
アラン・ウォーカーと同じような格好をした熱狂的なファン達は“ウォーカーズ”と呼ばれ、彼の頭文字であるAWをあしらったデザインのグッズを身に着けたウォーカーズが集結するライヴは、さながら秘密結社の集会のようにも見えます。
彼が「団結の象徴」と語るパーカーとフェイスマスクのアーティストイメージは、アメリカの人気ドラマシリーズ『MR. ROBOT』と人気アクションゲームシリーズ『ウォッチドッグス』からヒントを得たものです。
また、顔を積極的にメディアに露出しないことで匿名性を保ち、人々に「アラン・ウォーカーの背後にいるのは誰なんだ?」と疑問を抱かせる効果もあると発言しています。
ハッカー集団アノニマスのように高い匿名性と大きな影響力を併せ持つアラン・ウォーカーは、まさにインターネット時代ならではのアーティストだと言えるかもしれません。
活動の拠点であるノルウェー国内において、サブスクリプションサービスのチャンネル登録者数1位、YouTube再生回数1位など数々の記録を保持しており、22歳の若さにしてノルウェーの音楽界のトップに君臨しています。
そんな彼の経歴や代表曲をご紹介していきます。
目次
アラン・ウォーカー・経歴?
DJとして活動を始めるまで
1997年8月24日、イギリス人の父親とノルウェー人の母親の間に生まれたアラン・ウォーカーは、2歳の時にイギリスからノルウェーへ移住しています。
幼少時からコンピューターに慣れ親しんでいた彼は、その興味の対象をプログラミングとグラフィック・デザインにシフトさせていきました。
彼が音楽制作を始めた当初は、楽器演奏などの経験がまったくなかったため、YouTubeのチュートリアル動画を見ながら知識を学んでいったと言います。
DJとして音楽制作を開始
2012年頃から音楽活動を開始したアラン・ウォーカーは、インターネットを通して繋がった友人やミュージシャンなどの助けを借りながら少しずつ音源を発表していきました。
活動開始当初はDJ Walkzz名義を使用しており、レコード契約獲得後に、本名であるアラン・ウォーカー名義に変更しています。
彼が自身の音楽的インスピレーションを受けたアーティストとして名を挙げているのが、ノルウェー人DJのK-391、オランダ人DJのAhrix、映画音楽の巨匠ハンス・ジマー、映画・ゲーム音楽の作曲家スティーブ・ジャブロンスキーなどです。
K-391とAhrixのふたりとはコラボレーション楽曲も発表しています。
人生を変える楽曲を発表
2014年8月、アラン・ウォーカーは彼の人生を変えることになる楽曲を発表します。
“Fade”と名付けられたインストゥルメンタル曲は次第に人々の注目を集め、YouTubeで4億回以上という凄まじい再生回数を記録しました。
ベッドルームで音楽を作って発表していただけの青年が、瞬く間に世界でもっとも注目されるクリエイターのひとりとして知られることになったのです。
世界的に有名になるきっかけ
2015年12月には、“Fade”にノルウェーの女性歌手イセリン・ソルヘイムのヴォーカルを加えて改題した新バージョン”Faded”を発表。
“Faded”は原曲となった“Fade”以上の成功を収め、世界10ヵ国以上でチャート1位を獲得する大ヒットとなりました。
EDMの要素をそぎ落とし、ピアノとストリングをバックにイセリン・ソルヘイムが歌う”restrung”バージョンも公開されており、そちらも素晴らしい完成度を誇っています。
YouTubeの再生回数26億回超を誇る同曲は、2018年に映画監督:三池崇史のメガホンで映画化された東野圭吾の小説『ラプラスの魔女』の主題歌として使用されていることでも知られています。
アラン・ウォーカーの勢いは止まらない
完全にミュージシャンとしての活動が軌道に乗った彼は、2016年に高校を中退して音楽に専念することを決心します。
同年2月には、ノルウェーの首都オスロで開催されたエクストリームスポーツの祭典Winter X Gamesで初めて公の場でパフォーマンスを披露し、音源制作だけではなくパフォーマーとしての道も歩み始めることになりました。
ノルウェーを代表するトップDJとなった彼は、その勢いを維持しながらヒット曲を連発。
再びイセリン・ソルヘイムとタッグを組んだ”Sing Me to Sleep” はYouTube再生回数5億7000万回以上、続く”Alone”はYouTube再生回数10億回以上、年末にリリースした “Routine”もYouTube再生回数5,700万回以上と驚異的な記録を叩き出しました。
“Sing Me to Sleep”と”Alone”は、前年に発表された”Faded”と共に三部作であることが明かされています。
2017年に入っても創作意欲は衰えるところを知らず、4月から6月にかけて3ヶ月連続で楽曲を発表したアラン・ウォーカー。
自身初となる男性ヴォーカリストをフィーチャーした新機軸の”Tired”は、ライヴ会場での大合唱が容易に想像できるようなサビを持っており、YouTube再生回数1億3000万回超えのヒットとなりました。
9月には2015年リリースの楽曲”Spectre”に手を加えた”The Spectre”が発表され、超アッパーなサビ、そして若者の悩みや葛藤を歌った歌詞が共感を呼び、現在までにYouTube再生回数7億回以上を記録しています。
集大成のアルバムを発売
2018年12月、アラン・ウォーカーはついに、待望のデビューアルバム『Different World』をリリース。
地球温暖化など世界規模の環境問題に関心を抱いている彼は、「今までとは違った世界にしていかなければいけない」という想いを込めてアルバムタイトルを付けたと語っています。
アルバムは前半部分に未発表の新曲が収録され、インタールードを挟んだ後半にヒットシングルが数多く配置されるという構成になっています。
しかし、今までリリースされたシングルが網羅されているわけではなく、オリジナル盤には前年に大ヒットした”The Spectre”すら収録されていません。
日本盤にはボーナストラックとして3曲が追加されています。
スティーヴ・アオキなど大物アーティストとのコラボレーション楽曲を収録した『Different World』は世界各国でヒットを記録。
本国ノルウェーや同じく北欧のフィンランドで1位を獲得したのをはじめ、ビルボードの『US Top Dance/Electronic Albums』でも2位にチャートインするなど、世界各地で好評をもって迎えられました。
同作はアメリカで50万枚のセールスに贈られるゴールドディスクを獲得しています。
アルバムの大ヒットで2018年を締めくくったアラン・ウォーカーでしたが、2019年3月には早くも新曲を発表します。
世界中で爆発的にプレイヤー数を増やしているバトルロイヤル・ゲーム『PUBG』の稼働開始1周年記念のテーマ曲として制作された新曲“On My Way”は、YouTube再生回数2億6000万回超えを記録。
『PUBG』のために同年7月にも “Live Fast”という楽曲を発表しています。
同年8月に新曲”Play”をリリースした際には、同曲のリミックスの腕前を競うコンテストの開催が発表され、優勝者には「スタジオでアラン・ウォーカーと過ごす権利」が与えられました。
コンテストはすでに締め切られ、ノルウェー人アーティストNiyaが優勝者として発表されています。
ゲーム好きとしても知られる彼は、2019年11月にはスマホ用ゲーム『Alan Walker-The Aviation Game』をリリース。
それに伴う新曲として”Avem (The Aviation Theme)”を発表しています。
同曲はノルウェーの国民的人形アニメ映画『ピンチクリフ・グランプリ』のテーマ曲をアラン・ウォーカー流にアレンジしたものです。
“国民的”の形容詞は大袈裟なものではなく、なんと同映画の入場者数は、ノルウェーの全人口を上回っていると発表されています。
2019年12月、現在のところ最新曲となる”Alone, Pt. II”を発表。
これは2016年発表のシングル”Alone”の続編となる楽曲で、2018年に“Sweet but Psycho”を大ヒットさせたアメリカ人女性歌手Ava Maxをフィーチャーしています。
アラン・ウォーカー・おすすめ曲
Faded
アラン・ウォーカーの名を全世界に轟かせた、モンスターシングルを真っ先にご紹介しないわけにはいかないでしょう。
物悲しいピアノの調べで始まる“Faded”は、焦燥感を煽るように繰り返されるシンセサイザーのリフと押しつぶされそうな不安感を切々と吐露する女性歌手イセリン・ソルヘイムのヴォーカルが耳から離れなくなる中毒性の高い楽曲です。
何かを求めてディストピア的な世界を彷徨うミュージックビデオも、素晴らしい仕上がりになっています。
The Spectre
先ほどの“Faded”とは打って変わって、今度はアッパーな楽曲をご紹介しましょう。
2017年に発表された”The Spectre”は、悩める若者たちを鼓舞するような力強い歌詞を持っており、サビではフロアを揺らす勢いで飛び上がりたくなる名アンセムです。
ライヴ会場の映像を使用したミュージックビデオは、観ているだけで気分が高揚してきます。
Alone
“Faded”、“Sing Me To Sleep”と並んで三部作の一角を占める“Alone”。
もしかしたらこの楽曲が、アラン・ウォーカーというアーティストの本質を表現しているのかもしれません。
曲名は“Alone”ですが、この曲で繰り返し歌われているのは「I know I’m not alone」、つまり「わたしは独りじゃない」というフレーズです。
この曲はミュージックビデオをご覧になることを強くオススメしたいと思います。
ウォーカーズの名の下に集結する、パーカーのフードとフェイスマスクで顔を隠した黒ずくめの若者たち。
社会からの疎外感に苦しんでいる若者たちに居場所を与えてくれる、そんな優しさを感じさせる名曲です。
まとめ
インターネットで音楽制作の方法を学び、人前での演奏経験もないまま、自身のベッドルームから世界中を熱狂させる楽曲を送り出してしまったアラン・ウォーカー。
1990年代後半から2000年代にかけて生まれた世代を「ジェネレーションZ」と言いますが、生まれた時からインターネットが身近にあった世代の若者にとっては、これが当たり前の手法なのかもしれません。
アラン・ウォーカー未経験の方は、まずはオススメ楽曲を聴いていただき、その魅力の一端に触れていただければと思います。
2020年代も躍進を続けるはずのアラン・ウォーカーから今後も目が離せません。