結成35年を超えても、メンバーが全員50歳を過ぎても、少しも色褪せることのないロックバンドがあります。
「怒髪天」(どはつてん)
1991年に札幌から上京してきた彼ら。
あれからずっと真っ直ぐ生きてきたロックンローラーを見て、誰もが素直に「カッコイイ」と賛辞を送ります。
泥くさいような、古くさいような、でも途轍もなくカッコイイ「怒髪天」。
そのヒストリーと、魅力に迫ります。
目次
怒髪天(どはつてん)とは
結成〜メジャーデビュー
怒髪天は、1984年に北海道札幌市で結成されたロックバンドです。
当時、高校生だったボーカル増子直純さんを中心に、ハードコア・パンクバンドとして産声を上げました。
1986年に一度解散し、メンバーの入れ替わりを経て、1988年より現在のメンバーとなった怒髪天は、ロックバンドとしての活動を本格化させていきます。
札幌のインディーズシーンにおいて、破竹の勢いで人気を集めた怒髪天は、満を持して上京。
1991年、1stアルバム『怒髪天』でメジャーデビューを果たしました。
1stアルバム『怒髪天』のタイトルは、北島三郎さん直筆の書。
同じ北海道から夢抱えて上京してきた怒髪天への、エールが込められています。
まさかの所属事務所倒産
夢と希望を抱いて上京し、メジャーデビューを果たしてまもなく、所属事務所が倒産するという憂き目に遭ってしまいます。
長く若者を熱狂させてきたバンドブームが終焉を迎えてしまったのでした。
スタートをきったばかりの怒髪天は、先行きが見えないままながらもポジティブに活動を続けますが、1996年に活動を休止。
バンド活動休止中、ボーカルの増子直純さんは、実演販売やリングアナ、雑貨屋の店員など様々な社会経験を積み、人として大きく心境を変化させました。
1999年、3年間の休止期間を過ごし、それぞれ成長したメンバーにベース清水泰次さんが再集結を呼びかけ、怒髪天を再始動。
再度、インディーズからの出発を決め、2000年にマキシシングル怒盤をリリースしました。
時代の流れに取り残され、社会の波を経験してきたメンバーは、音楽的にも以前とは違うものを生み出すようになっていき、JAPANESE R&E(リズム&演歌)という独自路線を確立していきます。
再度メジャーデビュー
2004年、アルバム『握拳と寒椿』をリリースし、再度メジャーに進出。
バンド結成からすでに20年、メンバー全員が40歳を手前にしてのメジャーシーン返り咲きは、多くのバンドマンに勇気と希望を与えることになりました。
さらに10年後の2014年、怒髪天メンバーは50歳を目前にして、日本武道館を満員にし、憧れの地での初ワンマンライブを成功させました。
2019年、結成35年を記念し、アルバム『怒髪天』をリリース。
2020年には、前代未聞の英詞セルフカバー配信限定シングル『THE JAPANESE R&E』と、配信限定アルバム『チャリーズ・エンジェル』を世界へ向けてリリースし、その活動意欲はまだまだとどまるところ知りません。
怒髪天の魅力
真っ直ぐな思いと絶妙なオールド感を携えた歌詞
怒髪天の魅力といえば、まずはボーカル増子直純さんが手がける歌詞です。
時代の移り変わりや、何度も目の前を阻む壁、危機感や違和感を感じる社会・・・。
決して器用ではないけれど、いつだってポジティブに、そしていつだって正直に生きてきた増子直純さんが伝えようとする言葉は、リスナーの心をもれなく震わせます。
ロックバンドであることの原点からブレない増子直純さんは、ロックバンドだからこそ叫ぶべき言葉をストレートに表現するのです。
いつの間にか”顔色を伺うようになってしまっている風潮”に異を唱え、「ロックバンドって、そんなんじゃなかっただろう!」と同じようにステージに立ってる者たちにも言葉を向けます。
そして、絶妙なオールド感を漂わせる言葉のチョイスが、ユニークと哀愁の共存を可能にしています。
”昭和の男”であり、”昭和の言葉を知る者”であることを武器に、同世代には共感を呼ばせ、若い世代には目新しい世界のように感じさせます。
どの世代にもユーモアたっぷりに聞こえるように仕掛けられた歌詞であり、聴き終えてみると、シンプルに”正しいこと”を教えてくれていたんだと気づかされます。
ただひたすら論を唱えるよりも、少しユーモアを交えることで心に刻まれやすくなるという仕組みを巧みに施しているのが、作詞家・増子直純さんの真骨頂なのです。
JAPANESE R&E(リズム&演歌)
怒髪天の音楽は、ロックバンドの中でもかなり異彩を放っています。
それは、独自で確立した音楽ジャンル「JAPANESE R&E(リズム&演歌)」なるロックンロールを貫いているから。
結成当初は、硬派なハードコア・パンクバンドであった怒髪天は、活動休止と再結成を経て、全く新しいバンドに生まれ変わりました。
本来、R&Bのブルースは「苦しみなどの心情を吐き出し、生活に密着しているもの」であるべきなのに、日本で歌われていたR&Bは、なぜか外国人の真似事のように聴こえてしまう。
その違和感を感じていた増子直純さんは、「日本人にとってのブルースは演歌だ」と気づいたのです。
生まれ育った国や自分自身のルーツを大切にし、それを誇りに思うことこそが、何よりカッコイイのではないかと。
ロックに演歌の要素を加えるなど、誰もやろうとしなかったことを、怒髪天はあえて旗印にしたのです。
日本人の心と表される”演歌”のように、怒髪天の音楽は”心に沁みる”のです。
怒髪天メンバー
増子 直純(ますこ なおずみ)
メリークリスマス🎅 pic.twitter.com/8K52wIhu9Q
— 怒髪天 (@dohatsuten_crew) December 24, 2019
生年月日:1966年4月23日
出身地:北海道札幌市出身
担当パート:ボーカル
「兄ぃ」の愛称で多くのアーティストに親しまれている増子直純さん。
怒髪天では、ボーカルと作詞を担当しています。
THE BEATLESのファンだった母親の影響で、小さな頃から音楽に触れて育ちました。
中学生の時、パンクバンド・アナーキーに衝撃を受け、高校2年の時にバンドを結成させます。
高校卒業後、親に少し騙されて航空自衛隊に入隊し、2年間所属していました。
関ジャニ∞や、ももいろクローバーZなど多くのアーティストに作詞提供し、2020年には渡辺美里さんとも『ハートに火をつけて〜シーズン2〜with怒髪天』で共作を果たしています。
さらに、怒髪天のボーカルとして活躍する傍ら、ドラマや舞台などに出演し、俳優としても才能を発揮しています。
2019年のNHK大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」では、映画監督・黒澤明役を熱演しました。
上原子 友康(かみはらこ ともやす)
メリークリスマス🎅 pic.twitter.com/TMefOnWCdj
— 怒髪天 (@dohatsuten_crew) December 24, 2019
生年月日:1967年2月26日
出身地:北海道留萌市出身
担当パート:ギター
怒髪天の音楽の中枢を担う、上原子友康さん。
怒髪天の楽曲のほぼ全てを作曲しており、「王子」と呼ばれています。
音楽制作が止まらなくなってしまう時があるほど、音が溢れ出したら誰にも止められません。
2015年の正月、the pillowsのベーシスト上田健司さんと「MOIL&POLOSSA(モイル&ポロッサ)」を結成。
ダブルボーカル、ダブルアコースティックギターで、肩肘張らない音楽を届けています。
清水 泰次(しみず やすつぐ)
メリークリスマス🛷🎄 pic.twitter.com/WI42FepmrP
— 怒髪天 (@dohatsuten_crew) December 24, 2019
生年月日:1968年5月4日
出身地:北海道千歳市出身
担当パート:ベース
怒髪天で圧倒的な存在感を放つ、清水泰次さん。
モットーは「フロントマンより前へ!」です。
愛称は「シミさん」で、怒髪天の中では最年少です。
かつて、ライブ収録の直前に腰を痛め、少しでも腰をかがめると激痛が走るという絶対絶命のピンチに見舞われました。
ライブ開始前にはマネキンのように体を真っ直ぐしたままステージに運ばれ、根性でライブをやり終えると、またマネキンのように運ばれていったという伝説を持ちます。
坂詰 克彦(さかづめ かつひこ)
バリ男、やってるかな〜#マレーグマ pic.twitter.com/KZG7qepbvf
— 怒髪天 (@dohatsuten_crew) April 13, 2020
生年月日:1966年8月18日
出身地:北海道幌加内町出身
担当パート:ドラム
強面でダイナミックなドラムが魅力の坂詰克彦さん。
愛称は「坂さん」です。
怒髪天随一の変わった趣味を持っています。
ご当地パン・ビジネスホテルの朝食・鉄塔撮影など、独特の趣味を「坂詰克彦のブログ」で綴っています。
植木屋でアルバイトをしていた時には、木から落ちて肋骨を3本折りました。
それでもライブをこなしたという強靭な体の持ち主です。
他にも、イカ釣り漁船でアルバイトしていたりと、ユニークな経験をたくさん積んでいる魅惑のドラマーです。
怒髪天おすすめ曲
『シン・ジダイ』
昭和に結成し、平成でメジャーデビューした怒髪天。
平成を駆け抜けて、令和になっても勢いは衰えません。
そして、時代は移り変わっても、怒髪天の軸はブレません。
哀愁漂う言葉を投げかけながら、一貫して前向きな怒髪天の生き様を感じられます。
『HONKAI』
上原子友康さんのこだわりが随所にみられる名曲です。
心地よいドラムで始まりますが、実はとても高難度なリズム。
リスナーに向けてというよりも、同じステージに立つ同業者に向けた熱い1曲です。
『ひともしごろ』
怒髪天初のストリングスアレンジで仕上げられた壮大なナンバーです。
長い時間を4人で過ごし、様々な経験を重ねてきた怒髪天。
歌詞や音も最高ですが、目を閉じて4人の背中を思い浮かべながら聴いて欲しい1曲です。
『オトナノススメ』
35周年を記念してリリースされた『怒髪天』に収録されているこの楽曲は、怒髪天を愛してやまない、ゆかりのアーティストなど総勢220名が参加した記念の1曲です。
綾小路翔さん・大槻ケンヂさん・川中美幸さん・吉川晃司さん・サンボマスター・スガシカオ・トータス松本さん・奈良美智さん・前田亘輝さん・まちゃまちゃさん・山本譲司さん・ワタナベイビーさんなど、あらゆるジャンルの著名人が集結しています。
これほどの著名人を集められる怒髪天の凄さに圧倒されます。
終わりに…
怒髪天は、決して大ヒットを飛ばしたわけではありませんが、それ以上の記憶をリスナーに刻み続けているロックバンドです。
とうにベテランの域に達していますが、だからといってあぐらをかくこともしない、どこまでも純粋なロックバンドなのです。
彼らの音楽は、非常に多様性があり、R&E(リズム&演歌)を軸としながら、あらゆるジャンルをこなすことができます。
それはもはや、流行り廃りなど関係のない自由な音楽なのです。
まだまだ走り続ける「怒髪天」。
彼らの魅力のすべては、生身でぶつけるライブでこそ感じることができます。
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