聖地と呼ばれる日本武道館は、歴史と著名アーティストたちの活躍があって現在に至ります。
若手もプロも一度はその舞台に立ちたいと、ひとつの目標に掲げるほど、特別な場所として認識されています。
前編の記事では日本武道館がどのような場所なのか、大まかに取り上げました。
後編では現在の日本武道館の傾向について紹介します。
「デビュー間もない若手が複数の公演を行う」それに対して「数十年というキャリアを持つベテランがそれ以下、もしくは初の武道館公演を行う」。
このふたつの事柄に注目していきます。
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目次
若手が短い期間で何度も公演
上述しているように現在の日本武道館では、若手とベテランによる二極化が目立つようになりました。
武道館の建設間もない頃は、ほとんどがベテランによる公演であり、それらが積み重なった歴史があるため聖地と呼ばれるようになりました。
しかし、時代の流れとともに音楽事情も変化し、聖地としての日本武道館がインフレをしていると言っても過言ではありません。
昨今の武道館では若手の武道館への参入が増えています。それも短い期間に同じアーティストが何度も行うようになり、デビュー間もないアーティストであってもステージに立つことができるようになりました。
ジャンルも少しずつ変化しており、アニメソングやアイドルソングの発展も目立っています。歌謡曲やロックだけに留まらず、アニソン歌手やアイドル歌手が公演を行うことも少なくありません。
しかし、これに対して一部では異を唱える声も挙がっています。
とあるバンドは「今では簡単に武道館でライブができてしまう。武道館の価値が下がっている」と発言しています。
後世のアーティストに多大な影響を与えたザ・ビートルズが武道館でライブを行い、そして著名アーティストが築き上げた歴史によって聖地と呼ばれる場所。
時代の流れもありますが、本来であれば簡単に立つことができない武道館というステージが、今では簡単にできてしまうことに不満を持つ人は一定数いるようです。
ベテランにして初の武道館公演
また、近年ではベテランアーティストが揃って武道館公演を行っています。とは言っても、若手のように短い期間で何度も行うというアーティストは少ないように思えます。
そして驚くことにそのほとんどが、初の武道館公演なのです。下記にその有名アーティストたちの一部を掲載していますので御覧ください。
- DEEN(2008年)
- the pillows(2009年)
- 怒髪天(2014年)
- スピッツ(2014年)
- フラワーカンパニーズ(2015年)
- THE COLLECTORS(2017年)
- Theピーズ(2017年)
上記のアーティストが近年、初の武道館公演を行いました。
どのアーティストもデビューから15年以上が経過し、2000年以前から活躍を続ける実力派揃いです。集客力も充分にあり、実績も兼ね備えています。
若手が短期間で何度も武道館公演を行う中、ベテランと呼ばれる域のアーティストたちはなぜこうも少ないのでしょうか。
それに関しては下記の項目よりご紹介しています。
若手の武道館に対する新しい意識
若手ミュージシャンが武道館で頻繁に公演を行うようになったのは、以下の理由が挙げられます。
それは、ライブ人口の増加と武道館に対する意識の変化です。
正確な数字であるか定かではありませんが、『ぴあ総研』が調査したデータによると、2009年から2018年までの間にライブ・エンタテインメント市場の動きは約3000億円から5800億円にまで膨れ上がったそうです。
それに伴ってライブ人口が増加。昔に比べてライブに参加するという敷居が低くなっているということがわかります。
先の記事で、武道館の収容人数はおよそ8,000人から10,000人であると記載しましたが、ライブ人口の増加と敷居が低くなったことによって、人気や実力がそこまで飛び抜けていなくても、武道館のキャパシティを埋めることはそれほど難しくはありません。
そして、ふたつ目の要因である武道館に対する意識の変化。
昔から聖地と呼ばれ、ひとつのゴール地点でもある聖地武道館が、現在では通過点にしか過ぎないという新しい意識が芽生えつつあるのではないでしょうか。
その通過点の先にあるのは何かと言うと、アリーナやドームといった武道館よりも大きな舞台のことを指します。
動画は「米津玄師 2018 LIVE / Fogbound Teaser」の様子です。
また、アリーナやドームに限らず、フェスの存在も忘れてはいけません。フェスも同じく増加傾向にあります。
フェスによって内容に違いはありますが、規模ごとにステージがいくつも分かれているのが特徴的です。
動画は「Official髭男dism ROCK IN JAPAN FES 2018」の様子です。
小さなステージで演奏をしていたアーティストが、翌年には大きなステージに立つことができるというストーリー性は、ファンにとってはたまらないでしょう。
そしてファンとアーティストの距離の近さを感じられるのもフェスの特徴です。SNSの発展によりファンの声もアーティストに届きやすくなり、そういったファンの声に奮起するアーティストも多いでしょう。
「もっと大きな舞台で演奏したい」と志すアーティストが増え、観客動員数では武道館を上回る規模を目指すようになります。
ミュージシャンにとってのゴールでもある武道館が、より大舞台に立つための通過点のひとつであるという認識が、若者の中での新しい意識となっているのかもしれません。
武道館のバトンをつなぐベテラン
そんな中、ベテランと呼ばれるアーティストたちにとって、やはり武道館とは通過点ではなく、ひとつのゴールであるという認識が強いようです。
それはやはり長年の歴史と著名アーティストが積み上げてきた場所であることを肌で実感しているからでしょう。
結成から27年という時を経て、2014年に初の単独武道館ライブを開催したスピッツは、武道館でのMCで「あの頃は良かったなって思うことがあるんですけど、あの日の夜は最高だなって振り返られるライブになったと思う」と語っていました。
その言葉にはこれまでのスピッツの軌跡と、武道館に対する深い想いを感じられます。
また、2009年に結成20年で初の武道館に立ったthe pillowsは、公演中に「長い間、音楽業界の端っこで流行もしない音楽を鳴らしていました。今日、武道館のステージに立って、何かを、何かを成し遂げたんだったら…もし、もしそうなら…俺は嬉しいぞ!」と、武道館に対する特別な想いを吐露しています。
上記のアーティストの他にDEEN、怒髪天、フラワーカンパニーズ、THE COLLECTORS、Theピーズも長年のアーティスト生活を経て武道館の舞台に立ちました。
それはバトンのように「次は俺たちが」と、ザ・ビートルズから始まったロック音楽が今へと引き継がれているようにも感じます。
では、なぜもっと早くに武道館での公演を行わなかったのか。上記のアーティストたちの経歴を見れば、実績も集客力も充分に備わっています。
しかし、そこは言うまでもなく聖地です。また、日本人の感性であるかもしれませんが、「聖地と呼ばれる、あのビートルズが立った舞台に自分たちがおいそれと立つことはできない」という考えがあるからかもしれません。
特に1980年代、90年代を経験したアーティストであれば、その想いは強いかもしれません。
怒髪天のヴォーカル・増子直純さんは、初の武道館公演でこのように問いかけました。
「次、ここでやるのは誰だ?」
結成30周年にしてたどり着いた武道館での公演。俺たちはここまで来た、という気概すら感じさせます。その言葉には武道館での公演を夢見るベテランや若手にも届けているようです。
歴史ある舞台であり、ひとつのゴールとしてある日本武道館。確かにアリーナやドームと比べれば、規模は小さいかもしれません。
しかし、そこで演奏するという意味をしっかりと理解しているからこそ、現在のベテランと呼ばれる古参バンドは、日本武道館を特別な場所として見ており、今の若手世代とは違う形で武道館に臨んでいるのではないでしょうか。
どちらも正しい
時代の流れとともに、日本武道館に対する意識が変化しているのは確かです。
若手が武道館を通過点として考えていることも、ベテランの歴史がつないできた聖地としての武道館。
どちらが正しいかと語れば、どちらも正しいのではないかと思います。
世代によって考え方も感じ方も違います。若手の通過点という考え。一部では聖地に対する考えの違いに、批判的な意見も出ています。しかし、考えの違いこそあれど、どちらも音楽に対する想いというのは違わないはずです。
音楽を好きだから。音楽をファンに届けたいから。そういった想いは、若手もベテランも同じはずです。
武道館に対する姿勢は世代によって変化しているかもしれません。しかし、その会場に集まるファンのために演奏する音楽というのは、今後も変わらないでしょう。
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