【前編】日本武道館 ~若手とベテランの二極化。インフレする“聖地”の理由とは?~

【前編】日本武道館 ~若手とベテランの二極化。インフレする“聖地”の理由とは?~

日本武道館(通称:武道館)は、誰もが一度は聞いたことがある場所ではないでしょうか。

1960年代に建設され、これまでに多くの演劇・演芸・舞踏・音楽などの公演に使用され、日本を代表する公演場所として有名となっています。

また、日本だけでなく海外からも注目を浴びており、著名なミュージシャンが来日した際にも使用されることがあります。

しかし、日本武道館がどういった場所なのかを詳しく知らない人もいると思います。

今回、そんな武道館がいつ誕生したのか、そしてどのような用途で使用されているのかを紹介します。

また、最近の若手アーティストの参入によって変わりつつある日本武道館についても解説を交え、特に「デビューから短い期間での武道館公演」「デビューから数十年後に初の武道館公演を行うベテラン」について記載します。

記事は「前編」と「後編」に分かれていますので、気になる方はぜひ後編まで御覧ください。

日本武道館とは


https://www.nipponbudokan.or.jp/about

そもそも日本武道館とはどういった場所であるのかを知っている人は少ないのではないでしょうか。

多くの人が「音楽のライブやイベントを行う場所」という認識かもしれません。

ここでは日本武道館がどのような用途として建設され、当時はどのような使われ方をしていたのかを簡単にご紹介します。

武道のための施設として建設

日本武道館は、東京都千代田区北の丸公園にあります。

1964年の第18回オリンピック東京大会の際に武道闘技場として建設されました。

当時の東京五輪の際は熱戦を繰り広げたそうです。

特にこの年初めて正式競技として採用された日本の国技・柔道は、4階級中3個の金メダルを獲得するという白熱した試合を披露しました。

また、柔道に限らず剣道・弓道・相撲・空手道・合気道・少林寺拳法・薙刀・銃剣道・古武道の稽古場や競技場としても使用されています。

その他に年間行事の開催場所としても開放され、日本を象徴する公演場所としても知られています。以下の表に主な行事を掲載しました。

日本武道館の主な年間行事

  • 全日本書初め大展覧会(1月~2月)
  • 日本古武道演武大会(2月)
  • 全国高等学校柔道選手権大会(3月)
  • 全日本柔道選手権大会(4月)
  • 全日本合気道演武大会(5月)
  • 全日本少年武道錬成大会(7月~8月)
  • 全日本銃剣道選手権大会(8月)
  • 全国戦没者追悼式(8月15日)
  • 全国警察柔道・剣道選手権大会(9月)
  • 弥生慰霊祭記念柔道・剣道試合(10月)
  • 全国警察柔道・剣道大会(10月)
  • 全日本剣道選手権大会(11月)
  • 全国吟剣詩舞道大会(11月)
  • 自衛隊音楽まつり(11月)
  • 全日本空手道選手権大会(12月)

特徴的な八角形とシンボル

武道館の外観をじっくりと眺めたことはあるでしょうか。

その構造は外側が八角形となっており、屋根の頂点に位置する場所には特徴的なシンボルが飾られています。

これらを設計したのは建築家の山田守さんという方で、隅田川の「永代橋」や御茶ノ水の「聖橋」。そして「東京タワー」などの有名建築を手掛けた人物です。

この武道館は、山田さんが設計の際に「法隆寺」をモデルにしており、なだらかな屋根の稜線は富士山の裾野をイメージしたそうです。

また、八角形で建てられたのには理由があり、このことについて山田さんは次のように述べています。

「武道とは古来、天皇や将軍が南を向いて座り、選手は東西両方から登場し、試合をするもの。こうした日本古来の東西南北の方位を明確にするためには、八角形という形が最も適している」

武道と方位が密接な関係であるがゆえにこのような形になったことがわかります。

そして屋根の上の玉ねぎに似たシンボルですが、これを「擬宝珠(ぎぼし)」と呼びます。

武道館以外に橋の欄干や神社、お寺の境内などで見かけたことがあるのではないでしょうか。

これには諸説ありますが、「仏教で仏像が手に乗せている宝珠が元である」という説の他に、「玉ねぎの持つ臭いが魔除けにつながる」という説があるようです。

どちらにせよ、日本を代表する神聖な場所であることは明白でしょう。

現在は各種音楽イベントでの使用が多数

上記のような経緯があり、日本武道館は聖域と呼ばれるほどに重宝されてきました。

元々は武道を行う場所でしたが、現在ではそれに限らず各種音楽イベントなどに多数使用されています。

音楽に携わる人にとっても神聖な場所として利用され、ここでの演奏や歌唱は特別なものであると、ほとんどの音楽家はここに立つことを望むほどです。

しかし、武道だけでなく音楽家にとっても神聖な場所であると認識されるようになったのは最初からではありません。

では、どのような経緯があって聖地となったのか、その歴史について下記の項目で振り返りたいと思います。

日本武道館での音楽公演の始まり

1964年の東京五輪に合わせて建設された日本武道館は、主に武道の競技場所として使用されていました。

しかし、それ以外の音楽に関係するライブやイベントなどは、いつ頃始まったのでしょうか。

今回はその疑問に関して下記の項目で説明しています。気になる方はぜひ御覧ください。

初の公演は海外の「音の魔術師」

武道館で初のコンサートを行った人物。以外にも、それは日本人ではありません。

海外で「音の魔術師」と称されるレオポルド・ストコフスキー(Leopold Stokowski)です。

20世紀における個性的な指揮者としても有名な彼は生涯現役を貫き、95歳に没する最後まで指揮を振り続けた偉大な人物です。

本人としては100歳まで現役を続けるつもりだったようで、94歳にはCBSコロンビアと6年契約を結び、契約満了時に100歳を迎えるようにしたそうです。

そんな彼が武道館で指揮をしたのは、1965年7月13日。バッハ、ベートーヴェン、カウエル、ストラヴィンスキー、スーザを演奏する日本フィルハーモニー交響楽団の指揮を担当しました。

大きな影響を与えた「ザ・ビートルズ」

レオポルド・ストコフスキーに続き、日本武道館で公演を行ったのは、ロック界に多大な影響を与えたザ・ビートルズ(The Beatles)です。

1966年6月30日、7月1日、7月2日の3日間で計5公演を行いました。

多くのファンに歓待される一方、神聖な日本武道館でポップ・ミュージックを演奏することに批判も相次ぎました。

街宣車が付近を走り回り、「Beatles Go Home」と記された横断幕を掲げて街頭演説を行う者も現れたそうです。

その中にはビートルズ側に脅迫する文面を送る者もいたとのことで、この自体に大規模な警備体制が引かれ、機動隊が出動するまでに発展しました。

また、会場内でも1万人という観客に対して3千人の警官を配置するほどの徹底ぶりで、観客は立ち上がったり近づくことが制限されたそうです。

しかし、この来日公演は日本の音楽シーンに大きな影響を与え、半世紀が過ぎた今でも伝説として語り継がれています。

日本人初の音楽バンド

日本人として初の音楽バンドを演奏したのは、6人で構成されているロックバンド、ザ・タイガース(The Tigers)です。

1967年にデビューをした同バンドは、「僕のマリー」「モナリザの微笑」「君だけに愛を」といった数々の名曲をリリースし、人気が爆発。

その翌年の1968年3月10日に「花の首飾り」の新曲発表会を日本武道館で行いました。武道館での初のコンサートを行った日本人バンドとして有名となります。

しかし、メンバーの脱退などもあり、ザ・タイガースは解散を発表。

1971年1月24日に日本武道館で「ザ・タイガース ビューティフル・コンサート」を開催し、日本人バンドとして初の解散コンサートを行うことになりました。

ソロは「新御三家」の1人

有名ロックバンドが次々と公演を行う中、日本人として初のソロシンガーとしてワンマン公演を行ったのが西城秀樹です。

俳優としての活躍もある西城秀樹は、1970年代を代表するトップ男性アイドル歌手として多くのファンに愛され、郷ひろみ、野口五郎のスターたちと肩を並べて新御三家と呼ばれていました。

そして1975年11月3日に日本武道館で初の公演を行うと、その後11年連続で武道館での公演を開催。「秋(静)の日本武道館」は恒例となりました。

日本武道館が聖地と呼ばれる理由

武道の場所であった日本武道館が、今では音楽家にとってのひとつのステータスとして認知されています。

ここでの演奏や歌唱は特別なものとして、多くの音楽家が目指す目標のひとつでもあります。

そして気付けば「聖地」とまで呼ばれるようになったわけですが、なぜ聖地と呼ばれるようになったのでしょうか。

確かに、東京五輪のために建てられた特別な場所であることはわかります。

しかし、それだけで聖地と呼べるのでしょうか。

そんな疑問に対して、日本武道館がなぜ聖地と呼ばれるのか、解説をしていきます。

収益・集客ができる一流だけ

各種音楽イベントとして使用される日本武道館の収容人数は、現在14,471席となっています(2020年現在)。

ライブなどを行う場合は、セットの配置などを考慮して8,000~10,000席にするのが一般的となっています。

この規模の公演を行うには、収益と集客ができる影響力が必須となり、そのための内容が披露できる実力が備わっていなければ成功することは容易ではありません。

また、使用条件も敷居が高く、会場を借りるだけでもそれなりの金銭が必要となってきます。その他スタッフや設営などを考慮すると、大規模会場での大型興行も充分に勤め上げられる人でなければ使用はできないでしょう。

そのため、武道館での公演を行えるのは、アーティストとしての知名度や収益・集客ができる「一流」か、もしくはそれに届く者でなければ公演を行うのは難しいのです。

この武道館での公演は、アーティストのひとつの登竜門でもあり、ゴールでもあることを意味しています。

著名なアーティストの存在

収益・集客以外にも武道館が聖地と呼ばれるのには理由があります。

それは、これまでに名を連ねてきた著名なアーティストの存在です。

主な著名アーティスト

  • ザ・ビートルズ
  • シカゴ
  • クイーン
  • エリック・クラプトン
  • ディープ・パープル
  • カーペンターズ
  • レッド・ツェッペリン
  • オリビア・ニュートン=ジョン
  • 西城秀樹
  • 矢沢永吉
  • THE ALFEE
  • 忌野清志郎
  • BOØWY
  • 美空ひばり
  • 松田聖子
  • 山口百恵

と、上記に記載されているのはほんの一部ですが、どのアーティストもその時代を熱狂させた人物・グループであることがわかります。

日本人だけでなく、海外の著名アーティストによる来日公演の場所としても多数使用されており、ロックに限らず往年に活躍したアイドルも公演を行いました。

そういった経緯もあり、一流のアーティストが公演をした場所であると箔が付き、新人やデビュー前だけでなく、プロのミュージシャンでさえも、武道館での公演に憧れ目標としました。

そしてその目標の場所である武道館は、いつしか聖地と呼ばれるようになったのです。

「前半」のまとめ

前半では日本武道館がどういった場所であるかの解説と、武道の開催場所であった武道館が音楽イベントの開催場所として使用され始めた頃の紹介。そして、聖地と呼ばれるに至る理由についてを記載しました。

後半では、昨今の武道館について取り上げています。

「デビュー間もない若手が複数の公演を行う」それに対して「数十年というキャリアを持つベテランがそれ以下、もしくは初の武道館公演を行う」。

これらふたつの事柄に注目して、その理由や意図についてご紹介します。

気になる方はぜひ御覧ください。

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