3月9日に発表された、芸術選奨という賞をご存じですか?
令和3年度(第72回)芸術選奨受賞者一覧はこちらです。
贈賞理由・選考経過もぜひご覧ください。#芸術選奨https://t.co/r5kH93FwWX pic.twitter.com/asUwFB7kKu— ぶんかる【文化庁公式】 (@prmag_bunka) March 10, 2022
芸術分野での優れた業績を表彰する文化庁の制度で、毎年、映画や音楽、古典芸能、小説や漫画など、あらゆる分野で活躍した方に文部科学大臣賞や文部科学大臣新人賞が贈られています。
昭和25年(1950年)から始まり、2022年で第72回を迎えた、歴史ある賞です。
名前だけを聞くと、「文化庁」や「文部科学大臣」という単語から固いイメージを受けるかもしれません。
しかし実は、J-POPやJ-ROCKのファンから見ても馴染み深いミュージシャンが数多く選出されてきた賞でもあります。
2022年の受賞者には、ストリーミングサービスやYouTubeでも注目を集め、2021年には紅白歌合戦にも出場したミュージシャン・藤井風も名前を連ねています。
令和3年度(第72回)芸術選奨文部科学大臣新人賞(大衆芸能部門)という素敵な賞をいただきました。ありがとうございました。🍀 pic.twitter.com/MdwOFFvqIk
— 藤井風 (@FujiiKaze) March 10, 2022
今回は、藤井風も受賞した芸術選奨とはどんな賞なのか、どんなミュージシャンが受賞しているのか、ご紹介していきます。
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目次
芸術選奨とは?
初めにもお伝えしたように、芸術選奨は、芸術の分野で優れた業績を挙げた人物に対して文化庁から贈られる賞です。
文化庁は、文化勲章や文化庁映画賞などさまざまな制度によって、優れた芸術家や作品を表彰しています。その中のひとつの制度が芸術選奨です。
では、芸術選奨とは芸術家の中でも特にどんな人物に贈られるものなのでしょうか?
文化庁のサイトを見ると、
演劇,映画,音楽,舞踊,文学,美術,放送,大衆芸能,芸術振興,評論等,メディア芸術の11分野において,その年に優れた業績をあげ,新生面を開いた者に,芸術選奨文部科学大臣賞または芸術選奨新人賞を贈る。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/geijutsubunka/jutenshien/geijutsuka/index.html
と説明されています。
ここで挙がっている11分野を見ると、いわゆる芸術や文化のほとんどの分野をカバーしていますね。
あらゆる分野で活躍する芸術家をたたえる賞だと言えるでしょう。
音楽以外の分野で言えば、脚本家の宮藤官九郎や野木亜希子、漫画家の荒木飛呂彦、よしながふみなど、きっと多くの人が見たことのある・読んだことのある作品に携わっている人々も受賞しています。
過去の受賞者を見ていくと、「この人も受賞していたのか!」という名前がきっと少なくないはずです。
これだけでも芸術選奨がかなり身近なものに感じられるのではないでしょうか。
また、文化庁のほかの制度と比べて、芸術選奨が特徴的なのは「新生面を開いた」人物を対象としているというところです。
これまでにないような作品を作ったり、時代に先駆けるような活動をしたり、新しい表現に挑んだりしている人物に贈られる賞だと言えそうですね。
文部科学大臣賞と文部科学大臣新人賞の違いは?
芸術選奨には文部科学大臣賞と文部科学大臣新人賞があり、今回(2022年)藤井風が選出されたのは新人賞のほうです。
芸術選奨の創設された当初は、新人賞はありませんでしたが、1968年から新しく創設されました。
「新人」という名称のとおり、対象は「新人の芸術家」とされています。
「新人と言っても、どれくらいまでの人が含まれるの?」と思われるかもしれません。
「新人」の条件は、「活動の期間及び実績が比較的少ないこと」「今後活躍が大いに期待されること」のようです。
原則としては、年齢は50歳未満とされているようですが、実際にはもっと年長の芸術家が受賞したこともあるのだとか。
さて、藤井風はと言うと、これまでの「きらり」「何なんw」のヒットや紅白歌合戦出場といった躍進はもちろん、受賞から間もなく新曲「まつり」のMVも公開されるなど、その勢いは留まるところを知りません。
新人賞受賞は、ここ数年の彼のめざましい活躍と今後への期待から考えても納得ですね。
藤井風の受賞した部門と選出理由は?
今回、藤井が選出されたのは、芸術選奨の中でも大衆芸能部門の文部科学大臣新人賞と呼ばれるものでした。
もろてきたでー✨
ありがたすぎー✨ pic.twitter.com/aKRpwsnVHS— 藤井風 (@FujiiKaze) March 15, 2022
ちなみに、先ほどご紹介した芸術選奨の11分野の中には「音楽」という分野もあります。
「音楽部門もあるのに、藤井風が受賞したのは大衆芸能部門?」「音楽部門と大衆芸能部門は何が違うの?」と疑問に思う方もいるのではないでしょうか。
芸術選奨の音楽部門の対象になっているのは、「邦楽・洋楽・オペラ等の演出家、指揮者、作曲家、演出家、舞台美術家等」なのですが、この「邦楽・洋楽・オペラ等」に含まれているのは、大まかに言うとクラシックやオペラ、そして日本の伝統的な音楽です。
日本の伝統的な音楽、と言われてピンとこない方は、雅楽や三味線、箏をイメージしてみてください。
「邦楽」という単語が入っているので、J-POPやJ-ROCKをつい連想しますが、それとは違うジャンルの音楽が対象だということですね。
一方で、藤井が選出された大衆芸能部門の対象になっているのは「落語・講談・浪曲・漫才・大衆演劇・ショウ・ポピュラーミュージック等の作家、作曲家、演出家、演技者等」です。
「大衆芸能」、言い換えれば一般の人々が広く楽しむ芸能なので、こちらの方が多くの人にとってより身近に感じられるものだと言えそうです。
ポピュラーミュージック、つまりJ-POPやJ-ROCKはこちらに含まれるということになりますね。
そんな大衆芸能部門の文部科学大臣新人賞に、藤井はどんな理由で選出されたのでしょうか。
文化庁が公開している選出理由を見ると、「12歳の時から動画配信サイトに投稿し続けてきたピアノ弾き語り映像が話題を集めデビューに至った経緯も含め、まさに今どきの新人音楽家」だと評されています。
さらに、「自作、カバーにこだわらず、いい曲を豊かな歌心と優れた技能でまっすぐ聞き手に伝える」というポップ音楽の美学、動画サイトの登録者数、無観客野外ライブの全世界生中継、紅白歌合戦でのパフォーマンスなども高く評価。
「複雑化したシーンに文字通り新風を吹き込む存在」とも言われています。
まさに「新生面を開く」ミュージシャンとして選出されたということが窺えますね。
芸術選奨の大衆芸能部門 過去に受賞したミュージシャンは?
新人賞を受賞したミュージシャン
芸術選奨は、これまでにも多くのミュージシャンが受賞してきました。
J-POPやJ-ROCKのファンにとって馴染み深い人物としては、例えば2009年の椎名林檎が挙げられます。
2010年以降の大衆芸能部門の文部科学大臣新人賞受賞者も見てみましょう。
2010年 寺井尚子(ジャズ・ヴァイオリニスト)
2011年 平原綾香
2012年 サキタハヂメ(ミュージカルソー(のこぎり)奏者)
2013年 古今亭菊之丞(落語家)
2014年 水樹奈々
2015年 桂吉弥(落語家)
2016年 柳家三三(落語家)
2017年 ナイツ(漫才師)
2018年 桃月庵白酒(落語家)
2019年 宇多田ヒカル
2020年 江戸家小猫(演芸家・動物ものまね)
2021年 米津玄師
太字で強調しているのがいわゆるポピュラーミュージック(ここではJ-ROCKやJ-POP、アニメソングなど)の分野のミュージシャンです。
ミュージシャン全体でいうと、ジャズの演奏家や、変わったところではのこぎりの演奏家など、幅広く様々なジャンルの人物が表彰されています。
ミュージシャン以外では落語家や漫才、演芸の人物が多いようですね。
様々なジャンルの人物が選ばれている中で、J-POPやJ-ROCKの分野で馴染み深いミュージシャンが受賞しているのは、ファンにとっては嬉しいのではないでしょうか。
声優・歌手として活躍する水樹奈々も、アニメソングを広く浸透させ、日本の声優の在り方を変えた人物として表彰されています。
2021年に受賞した米津玄師は、平成生まれのアーティストとしては初の芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞者となりました。
選出の理由としては、ヒップホップ的なセンスと歌謡曲的な要素を継承したメロディ、電子音楽的なサウンドとアコースティックサウンドを融合させた音楽性の斬新さや完成度の高さが挙げられています。
アルバム『STRAY SHEEP』に収録された「迷える羊」など、新型コロナウイルス禍の社会状況を反映した曲についても、沈静化したポップス界の再活性化を促すきっかけになったと評価されました。
この顔ぶれを見ても、まさに新人賞には、「新人の芸術家」として新しい面を切り開いたり意欲的な作品を発表したり、そして受賞後も第一線で活躍している方が選ばれてきているのがわかりますね。
文部科学大臣賞も多くのミュージシャンが受賞
大衆芸能部門では、文部科学大臣新人賞ではなく文部科学大臣賞のほうでも、多くのミュージシャンが表彰されてきています。
こちらの過去の受賞者を見ると、中島みゆき、細野晴臣、坂本龍一、小田和正、竹内まりやなど、かなりのビッグネームが並んでいる印象を受けますね。
2021年には、エレファントカシマシでボーカルを務め、ソロでも活動している宮本浩次も受賞しました。
受賞理由としては、ソロアルバム『宮本、独歩。』の幅広い音楽性、昭和歌謡の女性歌手曲を収録した『ROMANCE』での心情表現などが評価されています。
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そして2022年は、ロックミュージシャンの佐野元春が受賞しました。
1980年のデビュー以来、40年以上にわたって活躍を続けている佐野元春。
コロナ禍にあっても新曲のリリースを重ねたり、日本武道館や大阪城ホールのような大会場でのライブに挑み続けた姿勢が受賞の理由として挙げられています。
2022年4月からは全国ツアーも敢行され、さらに4月と7月に2作連続でアルバムのリリースが決まっているという現在の佐野の活動を見ても、受賞理由には納得でしょう。
また、エピックレコード在籍時(1980年~2004年)のアルバムを網羅した『THE COMPLETE ALBUM COLLECTION 1980-2004』についても、
いつの時代も変わらず、鋭い眼差しと瑞々しい感性で日本のポップ音楽界に有効な方法論を提示し続けてきた自身の「現在」と「過去」を集大成してみせた。
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/93677401_01.pdf
と、高く評価されています。
現在の功績だけでなく、これまで積み重ねてきた作品や活動、音楽界に与えてきた影響も重視されているのがわかりますね。
新人賞の受賞者も錚々たる顔ぶれですが、佐野元春をはじめとして、文部科学大臣賞を受賞しているミュージシャンも長年に渡って音楽業界を引っ張ってきた方や第一線で活躍し続けている方ばかり。
もちろん、芸術選奨の受賞者に限らず素晴らしいミュージシャンはまだまだ大勢いますが、「新生面を開く」芸術家を表彰する芸術選奨に注目すると、今の音楽シーンを盛り上げているミュージシャンの姿が見えてくるかもしれませんね。
まとめ
今回は、3月に受賞者が発表され、藤井風が大衆芸能部門の新人賞を受賞した芸術選奨とはどんな賞なのか、藤井風はどんな理由で選出されたのか、過去にはどんなミュージシャンたちがこの賞を受賞してきたのかをご紹介しました。
「芸術選奨」という名前や、文化庁、文部科学大臣といった単語からつい固いイメージを持ってしまうかもしれません。
しかし、実はJ-POPやJ-ROCKのファンから見ても馴染み深い、日本の音楽シーンの第一線で活躍しているミュージシャンに贈られている賞だということがおわかりいただけたでしょうか?
芸術選奨は毎年発表されていますので、来年からまたどんな人が選ばれるか、注目してみるのもきっと面白いですよ。
もしかすると、あなたの好きなミュージシャンが選ばれるかもしれませんね。
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