福岡を拠点に“ゆるゆると”(公式サイトでもそう表現している)活動を続ける5人組オルタナポップバンドNYAI(ニャイ)。
インディーロック、ギターポップ、オルタナティヴ、パワーポップなど“お好きな人にはたまらない”ジャンルの要素を巧みに消化したサウンドでファンを急増させているバンドです。
ツボを押さえたソングライティングは「きっとこの人たちは音楽偏差値が高いんだろうナー」と思わせるのに十分な匠の技ですが、音楽オタクならではのこだわりとそれを嫌味に感じさせない間口の広さのバランスが絶秒で、いくら聴いても聴き疲れすることがありません。
音楽で世界を変えると意気込むわけでも、誰かの代弁者になるわけでもなく、「何年も聴き続けられる音楽を作りたい」と語る彼ら。
その目標は決して大袈裟なものではなく、NYAIの作品は初めて聴いた瞬間からすでに“長年の愛聴盤”のような顔をして僕らの鼓膜に侵入してくるのです。
ふと気が付けばファンになってしまっている不思議なバンド、福岡からの使者NYAIの魅力を“ゆるゆると”ご紹介します。
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目次
NYAI(ニャイ)・メンバー
- takuchan / ヴォーカル、ギター
- ABE / ヴォーカル、キーボード
- showhey / ギター
- たにがわシュウヘイ / ベース
- アヤノ・インティライミ / ドラム
NYAIは現在、男女混成5名のメンバーで活動を続けています。
女性メンバーはABE、アヤノ・インティライミの2名です。(アヤノ・インティライミとナオト・インティライミに血縁関係は無いと思われます。)
バンドの発起人でもあるヴォーカル&ギターのtakuchanがメインソングライターとして作詞・作曲を手掛けています。
ギタリストのshowheyは音楽専門学校出身ですが、応募の際には「専門学校に通っているので腕には自信あります!」ではなく、なぜか「そんなにガチではないです!」ということを強調していたとか…。
ラインナップが比較的安定しているバンドですが、ベーシストが何度か代わっており、2018年6月に福岡のバンド・ナンジャカのたにがわシュウヘイが加入したことで現在のメンバーになりました。
NYAI(ニャイ)・バンド名の由来
猫の鳴き声を彷彿とさせる可愛らしい響きを持つNYAI(ニャイ)。
特にこれといった由来があるわけではなく、語感が良くて覚えやすいというのが理由だったようです。
結成当時、長い名前のバンドが多かったため、簡単に覚えてもらえるように意図的に短い名前を選択しています。
日本のガールズバンドCHAI(チャイ)やイギリスのメロディアス・ハードロックバンドSHY(シャイ)、ドイツのクロウトロックバンドNEU!(ノイ!)と混同しないように注意しましょう。
NYAI(ニャイ)・結成の経緯
NYAIの歴史が始まったのは2011年、takuchanがmixi(2000年代前半から2010年前半あたりにブームとなったSNS)上でバンドメンバーを募ったことがきっかけでした。
それまでバンド経験が無く“聴く専門”だったtakuchanでしたが、20代後半に失恋したことをきっかけに、ずっと憧れていたバンドをやってみることにしたと語っています。
比較的すぐに集まったというメンバーの中には、男女ツインヴォーカルをやりたいというtakuchanの希望通り、ヴォーカル&キーボートのABEも含まれていました。
ニュートラルで透明感のある歌声が特徴的なABEは、NYAIに加入する前はカラオケサークルなどで美声を披露していたとか…
takuchanは音楽的影響として、NYAIと同じく男女ツインヴォーカルで知られるスーパーカーのほか、くるりやNUMBER GIRLなど90年代後期に活躍したバンドを挙げています。
募集時の条件として「女性ドラマー」を挙げていたtakuchanでしたが、応募してきたアヤノ・インティライミのプレイが想像をはるかに超えてパワフルで、「これはちょっと合わないかもしれない」と思ったそうです。
アヤノ・インティライミは現在もNYAIで素晴らしいドラムを叩き続けており、特に“Yumeshibai”の後半で聴けるエモーショナルなプレイは絶品です。(あれを聴くと何故だか涙が出そうになるのは筆者だけでしょうか…)
コピーバンドとしてスタートしたNYAIは、スタジオ練習した帰りにみんなで飲みに行くというあくまでの遊びの範疇でゆるく活動をしていました。
それが半年ほど続いた後、かねてからオリジナル曲を書き溜めていたtakuchanは意を決してメンバーにオリジナル曲を演奏することを提案します。
オリジナル曲をやりたいという願望を持っていたtakuchanですが、言い出すまでに半年かかったのは「人に聴かせるのが恥ずかしかったから」だと語っています。
オリジナル曲をすぐに音源化することができたのは、ギタリストのshowheyがギターの専門学校に通っており、レコーディングやミキシングに関する知識があったためで、そういった意味ではNYAIは最初からメンバー運に恵まれていたと言えるでしょう。
以後、NYAIはオリジナル曲を演奏する方向に活動方針をシフトし、現在までにアルバム2枚、ミニアルバム2枚を発表しています。
NYAI(ニャイ)・経歴
ゆるくマイペースな佇まいとは裏腹に、結成当初からDIY魂で道を切り開いてきたNYAI。
これまでにリリースされた音源を紹介していくとともに、彼らのこれまでの歩みを簡単に振り返っていきましょう。
結成~初音源
2011年にtakuchanがmixiでメンバーを募集したことで結成されたNYAIは、当初のコピー中心の活動からオリジナル曲を演奏する方向へシフトしていき、2013年12月に初の音源『NYAI!』を無料配布でリリースしています。
NYAIの作品のミックスは『NYAI!』から2017年のミニアルバム『OUT PITCH』までshowheyが、2019年のセカンドアルバム『HAO』からはtakuchanが手掛けています。
メンバーの仕事の都合などでライヴ活動をあまりおこなえなかったNYAIは、“ライヴハウス叩き上げ”として評判を高めるよりも音源制作に重点を置いて活動していく方法を模索しました。
ファーストアルバム~上昇気流へ
それが形となったのが、レコーディングからCDのプレス、さらには流通までDIYで手掛けた2016年のファーストアルバム『OLD AGE SYSTEMATIC』でした。
売れることを意識して作ったという『OLD AGE SYSTEMATIC』は、90年代の空気感と現代のバンドらしい少し冷めた視点を極上のポップメロディでコーティングしたような力作に仕上がっています。
翌2017年には早くもミニアルバム『OUT PITCH』をリリース。
takuchanいわく「億万長者になるほどは売れなかった」という『OLD AGE SYSTEMATIC』の反動なのか、『OUT PITCH』ではローファイでジャンクなサウンドを鳴らすNYAIを聴くことができます。
しかし、それでも中心にはNYAI節ともいえる良質なメロディが流れているのはさすがです。
風向きが一気に変わったのは2018年のことでした。
同郷の大先輩であるSPITZの草野マサムネがラジオ番組やファンクラブの会報でNYAIを大絶賛。
巨大なファンベースを持つ国民的バンドの中心メンバーに認められたことにより、NYAIの名は瞬く間に広まっていきました。
そんな良い流れの中でリリースされた2019年のセカンドアルバム『HAO』は各方面で好意的に受け入れられ、タワーレコードのスタッフがオススメするアーティスト“タワレコメン”に選出されるなど、NYAI旋風が吹き荒れました。
LD&K Records所属~現在
『HAO』の制作とプロモーションに全身全霊を注ぎ込んだ彼らは、アルバムに伴う活動がひと段落したら活動を一時休止しようと思っていたそうですが、運命の歯車はそれを許しませんでした。
なんと打首獄門同好会やかりゆし58など数多くの人気バンドが所属するLD&K Recordsからのオファーが舞い込み、活動休止のプランは棚上げされることに。
LD&K Recordsから2枚のアナログシングル『Pomason / tape drug』、『Yumeshibai / Chinese daughter』をリリースし、再びバンド活動のアクセルを踏み込んでいきました。
2020年はコロナ禍のためライヴ活動を自粛せざるを得ませんでしたが、クラウドファンディング限定アルバム『N¥A!』(ニャア)をリリースし、支援したファンに新しい音楽を届けてくれたNYAI。
完全リモートで制作されたという宅録アルバム『N¥A!』は全曲新曲で構成され、「本当にこれがクラウドファンディング限定でいいの?」と逆に心配になってしまうほどのクオリティを誇る1枚となっています。(2曲目の“青空”は信じられないくらいの名曲です。)
2020年11月18日には早くも3rdアルバム『Head of triangle』のリリースが予定されており、創作面では非常に充実した年になったと言えるのではないでしょうか。
新作にはすでに海外からの予約も舞い込んでいるようで、2021年はNYAIにとってさらなる飛躍の年となりそうです。
NYAI(ニャイ)・オススメ曲
MERRY GO ROUND IN RAINY DAYS
2016年のファーストアルバム『OLD AGE SYSTEMATIC』収録曲で、SPITZの草野マサムネがラジオ番組で取り上げたことにより、NYAIの名を一躍全国区に引き上げた出世作。
あえて明確な役割分担せずに淡々と歌い上げる男女ヴォーカルとその裏で存在感をアピールするギターメロディの空気感が絶妙な1曲です。
威勢の良いガチャガチャしたポップソングなのに、そこまでアッパーな印象を感じさせない温度調整が心地よく、何度もリピートしたくなります。
Yumeshibai
2019年のセカンドアルバム『HAO』収録曲で、2020年4月にはアナログシングルとしてもリリースされている大名曲。
どちらかというと平熱が低めなNYAIの楽曲の中では異質とも言えるほどの熱量を感じさせるのが、この“Yumeshibai”です。
作曲者であるtakuchanがRadioheadの“Creep”を引き合いに出していることからもわかるように、下手をすればバンドの十字架にもなりかねない楽曲ですが、“日本のオルタナティヴロックの名曲”と呼ぶにふさわしい傑作だと言えるでしょう。
個人的には日本のロックバンドおとぎ話の名曲“COSMOS”を初めて聴いた時と同じくらいの衝撃を受けました。
Jackie chan`s J
セカンドアルバム『HAO』のトップを飾るポップチューン。
北アイルランドのロックバンドAshには「Come on Jackie Chan」というサビを持つ“Kung Fu”なる楽曲がありますが、それに勝るとも劣らない新たなジャッキー・チェンにまつわる名曲がこの“Jackie chan`s J”です。
オリエンタルな香りを放つギターメロディと爽やかなバンドサウンドの融合から生まれる破壊力は抜群で、ライヴで盛り上がらないわけがないキラーチューンに仕上がっています。
すべての光景に中華街テイストをねじ込んでくるMVも狂気を感じさせる1本となっており、こちらも必見です。
NYAI(ニャイ)・まとめ
ブレイク間近とも噂されるゆるふわ系オルタナティヴロックバンドNYAI(ニャイ)をご紹介しました。
オルタナティヴロックが本当にオルタナティヴであった時代の空気感をきっちりと反映しつつ、タイムレスなグッドメロディーをそこに惜しげもなく投入してくるNYAI。
90年代の音楽シーンをリアルタイムで経験したファンには懐かしさを、2000年代以降のシーンしか知らないというファンには新しさを感じさせるバンドだと言えるのではないでしょうか。
日本の音楽史に燦然と輝く名曲を残してきたSPITZの草野マサムネさえも虜にしてしまうそのポップセンスを堪能してみてください。
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