「トーキョー・ニュー・ミクスチャー・スタイル」を旗印とし、他に類を見ない別格の存在感で日本ロックシーンを蹂躙し続ける怪物バンド・King Gnu(キングヌー)。
その圧倒的なまでのオーラの秘密を解き明かすべく、King Gnuを長年見続けてきたライターの渡辺和歌氏による寄稿「King Gnuが怪物である4つの理由」を掲載いたします。
目次
King Gnuが怪物である4つの理由
全世界がコロナ禍に見舞われた2020年が過去となった未来では、「King Gnu以前、King Gnu以後」という言葉が語り継がれているのではないでしょうか。
「白日」の大ヒット、「NHK紅白歌合戦」出場、「CEREMONY」のダブル・プラチナセールスなど、J-POPを何気なく聴く層にまで浸透したという意味で、King Gnuは注目を集めるバンドのひとつです。
様々な分野でミレニアル世代やZ世代というデジタルネイティブが台頭するなか、2010~2020年頃に邦楽のクオリティが格段に高まったと感じている人も多いはず。
そのなかでもKing Gnuは怪物、唯一無二の異形の存在です。
他のバンドと何が違うのか、決定的な理由を4つ独自に分析します。
【理由1】多様かつ濃密な音楽性!モンスター4人が集結
King Gnuが怪物という1つ目の理由は音楽性そのもの。
J-POPの範疇に収まるボーカル曲でありながら、ロック、ジャズ、ソウル、R&B、ファンク、ヒップホップ、クラシック、エレクトロニカなど様々な要素がカオティックに溶け合っているところが醍醐味です。
4分30秒前後のボーカル曲は30~40トラック程度が平均的ですが、King Gnuの楽曲は最低でも70トラック以上、音に厚みがあります。
極上のポップミュージックとしてメロディーを追いつつファンクのリズムに揺れたり、懐かしさと新しさ、美しさと騒々しさなど相反するニュアンスの混在に痺れたり、楽しみ方は様々。
聴き込むたび凝りに凝った音作りに酔いしれることができます。
音楽的な才能や環境に恵まれ、努力を積み重ねた結果、類まれなる音楽モンスターと化した4人だからこそ奏でられるハーモニー。
異なる得意ジャンルを阿吽の呼吸で積み重ねる偉業に心躍ります。
1992年生まれの常田大希、勢喜遊、新井和輝、1993年生まれの井口理、4人ともデジタルネイティブ。
子供の頃から古い曲も新しい曲と同じように聴き、DTMに親しみやすくなった世代です。
King Gnuという怪物を構成する音楽モンスター4人のルーツを探ります。
パンク魂あふれる創造主!常田大希
常田大希のルーツはJ-POP以外の音楽全般。
J-POPもヒット曲を作るため集中的に聴いた時期があり、人生そのものが音楽というほど生粋の音楽家です。
父がジャズ、母がクラシックのピアノ演奏家で、家にたくさん楽器があったという環境も影響しているでしょう。
弦楽器のなかではチェロの音色を好みつつ、ギターはジミ・ヘンドリックスやレッド・ツェッペリンなどのサイケデリックロックがルーツ。
ウッドストック・フェスティバルの映像を観て衝撃を受け、インドへバックパック旅行に出かけた経験もあります。
・ヒップホップ:フライング・ロータス、ケンドリック・ラマー
・ロック:ゴリラズ、アークティック・モンキーズ
・ジャズ:ロバート・グラスパー
・エレクトロニカ:ジェイムス・ブレイク
・クラシック:ストラヴィンスキー
ジャンルを問わず吸収しているものの、クラシックの再現性よりジャズの即興性やロックのライブ感を重視する傾向にあります。
クラシックのオーケストラサウンドとビートルズおよびフィル・スペクターの多重録音、どちらも曲作りの参考にしているところが常田大希ならではの着眼点。
King Gnuは常田大希が全楽曲を作詞・作曲、DTMでデモ音源を作り、メンバー全員で編曲するスタイルです。
・King Gnu:Srv.Vinci、Tokyo Chaotic!!!(SXSW出演時)、Mrs.Vinci
・millennium parade:Daiki Tsuneta Millennium Parade(DTMP)
・PERIMETRON:クリエイティブレーベル
すべては主宰者の常田大希がゼロから創造しています。
2010年代初期からディディーの地下室、中野裕太らとのGas Law、大学時代に同級生だった石若駿や江﨑文武(WONK)とも活動し、ジャズセッション界隈で勢喜遊に出会うという試行錯誤もありました。
エッジの効いた未来音楽のようなmillennium paradeを聖域としつつ、J-POPと邦ロックの大衆性を取り入れたKing Gnuも並行させるパンク魂の持ち主。
破壊と構築を繰り返し、創造の道へと人々を誘う鬼才・常田大希なら、怪物集団のカリスマとしてムーンショット並みの音楽を生み続けてくれるでしょう。
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踊り踊らせるハイブリッドドラマー!勢喜遊
アコースティックとエレクトロニックの融合ハイブリッドドラムを操る勢喜遊。
得意ジャンルはR&Bとファンクです。
世界的リバイバルブームのニュージャックスウィングやネオソウルの手法を取り入れるなど、従来のJ-POPらしからぬ斬新なグルーヴが持ち味。
両親ともブラジル系ラテン音楽のミュージシャン、ドラマーの父はダンス経験者です。
子供の頃から電子ドラムを叩き、小中学校時代にプロのヒップホップダンサーを目指したこともあります。
常田大希に出会ってからサンプラーを覚えたり、正月返上でドラムを練習したり、腕前の上達に余念がない努力モンスター。
奇抜なヘアスタイルやファッションはスペシャリストに任せており、自らの意思はとくに反映されていません。
そもそも外見に無頓着すぎたから真面目におしゃれに取り組んでいるところも努力モンスターたる所以。
ヒップホップダンスのアップ&ダウンというリズムの取り方がドラムにも自然と役立っているなど、踊るようにドラムを叩くことでオーディエンスを心地よく踊らせる怪物です。
重低音のグルーヴマエストロ!新井和輝
5弦ベース、シンセベース、ときにはウッドベースも渋く決める新井和輝。
得意ジャンルはジャズです。
東京・福生で生まれ育ち、高校時代にライブハウスで出会った日野賢二の弟子になるという早熟ぶり。
東京経済大学に通いながら国立音楽大学のジャズバンドに所属し、ジャズセッション界隈で勢喜遊に出会います。
・ジャズ:ロバート・グラスパー、ベッカ・スティーヴンス
・2010年代以降のネオソウル:フランク・オーシャン、アンダーソン・パーク
・1990年代ネオソウル:ロイ・ハーグローヴ、ディアンジェロ、ジャミロクワイ、エリカ・バドゥ
・最先端ヒップホップ:ケンドリック・ラマー
・1990年代ヒップホップ:アレステッド・ ディベロップメント、2パック
ごく一部にしかすぎない音楽遍歴からも、才能・環境・努力の三拍子がそろった音楽モンスターぶりが伝わるでしょう。
一般的な4弦ベースより1本弦が多い5弦ベースとシンセベースならではの重低音、多様な音楽性に裏打ちされた渋いグルーヴを生み出す怪物です。
高音ボイスの奇行種!井口理
女性のような透き通るハイトーンボイスが印象深い井口理。
180㎝の高身長やヒゲとのギャップがモンスターっぽいかもしれません。
「ミュージックステーション」出演時、「進撃の巨人」の奇行種を真似て階段から降り、尾崎紀世彦のように朗々と歌いつつ早着替えするなど、サービス精神旺盛。
とはいえ派手なパフォーマンスはフロントマンとしてKing Gnuの知名度を高めるためでした。
超高音のメロディーは作詞・作曲者の常田大希が井口理に与えた試練であり、強烈な印象を残すための手法。
もともと得意なバラードや七色の声を駆使したコーラスだけでなく、ロックやヒップホップ、ファンク要素が強めのボーカルも会得しているところが歌唱力モンスターならではの偉業です。
中学時代に常田大希の後輩として合唱部に所属、東京藝術大学で声楽(テノール)を学び、兄・井口達はドイツ在住のバリトン歌手など、音楽三昧であることは確か。
ただ洋楽より邦楽を聴いて育ち、ジャズセッション界隈を経ていない点は他の3人と異なります。
幅広い層に親しまれる人柄も、King Gnuの人気が爆発した要因のひとつです。