透き通るような歌声に複雑な感情を掬い上げる歌詞、重厚なオルタナティブサウンドで人気を集める羊文学。
Vo.Gt.塩塚モエカ、Ba.河西ゆりか、Dr.フクダヒロアによる3ピースバンドで、2017年から現体制で活動をしています。
作詞作曲を手がける塩塚の研ぎ澄まされたワードセンスと、繊細なバンドアンサンブルで織り成される羊文学の音楽。
それは、時に柔らかく包み込むように、時にアンニュイで儚げに、時に晴れやかでポップにと、あらゆる表情を見せながらリスナーの心に寄り添います。
クリスマスをテーマに世紀末の不安感を美しく歌い上げた「1999」は、彼女たちの知名度を一気に押し上げた楽曲で、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?
今回は、そんな代表曲「1999」以外の名曲をご紹介!
鋭くも優しさに溢れ、神秘的な美しさを放つ羊文学の音世界に、どっぷりと浸ってみてくださいね。
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目次
羊文学の名曲 Part.1
Step
最初にご紹介するのは、2017年発売の1st EP『トンネルを抜けたら』と、2018年発売の1stアルバム『若者たちへ』に収録されている「Step」です。
爽やかなメロディー、穏やかな歌声とサウンド、そしてそれらと対照的な楽曲中盤のファズギターの轟音が、聴き手に鮮明な印象を与える1曲。
それまでの曲作りは、怒りやつらさといったマイナスの感情を、マイナスのまま爆音にぶつけるような表現が多かったという塩塚。
しかし、そういった表現にはいつか終わりが来てしまうと感じた彼女は、音楽を長く続けたいという気持ちから制作方法を変えたのだそうです。
視野を広げ、プラスの感情や自分が見聞きしたものから曲を作る方法に変えた彼女。
それは20歳頃の出来事で、ひとつの分岐点だったのかもしれません。
そのような変化を経て作られたのがこの「Step」。
別れを繊細に描いた歌詞には、思い通りにいかない葛藤や心のわだかまりを感じながらも、そういった現実を受け止めて前へ進もうとする気持ちが感じられます。
この楽曲が聴き手に寄り添うような印象を与えるのは、そんな人間らしさが滲み出ているからなのでしょう。
そして、次のステップへと踏み出せるよう、そっと後押しをしてくれるのです。
歌詞に沿うように入れられたコーラスワークは、ノルウェーのインディーポップバンドTeam Meの楽曲中に入る合唱コーラスに影響を受けているのだそう。
そんなコーラスも、楽曲に親和的な印象を加えています。
初期の代表曲でもある「Step」は、若者特有の感覚をありのままに映し出すことによって、麗しい表現へと昇華した楽曲。
いつまでも心の奥底に居続ける未熟な部分にそっと触れ、温めてくれるような1曲です。
恋なんて
「恋なんて」は2020年リリースの4th EP『ざわめき』に収録されている楽曲。
羊文学の中では珍しい恋愛について歌った曲で、終わりを迎えようとしている男女の関係を描いています。
恋人への振り切れない気持ち、壊れゆく関係を認めきれない様子。
<最早呪いに近いね>
<僕も君にかけてたの?それは祈りに近いね>
呪いでもあり、祈りでもある、そんな恋愛のリアルな形に思わずどきりとさせられます。
心が傷ついているからこそ、”恋なんて”と言わずにはいられない様子が切なく、聴き手はそんな主人公に共感と愛しさを覚えてしまうものです。
しかし、悲しみを悲しみだけで終わらせないのが羊文学の音楽。
ドラムは軽快にリズムを刻み、ギターは和やかなアルペジオを奏で、ベースは優しく、そして力強くそれらを支えます。
そんな朗らかなサウンドは、感傷的な気分も乗せながら、しっかりと前へと足を運んでいくかのようです。
「恋なんて」は、切なさを帯びながらも、心地よい空気感やキャッチーさが光る1曲です。