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クリープハイプ名曲厳選10選 Part.2
憂、燦々
2013年発表のメジャー2ndアルバム『吹き零れる程のI、哀、愛』に収録。CMソングとして書き下ろした3枚目のシングル曲でもあります。クリープハイプの世間での知名度を一気に上昇させた楽曲といっても過言ではありません。きらきらとしたギターの音色が夕暮れ時を思わせるような、哀愁漂う雰囲気を纏っておりハイトーンのヴォーカルがそれを強調しています。
<連れて行ってあげるから / 憂、憂、憂、憂、憂、燦々>
<離さないでいてくれるなら / 何でも叶えてあげるから>
サビでは一途に想い続ける女性の心情が歌われています。好き勝手生きる男性に恋をしてしまい、自分だけを見ていて欲しいけれど思い通りにいかず、未来の話をしてもまともに聞いてくれず、それでも一緒にいてくれるなら、とやさしく語りかけているように聞こえます。しかし、それは徐々に自分に言い聞かせるための言葉へと変わっていき、最終的には叶わない約束となりただ憂いだけが燦々と降り注ぐ結末になってしまいます。理不尽な結末に感情のすべてをぶつけるようなラストは必聴です。
この楽曲も、ストーリーを追うごとに繰り返される詞の意味合いが変わってゆく構成になっています。MVもあわせて見ると、とにかく胸が締め付けられるような切なさとやるせなさがより伝わってきます。
社会の窓
こちらもメジャー2ndアルバム『吹き零れる程のI、哀、愛』に収録。メジャー2枚目のシングル曲でもあります。
ビートの効いたバンドサウンドに、マシンガンのように言葉を連ね続けるヴォーカルが特徴的な楽曲です。歌われているのは、インディーズ時代から追いかけていたバンドがメジャーデビューした途端に手のひらを返したようにこき下ろす女性、というインディーズバンドファンあるあるそのもののような人物の日常と非日常、そしてそんな人物への尾崎世界観の主観とも言える痛烈な意思表示です。
<どこにも行かない悲しみとどこにも行けないあたしの事は>
<アルバムの7曲目位で歌われる位がちょうど良い>
<だからあたしのこの気持ちは絶対シングルカットさせないし>
大好きなあのバンドのメジャーデビューシングルが売れて、なんだかあのバンドが自分だけのものではなくなってしまったという感覚が分かる方は少なからずいるのではないかと思います。しかしそもそも最初から自分だけのものではないですし、ましてや「あのバンドは終わった」と言いながらアルバムの7曲目を自身に重ね、「シングル=大衆ウケのための楽曲」のような歪んだ認識がゆえにシングルカット「させない」とまで言い放つとなると少々暴走気味ですよね。そういったちょっとズレた人たちを「余計なお世話だよ」と一蹴するのですが、サビで連呼される通り、暴走気味でもファンはバンドを愛してくれていて、バンドも応援してくれているファンを愛しているのです。
愛し合っているはずなのにすれ違ってしまう、という普遍的なテーマをバンドとファンで表現した斬新な切り口が痛快な楽曲です。
二十九、三十
2014年に発表されたメジャー5枚目のシングル『エロ/二十九、三十』に収録。フリーマガジンの企画で30代男性への応援ソングとして書き下ろした一曲です。当時、尾崎世界観も30歳を迎える年齢であったことから自己を投影したかのような詞が散見されます。
バンドを始めても最初はなかなかうまくいかず、挙句一人で活動していた時期もあったという長い下積み期間を経た尾崎が書く詞だからこそ説得力のある、今少しだけでも前を向いていくためのヒントが詰まった楽曲です。いつでもない「いつか」や誰でもない「誰か」を待ち続けても仕方なく、とにかく目の前の事に真摯に向き合うこと、そうしているうちに生まれた根拠のない自信は、たしかに信じていいものだという珍しくストレートにポジティブな詞を「恥ずかしい」と曲中でわざわざ歌ってしまうのも、尾崎世界観らしいひねくれ方です。
<嘘をつけば嫌われる / 本音を言えば笑われる>
<ちょうど良い所は埋まってて / 今更帰る場所もない>
多くの人が共感したであろうこの一節。波風を立てず、周囲のご機嫌を窺いながら世渡り上手には生きられない人間の葛藤が描かれています。しかし帰る場所もない、ということは進むしかないということです。前に進むことで何かが必ずあるよ、と説教慣れしていない先輩が照れ臭そうに教えてくれているかのようです。
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