ラウド系アイドル特集 「アイドル戦国時代」を駆け抜けた轟音系グループを徹底解説!

ラウド系アイドル特集  「アイドル戦国時代」を駆け抜けた轟音系グループを徹底解説!

「アイドル戦国時代」と言われ、地上・地下ともにさまざまなアイドルがしのぎを削った2010年代。アイドルグループが乱立すると同時に、彼女たちが歌う曲のジャンルも多様化していきました。

その中でもひときわ異彩を放ったのが、メタルやハードロックなどの激しい曲を歌うラウド系アイドル。可憐な見た目からは想像もつかない、圧倒的なライブパフォーマンスを披露するグループも少なくありません。

アイドル戦国時代といわれて約10年が経った今、激動の時代を駆け抜けたラウド系アイドルの歴史を振り返っていきます。

2010年~アイドル戦国時代の幕開け~

「アイドル戦国時代」という言葉が使われるようになったのは、今から10年前の2010年頃。
モーニング娘。・Perfume・AKB48・ももいろクローバーZなどの台頭により、複数人のグループで活動するアイドルが業界のメインストリームとなりました。

CD不況といわれる昨今の状況でも、アイドルグループのCD売上は非常に好調。
2010年の売上トップ10が「AKB48」と「嵐」の2グループで独占されるほど社会現象となりました。

各レコード会社や芸能事務所は、「この波に乗れ」といわんばかりにアイドルグループを量産します。
人気絶頂のAKB48の公式ライバルとして誕生した「乃木坂46」をはじめとする坂道シリーズはもちろん、モーニング娘。を擁するハロー!プロジェクトも新グループを多数結成し、アイドル人気はぐんぐん加速していきます。

このころからアイドルは「圧倒的な個性を見せつけないと埋もれる」といった危機感からか、さまざまなジャンルに挑戦するようになりました。
メジャー・インディーズ問わず、「アイドル」という枠にとらわれないパフォーマンスで、それまでアイドルに興味がなかった層を取り込もうとしたのです。

その中の一つが「ラウド系アイドル」でした。
BABYMETALを筆頭に、「アイドル×メタル」「アイドル×ラウドロック」など、一見相容れないジャンルをクロスオーバーし、アイドルの新たな可能性を示してくれました。

BABYMETAL結成

「ラウド系アイドル」の礎を築いたのは、まぎれもなくBABYMETALでしょう。
もともと「さくら学院」というグループで活動していた中元すず香・水野由結・菊地最愛が、グループ内のクラブ活動(新ユニット)として「重音部」を結成。その後、単体のユニット「BABYMETAL」として活動していきます。

少女がメタルを歌い踊る珍しさからか、結成2年目の2012年には早くもサマーソニックに出演。史上最年少の記録で話題となりました。
彼女たちの活躍の場はいわゆるアイドル現場ではなく、もっぱらロックやメタルファンが集まるフェスやイベントでした。
BABYMETALは国内外のメタルファンを巻き込み、2014年にはワールドツアーを成功させるほど圧倒的な人気となりました。

彼女たちの初期の楽曲はというと、もともとアイドルと親和性の高かったダンスミュージックを取り入れたメタルが中心。
アイドル×メタルは当時としては奇抜なアイデアでしたが、普段メタルを聴かない層にも聴きやすいサウンドメイクで、楽曲のクオリティもしっかりと保っています。

 

また、BABYMETALの躍進に欠かせなかったのが「神バンド」と呼ばれるバックバンドのメンバーたちです。
ライブにて生演奏を披露する神バンドのメンバーは、大村孝佳・Leda(元DELUHIなど)・前田遊野など、メタルファンにとっては豪華すぎる顔ぶれ。
近年では、Anthony Barone(Shadow of Intent)といった海外デスコアの最先端を走る人物も神バンドを務めています。

2018年10月にYUI-METAL(水野由結)が脱退し、BABYMETALは2人体制となりましたが、今後もラウド系アイドルのアイコンとして君臨することは間違いないでしょう。

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他のラウド系アイドルは?

さて、BABYMETALが世界的にも成功した裏で、ラウド系アイドルはほかにも誕生していたのでしょうか。

BABYMETAL結成と時を同じくして、WACKから規格外のパンクアイドル「BiS」が誕生。メタルとはまた違った方向で、ラウドロックを歌い続けました。しかし、1期BiSは2014年に解散。ラウド系アイドルで成功するのはなかなかハードルが高いのが現実でした。

そんな中、LADYBABYが2015年にリリースした「ニッポン饅頭」のMVが世界各国でヒット。ダンスを真似した動画、いわゆる「踊ってみた」動画が流行しました。

女装パフォーマーのレディビアードがメイド姿でスクリームを披露するなど、異色のグループとして話題に。
LADYBABYはその年の10月、ニューヨークのライブハウスSOB’sにて初の海外ワンマンライブを開催。チケット500枚を見事完売しました。
11月にはイギリス最大の日本文化フェス「HYPER JAPAN」のメインゲストとして出演するなど、BABYMETALと同等とまではいかないものの、海外でも成功を収めました。

2013年に大阪で結成したPassCode(パスコード)がラウドロック路線に転向したのもこの頃で、徐々に頭角を現し始めます。

BABYMETALが奏でた王道のメタルやメロディックスピードメタルとは一味違うサウンドで、本格的なブレイクダウンやエレクトロサウンドなど、よりコアなメタルへとリーチしました。

このころから、ラウド系アイドルはさらに細分化していくことになります。

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ラウド系アイドルの細分化

BABYMETALが歌ったメタルは、スラッシュメタルメロディックスピードメタルを中心とした、いわば王道メタルでした。だからこそあそこまで多くのファンを獲得し、大規模なフェスに出演できたのではないでしょうか。

2010年代中盤以降はそういったラウド系アイドルの細分化が進み、ジャンル分けも難しくなっていったと思います。

前述したPassCodeが確立したのは、シンセや電子音を前面に押し出した、いわゆる「ピコリーモ」というジャンル。日本ではFear, and Loathing in Las Vegasなどが代表的です。

また、2014年結成のNECRONOMIDOLポストロックブラックメタル・シューゲイザーなどのさまざまな音楽をミックスしたスタイルを確立。黒魔術や宗教的な描写など、アイドルらしからぬ世界観でアイドルファンに強烈なインパクトを残しました。

他にも、激情系の「ゆくえしれずつれづれ」、”楽器を持たないパンクバンド”ことBiSH、デスコア・DjentのBroken By The Screamなど、ラウド系アイドルはさまざまな方向へ進んでいきます。

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”アイドル”から”プレイヤー”へ

ラウド系アイドルが生まれた当初、アイドルとバックバンドは完全に分業でした。
アイドルはクリーンボイスで歌を歌い、バックバンドは超絶テクや重たいリフを弾く。といった感じで、どちらかというと「アイドルとバンドのコラボレーション」という印象でしたね。

それが今では、アイドル自身がデスボイス・スクリームを担当することも珍しくありません。
PassCodeの今田夢菜は、小さな体からは想像できない切れ味で狂気的なスクリームを繰り出します。スクリームの技術は年々厚みを増し、進化しているのも驚くべきポイントです。

LADYBABYの有馬えみりはスクリーチやグロウル、ホイッスルボイスまで操る実力者。力強い煽りはライブバンド顔負けです。

Broken By The Screamでスクリームを担当するのは、低音のグロウルが野月平イオ(のづきだいらいお)、高音が雲林院カグラ(うりいんかぐら)。
共に超本格的な実力で、目を閉じて聴くと女性が出しているとはとても思えません。HOTOKEやSailing Before The Wind、Ailiph Doepaといったアングラシーンの最前線バンドと共演してきた実績は本物です。

こういったアイドルグループは、かつての「アイドルとバンドのコラボ」といった概念を壊し、アイドル自身もバンドのプレイヤーであることを示しました。
アイドルとバンドは一体となり、バンドのフロントマン的な立ち位置に。
そういった背景もあり、かつて「ラウド系アイドル」に懐疑的だったコアなメタルファンも、徐々に彼女たちを受け入れつつあります。

ラウド系アイドルはコロナ禍をどう生きる?

ラウド系アイドルがシーンに浸透してきたとはいっても、そうたやすく生き残れるわけではありません。
現に、ラウド系で圧倒的な人気を誇ったLADYBABYは2020年1月をもって活動を休止しました。

また、コロナウイルスの存在が彼女たちに追い打ちをかけたのはいうまでもありません。
ラウド系アイドルの最大の魅力はライブ。モッシュ・ダイブ・サーフなど、めちゃくちゃになって楽しむのが彼女たちのライブの醍醐味ですが、それができないという状況はメンバーもファンも苦しいでしょう。

他ジャンルでもアイドルグループの解散が相次ぐ中、各グループがこのコロナ禍をどう生き抜くかが、ジャンルの存続にかかっているのではないかと思います。

今後注目のラウド系アイドル

最後に、年々進化するラウド系アイドル界で、筆者が今後楽しみにしているグループを紹介します。

Raymay

2018年末に突如現れたグループ。ラップコアやミクスチャーを中心としたサウンドです。
本格的なラップはもちろん、疾走感のある2ビート、ブレイクダウン、そして時にはレゲエのノリを取り入れた自由なサウンドにも注目です。

ゆくえしれずつれづれ

「だつりょく系げきじょう系」をコンセプトに2015年に結成されたグループ。
悲痛でエモーショナルな激情系ハードコアで、心を強く揺さぶられる歌詞やシャウトが魅力です。

the lyrics

「ガールズポエトリーコアグループ」と自称しており、「アイドル」と言っていいかどうか微妙ですが、the lyricsも今後注目のグループ。シンガーソングライターやモデル、バー店長やDJなど、メンバー構成も異色です。
サウンドプロデュースをしているのは、BABYMETALや西川貴教などの楽曲製作を手掛けるゆよゆっぺ。
叙情系メタルコアとポエトリー融合したサウンドで、「ダンベル何キロ持てる?」のOPとEDを手掛けた烏屋茶房氏が作詞で参加しています。

最後に

ラウド系アイドルの歴史を振り返ってきました。「ラウドロック×アイドル」はこの10年の間に大きく成長したジャンルで、海外にはあまりない日本独自の音楽といえるのではないでしょうか。

シーンのレベルが上がり、競争が激化していく中でどういったアイドルが生き残っていくのでしょうか。
今後もこのジャンルから目が離せません。

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