目次
ナビゲーター
あー この旅は 気楽な帰り道
のたれ死んだ所で 本当のふるさと
あー そうなのか そういう事なのか
1990年のアルバム『BUST WASTE HIP』の一番最後に収録されている楽曲です。
一般的な知名度が高い楽曲ではありませんが、ザ・ブルーハーツのファンの間では非常に人気が高く、“隠れた名曲”として知られています。
朴訥とした曲調のため、最初は「かったるい曲かな?」と思われがちな“ナビゲーター”ですが、聴けば聴くほど好きになるスルメ曲です。
ヒロトのヴォーカルは絶品で、彼が今までにレコーディングした音源の中でも特筆すべきものだと断言できます。
この曲のテーマはおそらく人生についてでしょう。
「自分の人生のナビゲーターは自分自身だ」というわけです。
人生を俯瞰したような歌詞が素晴らしく、上で引用した部分は聴くたびに涙腺が緩んでしまいます。
どうあがいたところで人生は一方通行(気楽な帰り道)なんだから、死んでしまう瞬間まで楽しみ続けるのが一番だよ、というメッセージだと筆者は解釈していますが、みなさんはいかがでしょうか?
泣かないで恋人よ
あきらめきれぬ事があるなら
あきらめきれぬとあきらめる
あきらめきれぬ事があるなら
それはきっといい事だ
1991年リリースの『HIGH KICKS』収録曲で、作詞・作曲をマーシーが担当したムーディーなスローナンバーです。
アレンジが非常に凝っており、初期のシンプルなパンクロックと比較すると、同じバンドだとは思えないほど音楽性が広がっていることに驚かされるでしょう。
タイトルからも推測できる通り、あの手この手で恋人を慰める主人公のイケメンぶりが際立つ一曲となっています。
「あきらめるな!」と歌う応援ソングは数あれど、<あきらめきれぬ事があるなら / それはきっといい事だ>と歌っているのはこの曲だけでしょう。
<それはきっといい事だ>から溢れる無敵の肯定感がこの曲のキモです。
今回の記事を書くにあたり、歌詞を改めてよく読んでみて気付いたことがありました。
これまでは“何かをあきらめようとしている恋人を優しく慰める歌”だと思っていたのですが、読みようによっては、夢を追い続けて恋人に苦労ばかりかけている男が「あきらめきれない夢なんだよ。それはきっと素敵なことだよ。ね?」と言い訳をしているようにも解釈できるのです。
当時はまったく気付きませんでしたが、こんな解釈をしてしまうのも自分が大人になったせいでしょうか…。
1000のバイオリン
誰かに金を貸してた気がする
そんなことはもうどうでもいいのだ
思い出は熱いトタン屋根の上
アイスクリームみたいに溶けてった
ジャケットのデザインから凸盤として知られる1993年のアルバム『STICK OUT』に収録された楽曲です。
CMでも使用されたことのある楽曲なので、聴いたことのある方も多いのではないでしょうか。
オーケストラが参加したバージョンも存在し、そちらは“1001のバイオリン”というタイトルになっています。
この曲で有名なのは<ヒマラヤほどの消しゴムひとつ / 楽しい事をたくさんしたい>というサビ部分だと思いますが、今回ご紹介するのはそこではありません。
マーシーお得意の青春小説のような歌詞が満載で、どこをご紹介するのか悩みに悩んだのですが、映画のワンシーンを思わせる描写が秀逸な一節を選んでみました。
気持ちをストレートに歌うヒロトに対し、マーシーはロマンチックで文学的な歌詞を多く書くことで知られており、その対比もザ・ブルーハーツの魅力のひとつです。
良い事も悪い事もすべて、夏の陽射しに熱されたトタン屋根に落ちたアイスクリームのように手を伸ばす暇もなく溶けていく。
そんな人生のスピード感、万物流転を表現した歌詞だと解釈しています。
この曲の世界観が好きな方はマーシーのソロ曲“さよならビリー・ザ・キッド”も気に入るはずなので、そちらも是非聴いてみてください。
夜の盗賊団
今夜 多分雨は大丈夫だろう
今夜 5月の風のビールを飲みにいこう
とりたての免許で 僕等は笑ってる
夜の盗賊団 たくさん秘密を分け合おう
前作『STICK OUT』と対を成す作品として1993年にリリースされたアルバム『DUG OUT』に収録されたスローナンバーです。
ジャケットのデザインから凹盤としても知られる『DUG OUT』には、アップテンポの楽曲が多かった前作から一転し、ミディアムテンポやスローテンポの楽曲が集められています。
数多くの名曲を生んだ連作『STICK OUT』『DUG OUT』の中でも、“夜の盗賊団”はハイライトのひとつとなる傑出した楽曲で、ザ・ブルーハーツというバンドの到達点だと言っても過言ではないでしょう。
マーシーのペンも冴え渡っており、昼間とは違う顔を見せる夜の海にやって来た若者たちをセンチメンタルに描いています。
慣れない運転で危なっかしく走るレンタカー、生ぬるい夜の空気、たわいもない会話、知らない地方局のアナウンサーが伝える天気予報。
こっそりと家を抜け出し、友達と遊び回った夜に感じたあの表現しがたい“共犯意識”を思い出させてくれる名曲です。
夕暮れ
はっきりさせなくてもいい あやふやなまんまでいい
僕達はなんとなく幸せになるんだ
何年たってもいい 遠く離れてもいい
独りぼっちじゃないぜウインクするぜ
『DUG OUT』収録曲で、ザ・ブルーハーツとしての最後のシングルとなった楽曲です。
ストリングスが大々的にフィーチャーされていた“夜の盗賊団”と比べるとシンプルなサウンドプロダクションが曲の良さを際立たせています。
難しいコードが出てこないなので、ギター初心者でも比較的簡単に弾き語ることができる曲です。
何事も白黒つけたがる世の中で、「わざわざ確かめなくもいい事だってあるんじゃない?」と優しく語り掛けてくるようなヒロトのヴォーカルに心が温かくなります。
独りぼっちじゃない証拠として提示されるのがウインクというあたりに甲本ヒロトという人の稀有な才能を感じるのは筆者だけではないでしょう。
歩く花
ガードレールを飛び越えて センターラインを渡る風
その時 その瞬間 僕は一人で決めたんだ 僕は一人で決めたんだ
ラストアルバムとなった1995年の『PAN』収録曲で、同年にヒロトが期間限定で活動していたバンド、ヒューストンズのライヴでも演奏されています。
レコード会社との契約消化的な意味合いで制作された『PAN』には、メンバーがそれぞれレコーディングした“ソロ曲”が収録されており、名義こそ
となっていますが、実質的には各メンバーのソロ曲のコンピレーションアルバムだと言えるでしょう。
そのような理由から各メンバーの色が強く出た楽曲が収められている『PAN』ですが、この“歩く花”はこれまでのイメージに近いヒロト節を聴く事ができるナンバーです。
ラストアルバム収録曲ということもあり、どうしても解散について歌われている楽曲だと解釈してしまいますが、おそらくその推測が大きく外れていることはないでしょう。
自分を足が生えた花に例え、「咲くべき場所は自分で決めるんだ」という決意を歌っています。
それまで咲いていた場所(=ザ・ブルーハーツ)から離れる決意を表明した曲だと解釈してよさそうです。
現在の環境を変えたいと思いつつも、ガードレールを飛び越える勇気を持てずにいる時に背中を押してくれる曲。
それがザ・ブルーハーツ最後の名曲“歩く花”なのです。
ザ・ブルーハーツ・まとめ
決して色褪せないメッセージ性を宿すザ・ブルーハーツの楽曲の中から、名歌詞10選をご紹介しました。
しかし、“10選”と言いつつも、実はご紹介した楽曲の数が11だったことにお気付きの方はいらっしゃったでしょうか。
お気付きになった方は、高い観察能力の持ち主なのではないかと推察されます。
まあ、「読者のみなさんの観察能力を試してみた」的なことを言っておりますが、どうしても10個に絞り切れなかった…というのが本当のところです。
タイトルに偽りありで申し訳ございません。
音源のリンクを貼れないというハンデがある記事で恐縮ではありますが、これをきっかけにザ・ブルーハーツの世界に足を踏み入れてくださる方がひとりでもいらっしゃったら光栄の極みです。
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