2021年は2020年から始まった新型コロナウイルス感染症の感染が拡大した年で、首都圏では1年の大半が緊急事態宣言下にありました。
音楽業界は打撃が大きく、ライブハウスの閉店や大きなフェスが中止・延期を余儀なくされる状況が続きました。
しかし、イベントやライブ自体はガイドラインに沿って再開しており、アーティストの活動も活発になってきています。
2021年の邦ロック界ってどうだったの?どんな曲が流行ったの?
そんな質問にお答えできるように、2021年に邦ロックでヒット・ブレイクしたアーティストの楽曲をご紹介していきます。
今回の記事では、2021年Spotifyのプレイリスト『J-Rock Now Presents Best J-Rock of 2021』(2021年J-Rock Nowで再生された楽曲ベスト50)の中から注目の5曲を詳細解説。
また、記事の後半ではプレイリストから注目の楽曲もピックアップしました!
2021年、邦ロック界の流行が一目でわかるようにまとめました。
目次
2021年邦楽ロックの傾向
2021年、国内の主なチャートにはJ-POP、アイドルグループの楽曲が多く占めており、邦ロックの目立つヒット曲は少なかったのではないでしょうか。
今回は実際に聴かれた楽曲をランキングしている、Spotifyのチャートをご紹介します。
【Spotify】2021年国内で最も再生された楽曲
1. ドライフラワー / 優里
2. Dynamite / BTS
3. 夜に駆ける / YOASOBI
4. 怪物 / YOASOBI
5. 群青 / YOASOBI
6. 勿忘 / Awesome City Club
7. Butter / BTS
8. うっせぇわ / Ado
9. Stand by me, Stand by you. / 平井 大
10. 炎 / LiSA
【Spotify】2021年国内で最も再生されたアルバム
1. THE BOOK / YOASOBI
2. BE / BTS
3. strobo / Vaundy
4. Life Goes On / 平井 大
5. Love Yourself 結 ‘Answer’ / BTS
6. STRAY SHEEP / 米津玄師
7. MAP OF THE SOUL : 7 / BTS
8. Traveler / Official髭男dism
9. アンコール / back number
10. hope / マカロニえんぴつ
このようにJ-ROCKと限定されたプレイリストの楽曲からは、乖離しているのが現実です。
その中でアルバム7位のOfficial髭男dismは、ロックバンドとして新しい時代の先駆者となっているのではないでしょうか。
2021年邦楽ロックヒット曲5選
Spotifyのプレイリスト『J-Rock Now Presents Best J-Rock of 2021』から選出した5曲の楽曲紹介をします。
Cry Baby/Official髭男dism
最初に紹介するのはOfficial髭男dism(オフィシャルひげだんディズム)です。
2018年のメジャーデビュー後、飛ぶ鳥を落とす勢いでスターダムを駆け上がり、今や邦ロック界を代表するバンドとなっています。
そんなOfficial髭男dismが、TVアニメ『東京リベンジャーズ』のオープニング主題歌として、5月7日デジタルシングルとしてリリースしたのが「Cry Baby」。
Official髭男dismでしか出せない独自性、クオリティの高さを各方面から絶賛され、数多くの賞を受賞しています。
ストリーミングでは2億回以上、YouTubeでも8000万回に迫る再生数を誇ります。
そんな「Cry Baby」は聴きどころがたくさんあり、スペースが許す限り楽曲のすごさをご紹介します!
ずっと聴きどころしかないほどの、聞き逃せないパートが連続!
イントロは遠くから聞こえるマーチ調で軽やかに始まりますが、歌に入ると
〈胸ぐらを掴まれて 強烈なパンチを食らってよろけて 肩を並べうずくまった〉
とかなりシビアな歌詞に。
悔しい思いをしてもリベンジを誓う歌詞は、『東京リベンジャーズ』の内容を想起させます。
また、1曲の中で何度も転調を繰り返していることも話題となりましたが、これも『東京リベンジャーズ』のタイムリープする作品内容を転調で表現しています。
またサビメロの途中にも転調しているため、耳がハッとさせられる感覚に。
その部分の歌詞は、
〈不安定な心〉
と、不安定な音階がかかっており、非常に遊び心のあるメロディとなっています。
作詞・作曲を担当した藤原聡(Vo./Key.)がピアノを弾いているときに間違えたことから、神様のギフトだと考えて採用したそう。
アレンジはプログレッシブですが、とても自然に仕上がっているところが聴きどころ。
間奏のアレンジは、藤原が影響を受けたバンドにも挙げられる往年のロックバンドQUEENのような大胆な展開。
そのような自身のルーツを、ポピュラーな楽曲に昇華させる技が光っています。
また、間奏後のBメロは三連符となり、三拍子に変わったかのように感じさせて、耳を驚かせてくれます。
このような度重なる転調やプログレッシブなアレンジが、幅広い世代に認められているのは、リスナーの耳が成熟してきた証ではないでしょうか。
邦ロック界における新しいスタンダードとして、このような楽曲が増えていくのだとすれば、リスナーとしても楽しみでしかありません。
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PARADISE(Kill The Silence)/coldrain
coldrainは2007年結成、2008年にメジャーデビューした5人組で、日本のラウド・ロックを代表するバンドとして君臨しています。
日本武道館公演も成功を収め、数多くのフェスに出演。
海外公演も行うライブバンドです。
Masato(Vo.)はアメリカ人とのハーフで、ネイティブ発音の英詞が魅力。
そんなcoldrainが9月17日デジタルシングルとしてリリースした「PARADISE(Kill The Silence)」をご紹介します。
MVは新木場にあるUSEN STUDIO COASTの楽屋から開始します。
USEN STUDIO COASTは、都内有数の巨大キャパのライブハウスとして2002年に開業。
オールナイトイベントではageHaと名前を変えることで知られていました。
ステージをどの位置からでも見やすい構造と音が良く、多くの人に愛されるライブハウスでしたが、残念ながら2022年1月定期借地契約満了に伴い閉館になります。
ジャケットアートワークは、USEN STUDIO COASTの顔であるビルボードです。
会場に降りる階段前で、多くの観客がこのビルボードを撮影する光景が定番でした。
今や世界で活躍しているcoldrainが、活動当初の目標としたライブハウスがここUSEN STUDIO COAST。
しかし、今回MVがこの場所で撮影された理由は、近いうちに閉館してしまうからという理由だけではないはずです。
訳詞をピックアップすると
〈耐え抜くんだ また共に歌えるその瞬間のために〉
コロナ禍の2021年は、ライブ会場で観客は発声を禁止されています。
また、バンドが抱える不安も隠さず表現する歌詞にライブキッズは心打たれるはずです。
そんな状況を〈Loud or die〉とラウド系のcoldrainらしい言葉に昇華。
また、共に歌えない現状に対して「(Kill The Silence)」と訴え、ライブハウスという「PARADISE」を取り戻すのだ!という想いがあるからこそ、彼らの主戦場であるライブハウスをMV撮影の地として選んだのではないでしょうか。
彼らの楽曲の中でも疾走感があり、高揚感のある仕上がりとなっています。
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あの街に風吹けば/羊文学
羊文学(ひつじぶんがく)は、2020年にメジャーデビューした3人組オルタナティブ・ロックバンド。
透明感のある塩塚モエカ(Vo./Gt.)の声と、シューゲイザーやドリームポップを彷彿させる独自のサウンドメイクで着実にファンを増やしています。
2021年はFUJI ROCK FESTIVAL ’21にも出演。
8月25日リリースのEP『you love』に収録された「マヨイガ」は、アニメ映画『岬のマヨイガ』の主題歌になっています。
11月24日には羊文学のクリスマスソングであり代表曲「1999」の英詞バージョン「1999 (English ver.)」もリリースと知名度を着実に上げた一年となりました。
2022年に入ってすぐの1月12日にデジタルシングルとしてリリースされた「光るとき」がTVアニメ『平家物語』のオープニングテーマに選ばれたことから、羊文学にとって2022年はさらに飛躍の年となるはずです。
今回はSpotifyのプレイリストに選出された「あの街に風吹けば」をご紹介します!
シンプルなアレンジが多い羊文学の中でも、特に音数も少なくシンプルで軽やかな楽曲で、サビはモエカの高音ファルセットが心地よく響きます。
歌詞も幸せに満ちているように見えますが、本当にそうなのでしょうか?
この楽曲が収録されている『you love』は、「安心出来る場所」としての「家」や「帰る場所」をテーマにしたコンセプトEPとなっています。
Aメロで過去を振り返った後に
〈わたし今とても幸せよ〉
と主張するのは、
〈世界はこんなにも美しいのに 目隠しするのは誰?〉
と問うためでしょう。
この歌詞からは「目隠ししてくる存在」から、自分や身近な人を守りたい気持ちが伝わります。
すなわち「安心出来る場所」を侵す何かを感じていて「美しく幸せな世界」を誰かに邪魔されたくないからこそ〈とても幸せ〉であることを主張しているのではないでしょうか。
続いて
〈風よもっと吹いて あの子を目覚めさせて〉
と歌うのは、自分を越えたもっと大きな視点から平和を訴えているのではないでしょうか。
この楽曲も映画『岬のマヨイガ』のために作った曲で、歌詞を書き直して収録したというエピソードがあります。
そこから考えると「目隠ししてくる存在」とは、災害のようなものなのではないでしょうか?
また、2021年という時代背景を考えると新型コロナウイルス感染症に関連する「何か」とも推測できます。
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離れていても/WANIMA
WANIMA(ワニマ)は、2010年結成の熊本県出身3人組パンク・ロックバンド。
ドーム公演も行い、今や誰もが知るモンスターバンドに成長しました。
そんなWANIMAの今回紹介する楽曲は、8月18日にリリースされた7thシングル『Chopped Grill Chicken』収録のリード曲「離れていても」。
『Chopped Grill Chicken』は、2020年9月よりリリースを開始した三部作『Cheddar Flavor』、『Chilly Chili Sauce』に続く完結編となります。
「離れていても」は、WANIMAらしいメロディとハーモニー、パンク・ロックサウンドに多幸感と勇気が湧き出る楽曲に仕上がっています。
WANIMAは、8月にメンバーが全員新型コロナウイルスに感染。
それに伴い、イベントの出演キャンセルやワンマンライブが延期となりました。
そのような背景を踏まえて歌詞を聴くと、コロナ禍で会えなくなった人、離れてしまった人、ライブに参加できないファンへの想いとも取れます。
〈止まない雨があることを知った〉という歌詞の通り、MVでも雨ざらしでの演奏シーンがあります。
WANIMAの素直でまっすぐな感謝のメッセージと共に、辛い感情も隠さない内容は、諦めざるを得なかったこと、悲しい想いも楽曲で伝えようとしているのではないでしょうか。
「離れていても」は、実際にはWANIMAのメンバー3人がお世話になった人が志半ばで亡くなったことをきっかけに作られた楽曲だと語られています。
〈離れた今でも 伝わってる 繋がってるよ〉という歌詞は、「俺らが忘れなければ、離れていても繋がっている」ということを伝えようとしているのです。
そして、ライブでは目の前のひとりに歌っているのだそう。
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少年少女/銀杏BOYZ
銀杏BOYZ(ぎんなんボーイズ)は、2003年に4人組で始動したオルタナティブ・ロック、パンク・ロックバンドです。
2013年以降は峯田和伸(Vo./Gt.)のソロプロジェクトになりました。
峯田はステージでは上半身裸と短パンの姿で、生傷が絶えない過激なパフォーマンスが有名。
峯田はミュージシャンの傍ら、映画「アイデン&ティティ」の主人公役で俳優デビュー。
NHK連続テレビ小説『ひよっこ』に出演するなど、現在も俳優活動を行っています。
今回は、 7月21日にリリースされたシングル「少年少女」をご紹介します。
活動歴は長い銀杏BOYZですが、休止期間も長く、まだ11枚目のシングルです。
TVアニメ『Sonny Boy』の主題歌となっているこの楽曲は、とても美しいメロディと浮遊感を包含した青春パンク。
また、銀杏BOYZが持つ暑苦しさや、泥臭いイメージからはかけ離れた爽やかなラブソングに仕上がっています。
どこか懐かしいサウンドの中で〈ダウンロードされた〉という歌詞だけが現代感を醸し出しています。
峯田はリリース当初43歳と中堅バンドの域に達していますが、アニメの世界観をイメージした楽曲制作を行ったとはいえ、『Sonny Boy』の主人公のような爽やかさを表現できるのは驚きでしかありません。
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その他、注目の邦楽ロックヒット
Spotifyのプレイリスト『J-Rock Now Presents Best J-Rock of 2021』より、さらに気になった4曲を簡単にご紹介します。
Renegades/ONE OK ROCK
世界を軸にした楽曲制作で不動の地位を誇る彼らの、この時代に抗う姿勢を示す楽曲。
『るろうに剣心 最終章 The Final』の主題歌でEd Sheeranと共作した今作も、邦ロックの既成概念を覆し続けています。
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東京/Saucy Dog
人気急上昇の彼らがついに、各アーティストのアンセムとなっている定番タイトル「東京」をリリース。
フェスのオープニングアクトだったときから彼らを見ていますが、2022年さらに知名度を上げていくことでしょう。
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積乱雲の下で/クレナズム
2021年注目の4人組ロックバンド。シューゲイザーよりのサウンドで独自性も強く、2022年ブレイクする可能性大です。
名前を呼ぶよ/SUPER BEAVER
メジャー復活後、アリーナ公演を幾度も成功させている彼ら。映画『東京リベンジャーズ』の主題歌でもあるこの楽曲は、彼らのストレートな想いが伝わる名曲です。
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まとめ
今回、2021年の邦ロックのヒット曲をご紹介してきました。
2022年も新型コロナウイルス感染症は収まる気配を見せませんが、さまざまな名曲が生み出されていることは変わりありません。
これからもコロナ禍を乗り越えていく力は、音楽からもらえそうです。
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